第38話 2度目の晩餐 ⑴
「この肉も、焼けてるぞ!」
宮城県からの一時帰宅早々、ジンギスカン奉行し、空いているお皿を見付けるなり、良い焼き加減になったジンギスカンを配っている父。
家族全員に均等に配るわけではなく、
「あっ、何だか気のせいか、僕だけが多めになっているようで、すいません、頂きます!」
緊張も入り混じり、恐縮している感丸出しで、皿に入れられた肉を次々に頬張りながら平らげようとしている土田。
「ねぇ、お父さん、土田君ばっかりじゃなくて、私達も無いんだけど。土田君だって、そんなに引っ切り無しにお肉入れられたら困るよ~」
父の過剰気味の振る舞いに対し、食べる速度が追い付いてはいるが土田が重荷に感じそうで、慌てて澪が空っぽの取り皿を見せた。
「澪は、この家の人なんだから、自分で取りなさい!お父さんは、土田君が遠慮しないようにと思ってよそっているだけだ!」
その言葉で、父が土田を歓迎し、気を遣ってもてなしているのだと分かり、安心した澪。
「お気遣い、ありがとうございます」
土田は礼儀正しい温厚な態度は、母も前回の夕食時に既に気に入っていたが、父も仏頂面をしていながら気に入ったようだった。
「お肉ばかりでなく、野菜も食べてね、土田君」
母が、玉ねぎやもやしをジンギスカン鍋の淵に追加した。
「はい、ありがとうございます!」
家に着いてから30分は経過していも、土田は、初対面の父を前にし、前回、初めて家を訪問した時以上に、
「ツッチー、そんなお礼ばっか言って、硬くならなくていいのに」
土田の緊張感が伝わり、気の毒そうに思った那知が声をかけた。
「本当に土田君は、今時珍しいくらい礼儀正しい少年だな~!いや~、感心、感心!バイト仲間なら、那知も見習って、しっかり男らしくなってくれよ~!大体、那知はいつまで経っても、女みたいに、ひょろっとして頼りない感じだし、人を小馬鹿にしたようなニタニタした顔をいつもしおって~!」
既にお酒の回っている状態の父が上機嫌で、ずっと土田の事を褒め続けている様子に、安心した澪だったが、それに比べ、那知には冷たい態度を取っているのが気になった。
(土田君の事は褒めてくれるのは嬉しいけど、相変わらず、お父さんは、那知への評価は厳しい......いつもの事とはいえ、那知はどう思っているんだろう?土田君だって、那知が
「どうせ僕は、誰かさんとは正反対で、見た目からして、いい加減で軽そうだからね~」
自虐的に那知が言うと、その内容で、以前、澪に話した内容が、澪から那知に伝わっていたのだと気付き、ハッとなった土田。
「あれは、別に悪気があったわけじゃないんだ......つまり......」
「僕だって自覚してるから、今更、その事をフォローしなくてもいいよ、ツッチー」
那知への返答に困っている土田の様子を見て、その件を那知に伝えていなければ良かったと後悔した澪。
その一方で、父は、お酒が進むと、ますます土田に絡み出した。
「ところで、何だ~、え~っと、土田君は、将来の夢は有るのか?」
(えっ、土田君の夢......?お父さん、たまにはイイ事、言ってくれる~!)
興味津々に土田の言葉を待つ澪。
「あっ、はい。以前、気象予報士の試験に受かっていたので、出来れば、その道に進めたらと」
ここは、父に対する一番のアピールポイントと思い、澪も加勢する。
「土田君って、スゴイの~!なんと、気象予報士試験を中2で合格したんだから!」
「えっ、澪ちゃん、その事を知っていたの?」
自分で話した覚えが無く、澪の発言が意外そうな表情の土田。
「えっ、だって、それは......中学の時に、担任が話していたから......」
(わ~っ!わ~っ!わ~っ!私のバカバカバカ~っ!中学の時から、土田君の事をずっと追ってたって事、土田君にバレてしまうじゃないっ!)
今のは明らかに失言だったと気付き、ハラハラしている澪。
「そうかそうか~、土田君は、やっぱり優秀なんだな~!こう見えて那知も、中学の頃までは、文武両道だったようが、いつの間にか道を踏み外してしまいやがって、今だに、女みたいにナヨナヨしてるし情けない奴なんだよな~」
台所で、食後のフルーツの用意している母を手伝っている那知へと、聞こえよがしに言った父。
(お父さん、那知の女装趣味の件とか知らせずにいて正解だったかも......お母さんと違って、そういうのに対して理解し難い昔気質だから......)
「いえ、決してそんな事は無いですよ!僕自身、見習いたいところが多いくらい、園内は、よく出来ているんです。バイト先でも、園内がいるだけで別空間のように華やぎます」
土田の反論に対し、複雑な心境になった澪。
(今の聞きたくなかったな......土田君が、バイト先で、本当に那知の事ばかり見ているのが伝わって来るようで、なんかイヤ......)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます