第30話 待ち合わせ場所にて ⑵

 那知と井上の口論にハラハラしながらも、現状についての自分の感情の整理が出来ない澪。

 そこへフードコートからスマホを持って、3人の方へ歩いて来た土田。


「井上さん、今、その事に気付いて驚かされたけど、勝手に僕のスマホいじって、僕のアカウントでツイートしないでもらえないか!あれっ、どうした、2人とも?」


 井上の勝手な行動に注意した時、ふと目に入った澪と那知に驚いた土田。


(土田君、井上さんがスマホいじった事に対して怒っている......良かった、そんな事が有っても、井上さんがやった事なら許すみたいなデレデレの状態じゃなくて......)


「だって、興味有るじゃん、【mokk】がどんな子なのかって。それでね~、私が【クモノスケ】のふりして送ったメッセージに、まんまと引っかかったの!つまり、【mokk】がボッチって事!それって、めちゃウケるんだけど~!」


 先刻のトイレでしたように、再び大爆笑しながら言った井上。


(もうイヤだ......土田君の前で、【mokk】が私だって事、井上さんの口からバラされてしまった......穴が有ったら入りたいって、こんな時の事を言うんだよね......)


 その場から、とっさに逃げ出したい心境の澪だったが、土田が井上を無視し、驚いた様子で澪に話しかけて来た。


「えっ、そうなのか!まさか、【mokk】が園内さんだったとは!こんなに身近に、空仲間がいてくれて、すごく嬉しいよ!」


 井上の予想に反して、土田は大歓迎モードだった。


「土田君......ホントに?......私も、もちろん、すごく嬉しい」


(こんな風に、土田君に言ってもらえるなんて!やっぱり、土田君が大好き!土田君の事を好きで良かった!)


 その場から逃げ出さずにいて正解だったと心の中で有頂天になった澪。


「えっ、何なの、土田君のその反応?マジで?信じられない!そこは、私と一緒にウケてくれるとこでしょ!」


 自分が仕掛けた罠によって、2人の様子が予期せぬ方向に流れていく事に驚く井上。


「ツッチー、言わせろよ~。なんで、ツッチーは、こんな性悪と付き合うかな~?」


 先刻から、井上の言動にほとほと呆れ気味の那知。


「だって、バイトの時に、園内が女子と付き合えって言っていただろう......そんな時に、ちょうどタイミング良く、井上さんから告られたし」


 土田らしからぬような事を小声でボソボソと話し出した。


(土田君、バイト先で那知に言われたから、たまたま告白してきた井上さんと付き合ったというだけなんだ~!な~んだ、土田君は別に、井上さんの事が好きだからってわけじゃなかった~!)


 心の中で万歳三唱をせずにいられない澪。


「だからってさ~、相手は選べよ~!このビッチ女は正直ナイわ~!」


 土田からは、交際を開始した経緯を暴露され、那知からは貶され続け、ずっとボッチと馬鹿にしていたつもりの澪は、自分が仕掛けた罠にかかったものの、予想外にも土田と意気投合し、行き場を失い逆上する井上。


「皆、あたおか過ぎ!この私がよ、ないがしろにされるって何?マジおかしくね!」


「はいはい、このタイプの女子は、お一人様になるの不慣れだろうからね。僕がちゃんと送って行ってやるよ」


 澪と土田を2人残すシチュエーション作りの為に、井上と手を繋いだ那知。


「あっ、そ~ゆ~事?もしかして~、ツンデレ君なんだ!もう、言ってよ~!」


 それまで怒りを顕わにしていた井上と同一人物とは思えないほど、甘い声を出して那知の腕に絡みついて来た井上。

 目の前で展開されている、井上のそんな変わり身の素早さに驚きながら、その場に立ち尽くしている澪と土田。


「なんか、色々驚かされたな~」


 思わず見つめ合って笑った澪と土田。


「井上さん、帰ってしまったけど......」


(那知に説得されて、たまたま井上さんと付き合い始めたとはいっても、あんな状態で、那知と井上さんを一緒に返してしまうのは、土田君にとっては、どうだったのかな......?)


「いや~、知らなかったよ!園内が井上さんを好きだったとは!」


 土田の発言に耳を疑った澪。


(えっ、土田君って、本気で、そう思っているの?那知が、井上さんを好きなんて......それは全く有り得ないと思うんだけど......)


「僕は、別に、井上さんに声かけられて付き合っただけで、そんな好きとかの感情でじゃないから、うん......園内が付き合う方が、ずっといいと思う」


 少し考えている様子を見せた後、真面目顔で話し続けた土田。


「あっ、でも、那知は、どちらかというと井上さんの事はキライそうだけど......」


 土田の勘違いだということを知らせたい澪。


「あんな仲良さそうに、井上さんと身体寄せ合っていたのに?」


 付き合っていた土田といる時よりもずっと密着度が高かった那知と井上を思い出し、澪の言葉に驚いている土田。


(それは、私と土田君を2人きりにする為の那知なりの演出だから......なんて事、口が裂けても土田君に言えないし......)


「那知は、スキンシップとか誰とでも出来ちゃう人だから、あんな風にいちゃついてても、井上さんを好きだからでは無いと思う......」


 取り敢えず無難な感じに土田に伝えた澪。

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