第20話 流れを食い止めようと ⑴
澪は母に、学校を休みたいと申し出た。
予想していたが、案の定、母からは即却下された。
「考えてもみてよ、澪。あなた達3人の中で今朝、誰よりも行きたくない立場なのは、土田君本人と思わない?那知から家に招かれて、土田君としては見込み有りと思って、勇気奮って告白したのに、その母親と姉の面前で、思いっきりノックアウト食らったんだから!」
母親にそう言われて、初めて土田の状況に気付かされた澪。
(私、自分の事でいっぱい過ぎて、土田君の事、考える余裕なんて、どこにもなかった......大好きな人なのに、その人の気持ちも考えてあげる事が出来ないなんて、私は、どこまで自己中なんだろう......)
「......確かに、そうかも知れない。夕べの事で心折れそうだし、私や那知と会うのももう恥ずかしくて、私が土田君だったら、もっと苦しい立場になっていると思う......」
「それでも、土田君は、学校を休みたいなんて弱音は吐かないわよ、きっと」
母親は、昨夕一緒に過ごした数時間だけで、土田の性格をすっかり把握したように言った。
(そう、土田君は、多分、誰よりも心が折れているだろうけど、絶対に逃げるような真似はしない人なの!そんな真っ直ぐで、とても芯の強い土田君だからこそ、私はずっと惹かれているんだもの......)
土田の事を考えただけで、自分の想いは届かないと分かっていても、まだ胸の辺りが熱くなるのを感じる澪。
(土田君が那知を好きだ分かっても、だからって、私が、土田君を好きでいる気持ちは変わる事なんてない!そうじゃなかったら、今までの私の2年間の想いを全否定してしまう事になるから......)
「澪は、あと、那知の事も考えてあげてね......那知だって、ずっと澪に協力してあげていたつもりが、予想外の事になってしまって、澪に申し訳なく思って謝ったのに、大キライなんて言われて、多分すごく傷付いていると思うわ......」
澪より高校が遠く通学時間が長くかかる那知は、先に朝食を終え家を出ていたが、テーブルの那知の場所には、食べかけのハムエッグが残っていた。
(いつもなら、那知は、絶対に食べ物を残す事なんてしないのに......私だって、那知が悪くないのは、頭では分かっているつもり。でもやっぱり、頭は納得していても、心はやっぱり、まだダメ!那知の事は、土田君の想い人、私にとっては恋敵としか思えない......)
「那知は、いつだって、澪を第一に考えて、協力を惜しまない優しい子なのよ。だから、今回も、自分の気持ちはともかく、土田君の告白を受け入れるような事なんて絶対しないから。だから、那知を突き放さないであげてね、澪」
母の言動は、澪の気持ちを考えているふりをして、那知を
「そんなの、私だって分かってる!分かっているけど......そうやって、お母さんも土田君も、いつだって那知の事ばかり褒めるし、何だか贔屓してるのが見え見えなのがイヤなの!皆して、那知ばっかり......私の事なんて、完全スルーしているもの!」
土田の立場を考え、いつまでも凹んでいられないと思い、登校する事にしたが、自分より味方が多いように思える那知に関しては、まだ許せる心境になれず、ほとぼりが冷めるまで、家の中でも会わずにいられたらと願った。
那知とは、違う高校だった事が少し不便に感じられる時も有ったが、今はいつになくそれが救いに感じられる澪。
こんなにも長く感じた時間は今まで無かったくらい、授業も休憩も昼休みも、いつにも増して苦痛に感じられた。
昨夜以来、大好きなパソコンも起動させず、スマホも時刻の確認以外には触る事すら無かった。
(Twitterの表示が出来て、あんなに便利で頼もしいアイテムと思っていたパソコンもスマホも、今は所詮、ただの機械って感覚に思えてしまうくらい、何もかもが虚しく感じられる......いっそ、私も無のような存在になってしまいたい。どうせ、存在感の無い私なんて、いなくなっても、誰も気付かないくらいだよね......)
昼休みになると、井上を含めた女子の一軍達が、頭にキンキン響く耳障りな声で騒いでいるのが視界に入った。
たまに、彼女らの視線と嘲笑が、自分に向けられているような気がして、いつもなら嫌な気分にさせられる澪。
今日は、いつもとは別の視点から、彼女達を見る事が出来た。
(井上さん、クラスの中では、すごく優位に立っているつもりでいるかも知れないけど、残念ながら、ご執心な土田君からは、あなたも相手にされてないって事を伝えてあげたい......ボッチの私も、一軍の井上さんも、土田君を本当は男子である那知に取られた、ただの負け組同士なんだから......)
いかにも自分はイイ女感を丸出しにしている井上も、土田の眼中に無かったという事で、少しだけ心に余裕が出来て、口元だけ笑えた澪。
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