第18話 初めての晩餐 ⑵
料理が9割方出来上がった予定時刻10分前に、ドアベルが鳴った。
「えっ、早~っ!」
澪が器を用意しながら、アタフタしていると、那知がさっさと玄関に向かった。
「ゴメン、ちょっと早かったかな~?」
腕時計の時間を見て、申し訳なさそうに言った土田。
「大丈夫!後は、油物だけで、お母さんに任せてるから」
那知の後から入って来た土田は、母の方を向いて会釈した。
「初めまして、土田です。良かったら、これを後からどうぞ」
礼儀正しく挨拶し、手土産を渡した。
「初めまして。あら、北菓楼のシュークリーム!これ、美味しくて食べ応え有って、みんな大好きなの~!ありがとう!なんだか、気を遣わせてごめんなさいね」
「こちらこそ、夕食にご一緒させて頂いて、ありがとうございます」
土田と母のやりとりを見て、母の声の出し方や話し方から、土田の事を気に入った様子が感じ取れた澪。
4人掛けテーブルに、母と澪に向かい合わせになるように、那知と土田が隣同士に座った。
(あ~っ、那知、土田君の隣キープしてズルイ!でも、向かいの席の方が、土田君の様子が色々見えて良いのかも~!)
「肉じゃが、好みの味付け!学校から帰ってから、これ、2人で作ったの?」
土田が、澪と那知の顔を見て尋ねた。
「ううん、私は、盛り付けくらいで、澪がメインで頑張ったの!」
澪が答えるより先に、那知が澪を立てた。
「あっ、それほどでも......お母さんが手伝ってくれたから」
(ほとんど、お母さんがやってくれた......なんて事は絶対言えないよね~)
澪は、遠慮気味に笑って答えた。
「揚げたてのザンギ、美味しい!お母さん、こんなに沢山、お料理を作って用意して頂いてありがとうございます!」
「いえいえ、とんでもない!ねぇ、こんな風に美味しいって言われて嬉しいね、澪!土田君って、礼儀正しくて驚いた~!そんなにかしこまらなくて良いのに、我が家は」
土田の緊張をほぐすように、母が言った。
「男兄弟の中で育ったので、女の人の方が多い状態に慣れてなくて、すみません」
土田の言葉に違和感が湧いて来る澪。
(女の人の方が多い......?あっ、那知は女にカウントされているから)
「ツッチーには、少し離れた弟がいるんだっけ?」
「まだ小4だから、可愛いけど、騒がしいよ」
(土田君は、お兄さんなんだ~。確かに、そういう優しいお兄さんの雰囲気が滲み出てる!)
澪は緊張し、なかなか話の輪に入れないが、土田の情報が何より嬉しくて終始ニコニコ顔。
アールグレイを入れて、土田が持参した北菓楼のシュークリームのクリームを落とさないように上手に少しずつ頬張っている澪。
まだ、澪がシュークリームを食べ終えないうちに、向かいに座っている土田は、さっさと食べ終えるや否や、席から立ち上がった。
(えっ、もう帰る時間?早いけど、明日も学校だった......)
今にも帰宅しそうな土田の動きで、もう少し一緒にいたかった澪は、一気に残念な気持ちにさせられた。
「あらっ、もう帰るの?引き留めたいけど、明日はまだ学校があるものね」
土田を気に入った様子の母も残念そう。
「ご馳走様でした!明日学校が有るのに、すっかり長居してすみません」
「またいつでも、是非いらしてね!」
去り際の土田に、母が社交辞令ではなく、本気で誘っているのが分かり、澪は安心した。
「はい、また伺いたいです!」
「ツッチー、また明日のバイト一緒だね、よろしく!」
玄関まで3人で、土田が去るのを見送っていた時だった。
「なっちゃん、あっ、お姉さんもお母さんも一緒に大切な話が有るんですが......」
そのまま去る様子もなく、思い詰めた表情で土田が切り出した。
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