第4話 思いがけない訪問者

 那知にああ言った手前、ワンピースを回収出来なかった澪は、今日だけ取り敢えず中学の時のジャージを引っ張り出して着る事にした。


(ダサいけど、家だし。ラクだから......)


 部屋の姿見に映ったジャージ姿の自分を見た澪。

 先刻のワンピース姿の那知と見比べて、明らかに勝てないと思わずにいられない澪。


(例え同じ服装で臨んでも、那知は男なのに、勝ち目無さそう......。同じ両親から双子で生まれたのに、神様は不公平過ぎる!) 


 ネガティブ思考は避けたかったが、まだ頭に、女装の那知が鮮明に焼き付いている澪は落ち込まずにいられない。


 こんな時こそ、強い味方のクモノスケ!

 澪は、【クモノスケ】のツイートが更新されてないか、チェックした。


 (......やっぱり、さっきのツイートのまま。法事後で忙しいんだよね)


 ガッカリした途端、空腹な事に気付き、冷蔵庫とお菓子置き場をうろついた。


 (また肥えそうだけど、お腹空いたし、夕食までまだ長いし......)


 ポテトチップスを1袋持って、階段を上ろうとした時だった。


「ピンポーン」


 いつもならテレビドアホンの画面をチェックするが、玄関のすぐそばにいたから面倒で、そのままドアを開けた澪。


「はーい」


 ドアの向こうにいたのは、想定外にも土田だった。


 (えっ、うそ......私、好き過ぎて、土田君の幻でも見てるの?こんなリアルに......)


 驚きのあまりに、ポテトチップスの袋を落とし、頭がパニックになる澪。


「ここ、園内さんのお宅ですよね......?あれっ、高校で見かけた事有るような......?」


(土田君......同じクラスになった事は無いのに、私の事、ちゃんと覚えてくれている!嬉しい~!)


 舞い上がりそうな澪。


「はい、皆成高校です!」


 ジャージ姿なのを忘れ、顔が緊張でこわばりながらも明るい声で答えた。


「お姉さんいますか?」


 (私に姉......?何だか嫌な予感......)


「いえ、姉はいないです」


「それじゃあ、妹さんかな......?」


「妹も......」


 (えっ......でも、まさかね......?)


 澪が否定しかけた時、那知のドアが開いた音がした。


「あっ、ツッチー!来てくれたの?」


(なにっ?ツッチーですと!)


 階段を駆け足で降りて来て、澪の横に立った化粧+ワンピースのままの那知。


「なっちゃん、この前、忘れ物してたから」


(なっちゃん......って、那知の事?ちゃん付け!......問題は、そこではない。問題は、明らかに女装姿の那知と土田君が顔見知りって事!それよか......ジャージ姿の私とワンピース姿の澪って、並んだら絶対ダメなやつじゃない!あ~ん、泣けてくる~!)


 カバンからティーン誌を出して那知に渡した土田。


(忘れ物って、那知、いつ土田君の前でしたの?土田君、どうして、届けてくれるの......?いつの間に、家まで教えてるの......?)


 2人の親し気な様子に、疑問が止めどなく湧き上がり頭がパニックになりそうな澪。


「わざわざ届けてくれて、ありがとう♪これ、ちょうど見たかったんだ~!頑張ったんだけど、なかなかうまくメイク出来なくて......」


 今の那知の姿に、ピッタリに感じられる甘めの声を出している。


(その声、どこから出してるの、那知?何だか、私よりずっと女の子してる......)


「キレイに出来ているよ。お姉さんもいる事だし、聞いたり出来て頼れるからいいね~」


 やっと澪の方を見て、気遣うように言った土田。


 (その私は、いつもスッピンなんですけどね!)


「うん、そうなの!お姉ちゃん、今は、ちょっとオフ姿だけど、頼りになるから!」


 わざとらしく澪の腕を組んだ那知。


(オフ姿って......!大体、那知が私のワンピースを着ているせいで、私が、こんなダサいジャージ姿になっているんだから!)


「それじゃあ、また」


 土田は、用事が済むとすぐに出て行き、止めてあった自転車を動かし、その場を去った音がしていた。


「那知~!どういう事?」

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