大人のジャポニカ学習帳

Jack Torrance

漢字って難しい

僕のおじいちゃんは、この街の顔役のマフィア。


頼み事のある人は、おじいちゃんの大好きな物を持参してやって来る。


おじいちゃんの前で跪き、おじいちゃんが差し出した手の甲にキスして、おじいちゃんの大好きな物を置いて帰る。


大好きな物って何だって?


勿論、お金だよ。


この世は金、金、金。


お金があれば人生は薔薇色。


おじいちゃんのポケットにお金が入る。


すると、翌朝には倉庫から大量なブランド品が盗まれたり家が燃えたり川に人が浮いてたりする。


100%の確率でだ。


政治家も富豪もおじいちゃんに泣き付いてくる。


リアル ゴッドファーザー。


そんな、おじいちゃんでも人を愛する心は持ち合わせている。


ファミリー限定だけど…


目の中に入れても痛くない一人娘。


それが僕のママだ。


おじいちゃんの愛する娘であり僕の大好きなママには、おじいちゃんは人一倍、いや人百倍、気を遣っていた。


「娘の亭主にもしもの事があったら俺は娘に何て言えばいいんだ。ぜってえに婿は気質もんとしか結婚させねえ。だから、娘家族にはぜってえに手をだすんじゃねえぞ」


おじいちゃんは5大ファミリーの会合に殴り込み怒鳴り散らして帰って来た。


そういった経緯がありママは大手広告代理店に勤めるパパと結婚した。


パパは蛇に睨まれた蛙のようにいつもびくびくして小動物のように生きている。


そんな怖いマフィアのボスのおじいちゃんの奥さん。


つまりは、僕のおばあちゃんになるのだが、そのおばあちゃんは日本人だった。


つまり、僕は日系3世って事になる。


僕はママがブランド品を高級デパートに買いに行く時におじいちゃんちによく預けられていた。


おじいちゃんは「お小遣いだ」と言って100ドル紙幣の帯封を僕によくくれた。


「おじいちゃん、ありがとう」


僕は飛び切りなスマイルでおじいちゃんに礼を述べる。


そして、おじいちゃんとグータッチしておじいちゃんのボディーガード、ブルーノ“マッドファット”パパラッティと駄菓子屋に行く。


おじいちゃんがこの前の誕生日の時にプレゼントしてくれたベントレーで。


“マッドファット”は、その名の通り狂ったおデブさんだった。


480ポンドの巨漢を揺らし、おじいちゃんに命じられればどんな汚い仕事も熟した。


これは、僕が大人になって知った事なんだけどおじいちゃんの子分でお調子者のスヌーキー“ファットファット”トレモンティと言う奴がいた。


“ファットファット”は、その名の通り“マッドファット”の更にその上を行く570ポンドの巨漢の持ち主で脂肪の詰まったでか腹をゆさゆさと揺らして頓馬でお調子者だった。


僕は太っちょスヌーキーと呼んでいた。


太っちょスヌーキーは“マッドファット”を始め他の子分からもよくからかわれていた。


「“ファットファット”おめえ、しょんべんする時にてめえのポコチン見えてんのか?腹の肉に隠れてみえねえだろ。それに、おめえのちんめえポコチンが太腿の肉に埋没しちまってんのじゃねえのか?」


「“ファットファット”おめえ、うんこした時にてめえでてめえのけつ拭けんのか?日本のスモウレスラーみてえに付き人にけつ拭いてもらわなきゃなんねえのじゃねえのか?」


「“ファットファット”おめえバックでスケとこましてたら腹が邪魔になってスケのオ○○○の奥に当たらねえでスケが欲求不満になるだろ?そもそも、おめえの短小じゃハナから勃起したポコチンでも煙草くらいの長さしかねえから当たんねえよな」


太っちょスヌーキーはウスノロでいつもからかわれ耐え忍んでいた。


そして、太っちょは忍耐の限界を超えサツの垂れ込み屋になった。


おじいちゃんはサツにも根回しをしていて袖の下を握らせていたので太っちょの垂れ込み屋稼業は敢え無くおじいちゃんの耳に入った。


「“マッドファット”おめえ、ちょっと行って“ファットファット”のヤローを消して来い」


“マッドファット”は、ちびのヴィニー、痩せのトミー、そして身長2フィートを超えるのっぽのジミー“ハイタワー”キャンティと一緒に“ファットファット”をバーに誘い出した。


“マッドファット”が下戸の“ファットファット”に酒をじゃんじゃん勧めた。


「“ファットファット”今日は俺がキャプテンに昇格した祝いだ。じゃんじゃん飲めよ」


“ファットファット”は飲めない酒を飲まされいつものお調子者になっていた。


「いやー、ブルーノ、俺はあんたは絶対に幹部になると思っていたぜ」


酔い潰れた“ファットファット”は“マッドファット”ちびのヴィニー、痩せのトミー、のっぽのジミーにその巨体を支えられながらキャデラックの助手席に乗せられた。


“ファットファット”の足取りは鈍重で緩慢だった。


チッ、この鈍い豚やろーがッ。


“マッドファット”は心の中で自分の事を棚に上げて毒づいた。


深夜2時、パトカーに停止させられないようにゆっくりと“マッドファット”はピンクゴールドのキャデラックを転がした。


480ポンドと570ポンドのおデブさんが運転席と助手席に乗っているので前輪は深く沈みナチュラルなローダウンになっていた。


そもそも、後部座席にはちびと痩せとのっぽなので“ファットファット”一人分くらいの重量しかなかった。


そして、一行は街外れの廃屋と化した工場に向かった。


“ファットファット”は暗く静まり返った廃屋の中に両脇を抱えられるように連れて行かれた。


「こんなとこに連れて来て何をするんだ」


“ファットファット”は恐る恐る尋ねた。


「この前掻っ払って来た現生をおめえにもちょっと分けてやるよ。俺のキャプテン昇格の祝儀だと思って取っておけよ」


“マッドファット”が、そう言って裸電球のスイッチを点けた。


裸電球はのっぽのジミーがその長身を活かして昼間の内に取り付けて発電機も仕込んでいた。


ピカッと光ったその瞬間、のっぽのジミーが工場内の壁に立て掛けていたツー バイ フォーで自慢の長身から“ファットファット”の脳天に背後から強烈な一撃を叩き込んだ。


どさりと倒れる“ファットファット”


意識を取り戻した“ファットファット”はロープで両手両足を縛られていた。


壁に背を預けて座らされている“ファットファット”に“マッドファット”が非情な笑みを湛えながら語り掛けた。


「よお“ファットファット”おめえ、垂れ込み屋がどんな結末を迎えるか分かってんだろ」


「た、た、た、助けてくれ。俺は何も喋っちゃいねえよ。お願いだ、後生だから命だけは助けてくれ。か、金をやる。俺の全財産だ、た、頼むよ」


ちびのヴィニーと痩せのトミーの二人掛かりで“ファットファット”のベルトのバックルを外して特注サイズのスラックスとトランクスを下ろした。


“マッドファット”がバタフライナイフを取り出して“ファットファット”の金玉を一突きした。


「ギャアアッーーー」


“ファットファット”の咆哮が静寂を切り裂く。


“マッドファット”が至福の喜びに包まれ金玉を切り取った。


悶絶してのたうちまわり絶叫する“ファットファット”


その手捌きは50年間しがない肉屋を営んできた熟練の域に達した肉屋の親父を思わせた。


「ヒッヒッヒッヒッヒ」


“マッドファット”の悪魔じみた笑いが薄暗い工場内に響く。


“金玉を切り取った後、間髪入れずにファットファット”の短小で包茎なおちんちんを切断して“ファットファット”の口内に金玉とセットで詰め込んだ。


この世のものとは思えぬ激痛に身を捩らせ悶え発狂する“ファットファット”


“マッドファット”が冷酷な語調で“ファットファット”に地上で最期に聞こえる言葉を吐き捨てた。


「これが垂れ込み屋の最期だ。マフィアの掟を覚えておけ、このウスノロ」


“マッドファット”は、そう言って腰に忍ばせていたグロックを抜いて“ファットファット”の喉に銃弾を5発ぶち込んだ。


これが、サツに垂れ込んだりカポを裏切って検察側の証人になったクズヤローが辿り着く終局である。


僕は“マッドファット”の逸話をハイスクール最終学年に聞いて金玉が縮み上がったのを昨日の事のように記憶している。


“マッドファット”は普段は気さくで陽気な男だった。


“マッドファット”は、いつも僕の事をダニーボーイと呼んでいた。


僕の名がダニーで“マッドファット”はイタリア系だったけどアイルランド系のギャングに幼馴染のミッキー オキーフがいて、それでアイルランド民謡の“ダニー ボーイ”が好きだったからだ。


「ダニーボーイ、美味いスパゲッティを食わせる店が4番通りにで来たんだ。食いに行こうぜ」


「ダニーボーイ、この前かみさんのヤローがデパートに行った時に『これ、ダニーボーイに似合うと思うの』なんて抜かして買って来やがったんだ。是非着てくれよ」


おじいちゃんも僕の事をとことん甘やかしてくれたけど“マッドファット”も僕を骨の髄まで甘やかしてくれて無二の親友だった。


「ブルーノ、ダニーをそんなに甘やかさないでちょうだい」


おじいちゃんと“マッドファット”は僕の教育方針でおばあちゃんにいつも窘められていた。


そんな教育熱心なおばあちゃんはたまに着物を召したりする気品に溢れたお淑やかな女性だった。


おばあちゃんにはおじいちゃんに無い威厳があった。


おじいちゃんとおばあちゃん、そして“マッドファット”との楽しい少年の日々は永遠のように感じた。


そして、その少年時代に僕はある一冊の素晴らしい本とめぐり逢った。


それは、僕の11歳の誕生日だった。


おじいちゃんの大豪邸で僕の生誕祝賀パーティーは盛大に執り行われた。


「ハッピーバースデー、ダニー、これは少ないがわしからの気持ちじゃ」


おじいちゃんは100ドル紙幣の帯封をおにゅーのグッチのバッグに5束入れて僕にくれた。


「おじいちゃん、ありがとう」


僕は地上に舞い降りた天使のようなスマイルをおじいちゃんにお披露目してみせた。


「外を見てごらん」


おじいちゃんに言われるがままに3階のおじいちゃんの部屋の窓から外を見てみると大庭園の向こうに新車のランボルギーニが停まっていた。


「ワオー」


僕は小さく声を漏らしおじいちゃんとグータッチした。


1階のパーティールームに行くと政治家や富豪のおじさん達、僕の学校の親しい友人家族らが出迎えてくれて皆がプレゼントをくれた。


「ありがとう」


僕は一人一人丁重に礼を述べて握手を交わした。


最後にママとパパの順が回ってきた。


ママとパパが僕の喜ぶ顔を待ち切れ無さそうにプレゼントの包を渡してくれた。


「開けてみなさい、ダニー」


ママが気品に溢れた笑みを口元に浮かべてやさしく言ってくれた。


僕は綺麗に包を開けて中を見た。


「ワオー」


僕は、またしても小さく声を漏らした。


ロレックスのコスモグラフ デイトナだった。


僕の喜びを見て取ったパパは小動物のリスを思わせる仕草と表情で僕をやさしく見守っていた。


パーティーが終わりおばあちゃんが僕を自分の寝室に呼んだ。


僕はおばあちゃんの寝室に入った。


「ダニー、お誕生日おめでとう」


おばあちゃんは包装紙に包まれた本をプレゼントしてくれた。


僕は丁寧に包装紙を剥がした。


その本は『ファーブル昆虫記』だった。


「ありがとう、おばあちゃん。大切にするよ。おやすみなさい」


僕はおばあちゃんにハグして丁重に謝意を述べておばあちゃんの寝室を後にした。


その日はみんなでおじいちゃんちにお泊りだったので僕たち家族が泊まる寝室に入った。


その年頃には僕はママとパパとは別の部屋で寝ていた。


僕はキングサイズのベッドに潜り込みおばあちゃんから貰った『ファーブル昆虫記』のページを繰っていた。


すると、部屋のドアをコンコンとノックする音がした。


僕は聞いた。


「誰だい?」


「俺だよ」


その声の主は“マッドファット”だった。


「入ってお出でよ“マッドファット”」


僕は“マッドファット”を部屋に請じ入れた。


“マッドファット”がのっそりと照れ臭そうに入って来た。


背中に何かを隠している。


「ダニーボーイ、ハッピーバースデー。おじいちゃんやおばあちゃん、それにママやパパには内緒だぜ」


“マッドファット”はそう言って包装紙にも何も入ってない剥き出しの本を僕に渡してくれて頭頂部にキスした。


部屋を出る時に“マッドファット”は「おやすみ、ダニーボーイ、良い夢見ろよ」と言ってウインクを投げて寄越して出て行った。


“マッドファット”は『大人のジャポニカ学習帳』と言う本を僕にくれた。


表紙にはへんてこな格好をした魅惑的な女性のフォトグラフィーが載っていた。


おばあちゃんから貰った『ファーブル昆虫記』を枕元に置いて“マッドファット”から貰った本のページを繰って僕はその本の虜になった。


大人の男の人と女の人があんな事やこんな事をアクロバティックな体位で色んなコスチュームを纏ってお披露目しているファンタスティックな本だった。


この晩以降おばあちゃんから貰った『ファーブル昆虫記』を読んだ覚えは無い。


おばあちゃん、ごめんなさい。


今でも読みはしないけど大切にしているよ。


それくらい“マッドファット”から貰った『大人のジャポニカ学習帳』は刺激的で官能的だった。


僕は学校の授業で見せた事のないくらいの驚異的な集中力を以てして大人のあんな事やこんな事を学習して帳面に記した。


活字は日本語で書かれていた。


この本のお陰で僕は漢字に興味を持った。


僕は“マッドファット”とランボルギーニで駄菓子屋に行った帰りに本屋に寄って漢字の辞書を買った。


だが、11歳の僕には漢字は厄介で難解な代物だった。


僕は漢字の意味を生粋の日本人であるおばあちゃんに尋ねた。


「おばあちゃん、枕営業って何?」


おばあちゃんは何も言わずにただ黙っていた。


「おばあちゃん、美人局って何?」


その時もおばあちゃんは何も言わずに無言を貫いた。


「おばあちゃん、亀甲縛りって何?四十八手って何?石清水って何?陵辱って何?輪姦って何?肛門って何?姦通って何?騎上位って何?男根って何?肉茎って何?陰核って何?陰唇って何?口淫って何?」


僕は溢れ出るありったけの思いをマシンガンの引き金を絞り続けたように連発させた。


おばあちゃんは頬を紅く染めて何も言わずに無言を貫いた。


無邪気だった僕にはその言葉が卑語だなんて知る由もなかった。


あれから15年。


僕は大学で日本語を専攻し今では日本語はペラペラだ。


僕は争い事は苦手だったのでおじいちゃんの家業とは縁を切った。


そして、祖国を後にした。


僕は日本の五反田と言う街で如何わしい非合法の店で人様の奥さんからこう呼ばれている。


店長と…


僕の右腕の上腕部には〈昇天〉と漢字のタトゥーが彫られている。


『大人のジャポニカ学習帳』は正しく僕に日本と言う国の見聞を広めさせてくれた。


“マッドファット”と僕は今でも無二の親友だ。


“マッドファット”は僕を訪ねて日本に3ヶ月に一度くらいやって来る。


その時に僕はロハで“マッドファット”に店の人様の奥さんを充てがっている。


「いやー、ダニーボーイ、あんたの店のスケはどれも上等でサービスも充実してるよな」


“マッドファット”はすっきりした後に僕に毎回こう言う。


「それはそうだよ。お客様には満足してもらわないとね。ペニスと金玉の同時攻めは昇天物だろ。“マッドファット”スペシャルって名付けて奥さん全員に仕込んだんだ。それに、うちで働いてる奥さんにガバガバになったUSB端子の差込口みたいな人はいないだろ。あそこの締り具合も僕が入念にチェックして採用しているからね。奥さんの教習は僕が実践を以てしてみっちり叩き込んでいるからね」


「ところで、ダニーボーイ、あんたに頼みがあってよ」


「何だい“マッドファット”世話になったあんたの頼みだ。僕に出来る事があったら何でも言ってくれよ」


「実はな、うちのガキが日本でポルノ男優になりたいって言っててよ。あんたの知り合いで良い話がねえかな」


僕は以前、店に撮影にやって来たポルノDVD制作会社を紹介してあげた。


“マッドファット”の息子が来日した。


彼はブルーノ.Jr“ビッグバット”パパラッティと言う名でデビューした。


その名の通りブルーノ.Jrのおちんちんはどでかいバットだった。


“ビッグバット”は、すぐさまトップポルノ男優としてその名を全国に知らしめた。


次から次にポルノ女優をどでかいバットでバックスクリーンという名のオーガズムへホームランしていった。


“ビッグバット”の成功を聞きつけて“マッドファット”から国際電話があった。


「やあ、ダニーボーイ、あんたにはうちのガキの件ですっかり世話になっちまったな。ありがとう、カポ(おじいちゃん)は元気でやっていらっしゃるぜ。何かあったらすぐに連絡してくれよな」


「いや、どうって事ないさ。あんたの息子の実力だよ。それじゃ、また。あんたも元気で」


僕は1店舗から2店舗、3店舗と増殖する大腸菌のように瞬く間に16店舗の性風俗店の敏腕オーナーとなり近隣で名を馳せる青年実業家となっていた。


僕の店に集りに来るジャパニーズマフィアはいなかった。


表向きは非合法でありながらもぼったくりなどは一切せずに客に喜んでもらおうと一心にサービス向上に努めてきた。


素人の奥さんを手を取り足を取り親切丁寧に教習し僕は従業員の奥さん達からMr.ジェントルマンと言うニックネームを点けられアットホームな事業展開を繰り広げていた。


資産は右肩上がりに増加していき僕は投資にも積極的に取り組んでいた。


そんな僕に出資を依頼する為にMr.下根多と名乗る男がやって来た。


Mr.下根多は猥雑なジョークで僕を和ませすぐに意気投合した。


彼は土地の登記書を僕名義に切り替えそれを担保に日本円で300万円の出資を依頼して来た。


多忙だった僕は詳しい審査もせずにポンと金庫から300万円貸してやった。


僕にとっては300万円なんて微々たる出資で燃やしてもいいくらいの金額だった。


僕はMr.下根多の人柄に気前よく貸してやったまでの話だ。


僕はスマートフォンで自撮りでMr.下根多とのツーショット写真を撮った。


そして、Mr.下根多はトンズラした。


僕は、その話を笑い話にして“マッドファット”にツーショット写真を添付してメールした。


一週間後。


“マッドファット”はソルジャーを200人引き連れて来日した。


何でもおじいちゃんの勅命らしい。


二日後。


“マッドファット”が僕の店に来店した。


「ダニーボーイ、あんたの金を持ち去ったクソヤローは東京湾にドラム缶に生コンとセットにしてドボンしてやったぜ」


どうやら、ジャパニーズマフィアに3000万円支払って捜させたらしい。


これは、お金の問題じゃない。


マフィアは面子を潰されたら倍以上にして復讐する。


狂ったおデブさんは尚も健在だ。


僕は愛想笑いしてロハで“マッドファット”に店の奥さんを3人充てがってあげた。


僕は高級タワーマンションに帰宅してマガジンラックから『大人のジャポニカ学習帳』を抜き取りページを繰った。


少年時代の“マッドファット”との楽しい思い出が走馬灯のように思い出される。


すると、スマートフォンが鳴った。


「もしもし、Mr.ジェントルマン、大変なの」


声の主は“マッドファット”に充てがった3人の奥さんの内の1人、明美さんだった。


「どうしたんだい?」


「ミ、Mr.マッドファットに3人でご奉仕していたら心臓発作で死んじゃったの」


「えっ」


僕は、それしか言葉が出なかった。


おデブさんにはセックスが毒だとその時気付いた。


良かれと思ってやった事が…


「明美さん、サツに匿名で通報して雛子さんと由利恵さんと一緒に立ち去ってくれ」


僕は、そう指示して電話を切った。


自然と涙が溢れてきた。


ありがとう“マッドファット”


後は、おじいちゃんがなんとかしてくれるだろう。


僕はコニャックをグラスに注ぎ一気に呷った。


翌日、明美さんから聞いた。


“マッドファット”の死に顔は安らかでいつも僕との別れ際に見せる穏やかな笑みを浮かべていたらしい…

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