月刊ケモノッ通信・第三十二号

狼男を倒せる人間はごく僅かだが狼と対等に渡り合えるのもまた僅かな数の人しかいないのだそうだ(例えばこの私のように)……そう言って、この女性は狼男を抱えたまま行ってしまった。

その後、目を覚ました被害者の娘の話によれば……彼女は自分が襲われた時の様子を事細かに語ることができたらしい。

それによると狼は突然襲ってきたらしい。

しかし彼女には怪我はなく衣服に乱れもなかったようだ……どうやら彼女を襲った時はまだ人間だったようだな……ちなみにその女性が抱えていたものは、やはり雑誌や衣類であったそうだ……狼男が狼と化した時に身に着けていたものを証拠品として保管してあるらしい…………翌日、その女は御堂を自宅マンションへと招いたのだった。

その日の夜だった。

またも御堂の家を、インターホンの音が響いたのだ。

どうしよう、と思いつつ無視するわけにもいかない。

――俺が出ます。

御堂は仕方なく立ち上がり、訪問者を迎え入れた。

そこには。

昨日の女性とその腕に抱かれた少女がいたのだ。

女性の顔を見て御堂はその人物の正体を悟った。

「あなたは、狼と戦ったお姉さん!」

そうだ、間違いない。

この女性こそ、狼と初めて出会った際に御堂の部屋に入ってきた狼女に違いなかった。

――私は昨日の狼が心配になって様子を見に来たのだけど、ちょうど良かったわ。

貴方には是非とも礼を言いたかったの。

あの時は怖くて逃げ帰ってしまったけれど。

改めてありがとう。

おかげで娘も命拾いすることができたし……狼男の事件も解決したようね、狼男は警察に逮捕されてしまったけど、警察で事情聴取を受けている間ずっと「狼男は自分が倒した」と言っていたらしいからきっと逮捕される前から狼男は正気に返っていたんじゃないかしら……そして警察はそれを鵜呑みにして信じてしまっているらしいわ……そのあたりは私にはよくわからないけれど。

……御堂の知らないところで事件は終わっていたらしく真相は藪の中だった。

まあ別に知りたいわけではなかったので構わないが。

……それじゃ失礼します。

そう言い残すと女性は帰っていき御堂はドアの鍵をかけた後でソファに身を預けた。

今日は朝早くから起きていたため疲れが溜まっていたのだろう。

いつの間にか寝入ってしまい次に目を開けた時には外は暗くなっていた。

御堂はベッドの上で横になっていた。

――んっ?誰かの声が聞こえる。

誰だろうか。

まだ頭がぼーっとしているようでうまく思考を働かせられなかったが、徐々に思い出してきた。

確かここは御堂の自宅だ。

そこでルミエールと名乗ったあの女の人と会ったはず。

そしてルミエールは、自分のことを医者だと言ったはずだ。

そして彼女の連れてきた狼と、女の子を家に泊めることになった。

その二人が何をしているかというと、御堂の部屋のテーブルでトランプをしていた。

御堂は二人の邪魔にならないよう壁に背をあずけ床に座っていたが、眠くなったのと空腹を覚えたため食事にしようと考え立ち上がる。

だがまだ意識が半分寝ているのか、足元に何かが落ちていたことに気付けなかった。

それが何であるかを確かめることもなく御堂は踏んでしまったのである。

――それは狼男が御堂に渡そうとしていた例の雑誌『月刊ケモノッ通信・第三十二号』の特集記事であった。

「うーん、何というか……ちょっと想像以上ですねぇ」

アテナとの決闘後。

リリアナたちが滞在している部屋へ招かれていたエリカは感心半分呆れ顔である。

彼女が目にしたものとは――。

――リザベラ(猫)&ディアナのツーショット写真(隠し撮り風アングル)が表紙を飾り。

――さらにその下にはエリカの写真も飾られている。

しかもこちらは全身像で正面から撮影されているものなのだ! どうやら狼男のカメラ小僧的趣味は今も昔も同様らしい……。

「これはいい機会だ。

ついでに私のヌードグラビアページの撮影もしてもらいましょう。

……もちろん水着で」

――それはもういい。

だがこの雑誌をどうしたらよいのだろうか。

捨ててしまうのも躊躇われるし。

そもそもどこに持っていけば買い取ってくれるのだろうか……。

困った顔をして立ち尽くすリリィたち一行だった……。

第四章 ~嵐の夜の冒険 月光の魔剣を携えし銀髪の騎士が降臨し、邪悪な狼を打ち倒す

――さすがだ。

やはり貴様は素晴らしい。

我が愛弟子に相応しい実力だ。

だが今の一撃で決めきれなかったのは惜しかったな。

……いや待て。

どうした、その傷は。

……なるほど、あの男につけられたのか。

奴がそれほどの力をつけているとは驚きだな……仕方あるまい、まずは治療に専念しろ。

それからゆっくり、時間をかけて仕留めればいい。

我らの計画に変更はない。

全て順調、全てが順調に進んでいる。

だから何も恐れる必要はないぞ、我がついているのだからな……。

……そう告げると狼は去っていった。

そして狼に負わされた致命傷がゆっくりと治り始めると同時に御堂は夢を見なくなるのだった……御堂が狼との死闘の後で見た不思議な夢とは一体どのようなものであったのであろう。

それから三日間が過ぎた。

その二日目、日曜日の出来事であった。

昼前、御堂は外出の準備を整えてから自室を出た。

向かう先は近所にあるスーパーマーケットだ。

朝食用の食材を買い忘れたため昼食を作ることができず、やむなくコンビニ弁当で済ませようとしていたのだが……あいにくと先客がいた。

見覚えのある後ろ姿だ。

――草薙御堂?こんなところで偶然に出会うとは奇遇ではないか。

……なんというか妙に偉そうな口調の知り合いがそこに立っていた。

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