魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓
西園寺わかばEX
1章⭐︎魔境生活のはじまり⭐︎
第1話 魔境への追放
-side エリク-
「エリク=ドーソン、いや、エリク。今日をもってお前を廃嫡にする。近いうちにデゾートアイランドへ行け」
父トム=ドーソン。
歴史ある名門貴族、ドーソン家の現当主である彼は苦渋の表情で言った。
赤髪でエメラルドグリーンの眼、そっくりな容姿が、2人が親子だということを周囲に知らしめている。
「……承知致しました」
この少年、エリクはというと落ち着いた表情でそう言った。
彼の顔からは、絶望の表情は見られない。
淡々と、それでいて凛々しく真っ直ぐにそう答えた。
この性格が、彼の優秀さの一つだ。
いつだって、冷静沈着、状況を正確に分析して判断する。
それでいて、この世界ではトップクラスに優秀な成績。
いくつもの新理論を世に出すたび話題になっていた。
まあ、この優秀さが原因で追放されたのだが。出る杭は打たれるとはよく言ったものである。また、そういう言葉が生まれるほどに、よく起こることでもある。
今回もそうだった。
親友である第一王子のセシル=マスクは周りから見ればライバルだった。
同じ年に生まれ、身分も高く互いに王位継承権を持ち、家を継ぐもの同士。
自分達がどう思おうが、周りからは自然とそのような目で見られていた。
本来、身分の高い王子の方が優秀であったら、丸く収まって問題なかった。
しかし、能力的にみれば圧倒的にエリクの方が優秀だったのである。
セシルも優秀ではあったが、あくまでも学生レベルの話。
8歳の時から、数学や医療の分野で新理論を発表し、天才と言われるエリクと比較すると劣っているということは周知の事実だった。
このままではまずい。
公爵家に権力の主導権を奪われかねない。
そう思った現国王ネロ・マスクはエリクが彼を暗殺しようとしているという事実をでっち上げ、彼を魔境と言われる島、デゾートアイランドに追放することにした。
デゾートアイランドには、古代竜(エンシェントドラゴン)やフェンリル、リヴァイアサンなどの伝説上の凶悪な魔物が沢山いるという逸話が残っていて、追放された者で帰ってきた者はいないという。
つまり事実上の死刑宣告。
父トムは抗議しようとしたが、やめた。
理由は、大人の事情や公爵家のためである。今回の件、まあ中立的な立場から言ったらどう考えても事実をでっち上げた王が悪いだろう。
ただ、世の中そんな綺麗事だけでは、上手く回らない。
エリクをそのままにしておくと権力のバランスが崩れてまずいということは、父親であるトムからしても随分と前から分かっていた。
エリクの父親としての立場と、権力者としてパワーバランスを考えなければいけないという立場、両面でずっと悩んでいた彼は結局流されるまま、息子を切ることを決断した。
公爵家の領主として、妻やエリク以外の子供たち、従業員などに危険が及び続けることと、エリク一人の命を失うこと。
どちらがましかという選択を迫られた時、この決断は仕方のないことだったのかもしれない。
まあ……そうなる前にエリクのことを対処していれば、少なくともエリクが死地に送られることはなかったかもしれない。
が、それはあくまでも仮定の話。
現実に起こってしまったことは変えようもない。
そんなこんなで、エリクは追放となったわけだ。ちなみに、今彼は部屋で公爵家を出る準備をしている。
昨日廃嫡が世間に公表され、今日の夜にはもう出発なのだ。
公表されてから、実際に追放する早さも異例だが、王家が彼を守ろうとする政敵や学者達のことを警戒して手を回したのだと推測された。
「エリク様、旦那様は決してあなたを魔境に追放させたかったわけではありません。苦渋の決断だったことでしょう。私どもも断腸の思いでございます。これらは私たち従業員からのせめてもの、気持ちでございます」
いかにも執事と言った白髪でスーツ姿の60代男性、セバスチャンと部下の従業員がマジックバック(大)を持ってくる。
「わかっている」
エリクは相変わらず、表情を変えず淡々と返事をする。
返事は無愛想だが、不思議と威圧感はない、そういった返事の仕方だ。
水・火・風・結界属性の魔道具、大量の衣服、寝袋、大量の食材、コンロの魔道具などの料理器具や調味料、寝袋、そして金貨1000枚分(日本円にして1000万円)。
沢山のものが中に入っていた。
明らかに従業員達で揃えられるレベルの品の量ではない。きっと、表向きには言えないが両親や兄妹、親友である王子などの分も入っているのだろう。
「ありがとうみんな。少し、報われた感じがするよ」
少年は少し影のある笑顔で言った。
「エリク様……」
セバスチャンは涙を流した後、去っていった。きっと、無事に荷物を渡したこと、
彼が“報われた”と言ったことを父上や兄妹達に伝えに行くのだろう。
セバスチャンがいなくなり一人になったことを確認した後。少年は聞こえるか聞こえないかくらいの声量で言った。
「フハハハハハ!ついに!ついにやったぜ!はーーー。やっと窮屈なこの場所から出られる。よかった。それにしてもいいものも沢山もらったし、これは幸先もいいのかもしれない」
この少年は少々頭のネジが外れていて、むしろデゾートアイランドに行けることをラッキー程度に思っていたのだった。
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