110.朝倉さんのライバル?
「……あ」
「おはよう、清水」
「おはよ」
授業が始まるにはまだまだ早い時間。教室に入ると、清水が掃除をしていた。
美希が日直らしく少し早く家を出たから俺も同じタイミングで家を出ただけなのだが、清水はそれよりも早く来ていたらしい。
「昨日の日直、掃除サボってんじゃない? どこもかしこも埃だらけだし……」
「手伝うよ」
「いいのぉ? かわいい彼女が怒るんじゃない?」
「こんなことで怒らないよ」
「ふーん」
笑われてしまった。無視して俺も箒を取ると、清水は俺から2メートルほど距離を置いて床の掃除を再開した。
確かに清水の言う通り床は埃だらけだった。教室にみんながいたらそんなに気にはならないだろうけど、人が少ないと確かに目立つ。
適当にゴミをちりとりに集めて、清水のところのも回収しようとすると、そのまま2メートルくらいの距離を保ったまま離れられた。
「……?」
「わたし、喘息あるから。埃近づけられると困るっていうか」
「なるほど。ごめん、気づかなくて」
「誰にも言ってないからね」
少し離れた位置で埃やらゴミやらを集めている清水は、ちらちらとこちらを見てきては目を逸らしてを繰り返している。
「……清水?」
「な、なに」
「ちらちら見られるとこっちが気にしちゃうかも。聞きたいこととかあるなら、言ってくれて大丈夫だよ」
「別にそういうわけじゃ……」
そう言いつつも、まっすぐ目を見て話してはくれない。本人がなんでもないと言うなら放っておいてあげたいけど、清水のことはまだ知らないし何か我慢させてしまっているならとても申し訳ないと思う。いろいろとあったけど、彼女が良い人だというのは知っている。今こうして掃除をしているのだってそうだ。
「……あ。聞きたいことじゃないんだけどさ」
「なに?」
「朝倉って暇な日ないの?」
「それは本人に聞いてみてほしいかなぁ」
「……じゃあいい」
「なんでだよ」
本人に聞けばすぐにわかることだと思うんだけど。玲奈から聞いている話では清水とも仲良くやれそうならしいし、素直に聞けばいいと思うんだけど。
またしばらく静寂が訪れる。清水は何度も口をもごもごさせて、それから結局何も言わずに掃除に戻ってを繰り返した。
そうやって掃除を終える頃、教室のドアが静かに開いた。
「……お、悠斗。おはよー……う、ございます。清水さんも、おはようございます」
「……はよ」
「おはよう、玲奈。今日はなんか早いな?」
「日直ですので」
「なるほど」
教室を見回してみて状況を理解してくれた玲奈は、首を傾げながら清水に言った。
「……あの、もう少し近づいても良いのでは?」
「別に」
「何が別になんですか……」
「それより清水。玲奈に聞きたいことあったんじゃないのか?」
「別に……」
「別に、ばっかりじゃないですか」
少し呆れたような笑顔で清水との距離を少しずつ詰めていく。
「……週末、服買いに行くんだけど」
「ふふっ、是非」
「別に、一緒に行くとか言ってないし」
「ではわたしからお願いします」
「……まあ、あんたがそう言うんなら付き合ってあげなくもないけど」
「やった」
なかなか素直にはなりそうにない清水と随分近づいた距離に、玲奈は嬉しそうに笑った。
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