107.三上くんと伝える日

「よし。じゃあ、やろっか」

「おー!」

「いぇーい!」


 謎のテンションの二人に苦笑を返す。結花ちゃんも美希ちゃんも、なんだか手の込んだものを作るつもりらしい。

 一月はたくさんのことにチャレンジした。カラオケもそうだけど、学年末に向けて先週から勉強会を開いてみたり、ちょっとずつクラスメイトとの関わりを増やしている。それから、水瀬と試験が終わった頃に遊ぶ約束もできた。そのときは悠斗にも一緒に来てもらうことになっている。彼氏自慢をさせてもらおう。

 そんな一月を終えて、今は二月。節分を終えてもう十三日、バレンタインの前日だった。わたしの家に集まってお菓子を作ることが決まったのはつい数日前のことだった。


「結局玲奈は誰にあげんの?」

「悠斗と、まあ北条くんもかな。いるのかわかんないけど。それくらい」

「まあ、なんだかんだで喜ぶんじゃない? めちゃくちゃ喜ばれたらそれはそれで腹立つけど」

「それはないかなぁ」


 渡す人であればクラスメイトも考えたけど、そうなるとわたしの場合は全員分ということになってしまうからやめておいた。一方で結花ちゃんたちはクラスメイトにもあげるらしく、大量の材料を買ってきていた。それもあってか、今はスイッチが切れているらしい。


「そんで、美希は受験生なわけだけどそのへん大丈夫?」

「もちろん。兄さんたちのおかげでわたしは実は結構余裕があってね。だからといってだらけたりするつもりはないけど、クラスのみんなが少しでも息抜きできたらいいなって」

「天使かな?」


 ぶんぶん首を振って否定しているけれど、わたしからすればそんな素敵な考えを持てるこの子を心から尊敬するばかりだ。これ以上言うと萎縮しちゃいそうだから言わないけど。

 美希ちゃんは慣れた様子でいろんな粉を混ぜたりしている。結花ちゃんはアレンジを考えているようで、ああでもないこうでもないと唸っている。わたしの方は、分量を均等にして型を使えば作れる分普段の料理よりずっと手際よく進めていた。


「はぁ。美希ちゃん偉すぎてもうわたしの妹にもなってほしい」

「遠回しな兄さんへのプロポーズですか?」

「違うから。そういうのは直接言います。……あとまあ、そういうのは悠斗から言ってもらう予定、だから」

「ハルちゃんがねぇ……何百年後の話それ」


 何年後になるかはわからないけど、悠斗はきっと準備ができたら言ってくれるはずだ。高校生の恋愛なんてと言われるかもしれないけど、わたしにとって悠斗はきっかけで、恩人で、初恋の人なんだ。

 呆れた様子の結花ちゃんを美希ちゃんは笑った。


「そう言いつつも、ちゃんと兄さんのことが大好きな結花ちゃんでした」

「そりゃそうだけど?」

「なんだかんだ結花ちゃんってそういうの隠さないよね」

「当たり前じゃん。そういう意味合いなら玲奈も日向くんのこと好きでしょ?」


 さも当然のことかのように言って結花ちゃんは首を傾げる。そんな顔されても、わたしは北条くんのことを好きとは素直には言えない。やっぱり恥ずかしい。


「でも、なんか確かに腹立つかも。わたしの方が悠斗のこと好きだし」

「いや好きの形が違うし」

「なにをー。わたしが一番兄さんのこと好きですー」


 いつもこうやって、仲の良い人の前でだけ好き好き言ってる。ちゃんと主張しないと誰かにいつか負けてしまうかな。うん、やっぱり気持ちは伝える方がいい。

 こんなの使うわけないと思っていた少し大きめのハートの型に生地を流し込む。敢えて学校で渡してやろう。悠斗は誰にも渡さないぞって、学校でアピールしよう。


「なんか気合い入ってますね?」

「ちょっとね。最近気になることだらけでね。ここらでちょっと、ちゃんと主張しとこうと思って」


 いろんなことが気になってしまう。悠斗が他の女の子と話していると気になってしまうし、ものすごく嫉妬してしまうし。だから、わたしが独り占めしてやるんだ。

 それとは別に。ほんの少しだけ、みんなの前できちんと好きだって言ったら悠斗がどんな顔をするのかなという久しぶりの悪戯心もあったけど。なるべくそれはバレないようにしよう。

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