105.朝倉さんといつもの顔
新学期はすぐにやってきた。相変わらず課題の終わっていない日向は、そろそろ結花に愛想を尽かされそうに見える。そんなことはまず起こらないんだろうけど。
「あけおめー、朝倉さん」
「あけおめです。髪型、変わったんですね」
玲奈の方は、いつも通りに話している。
初詣の後も佐野倉と連絡は取っているようで、小さい頃の話をよく聞くようになった。元通りになったのかはわからないけど、関係は十分良好らしい。
「ハルー、この人どうにかして。もうほんっと一生課題やんないの。もう脳みそざこすぎ。頭からっぽ?」
「そんな言わなくてもいいだろ? いや、でもユーにそう言われるとなんか……興奮する」
「えぇ……素直に引いたよ、日向くん」
「レベルの高い会話に巻き込まないでくれ、頼む。でもまあ、日向はそろそろ本気で勉強した方がいいと思うぞ。結花に迷惑かかるし」
「わたしの迷惑とかはまあ、いいんだけどさ。でも、日向くんも一緒に青春したいじゃん。ていうか、どっちかって言うと日向くんの方がそっち系じゃん」
諭すように語る結花に、日向は返す言葉もないらしい。でも、どちらかと言うと火付け役になったのは俺の言葉らしい。
「ぼちぼちやるかぁ。やんねぇとなぁ……」
「偉い! 偉すぎ! あ、さっきの興奮したんなら今度そういう感じで……」
「レベルの高い会話に巻き込まないでくれ」
こうして話していても、以前みたいにこちらを気にする視線はない。もう俺のことを気にしなくても大丈夫らしい。
「三上くんあけおめー」
「ん、あけましておめでとう、波多野」
「もう年明けちゃったねぇ。あとちょっとで二年だ」
「そうだね」
来年は結花と日向が同じクラスになれたらいいなと思う。来年は修学旅行もあるし、二人ももっと一緒にいたいだろうし。
「えっ、誰? どなたー?」
「あー、どもー。波多野湊月ですー」
「あ、初めまして。小倉結花ですどうも」
なぜか俺と日向を縦にするようにして波多野と挨拶を交わす結花は、怪訝そうな顔でそのまま波多野のことを見つめている。
「な、なに? なんかついてる?」
「いや別にー。なんでもー」
「……どうかしたのか?」
「んん、ホントなんでも」
明らかに様子がおかしい結花だったが、本人がそう言う以上は詮索も良くないので気にしないことにしておいた。
波多野はどこかへ行ってしまった。せっかく三人だからということで、冬休みにうちであったことを話して過ごすことになった。クリスマスのこと、新年のこと。暗いことはなしにして、楽しかった思い出話に花を咲かせる。
「美希もしたたかになったねー」
「俺らも応援してやんねぇとな。教えてほしいところとか言ってたら俺らも手伝うからな」
「お前だけは言うな」
「なんだと? 一応俺も受かってんだぞ!?」
「あたしらが死ぬ気で教えたからね」
どうしても俺と結花が一緒がいいと駄々をこねたものだから、本当に死ぬ気で教えた。正直な話、そのせいで俺と結花はかなり前の段階から合格は確実とも言えるレベルまで勉強しなければいけなかったけど、それも今となっては思い出話だ。
懐かしい話もしつつ三人で話していると、ホームルームの時間になった。慌てたように教室に戻る結花を見送って、俺も自分の席に戻ることにした。
年明けということでどの授業も緩く流す程度だったが、ここしばらくは勉強をする以上にいろんなことがあったので、久しぶりにペンを握ってなかなか疲れてしまった。
「ハール! あれ、玲奈は?」
「向こうにいる。なんか今日は盛り上がってるんだよな」
「ほえ、どしたんだろ」
玲奈の周りにはいつも人がいるが、今日はその比ではなかった。
「ふぁ……なんかイベントでもあったか?」
「日向くん、授業中に寝るのやめるとこから始めなよ」
「善処はしてる。すまん。んで、今日はどうなってんだお前の彼女」
「さあ」
いつもならどこかのタイミングでサインを送ってくるのだけど、今日はそれも見つけられなかった。でも、人の隙間からときどき見える玲奈の様子を見ていてもそれほど無理をしているようには見えない。
そんなことを話し合っていると、静かに玲奈が俺の近くに寄ってきた。当然ながら人を引き連れる形になっている。
「あの、悠斗」
「どうした?」
「今日は、みなさんとカラオケに行ってきます」
「えっ」
周りがしつこかったのか、なにか嫌がらせをされたのか。いろいろ考えたが、玲奈の表情はそのどれもを否定するものだった。
「そっか。いってらっしゃい」
「はいっ!」
少しずつ、前向きに。まずはクラスメイトと関わることから始めようと思ったらしい。
「三上くんも来ない?」
「俺は別に……いや、俺も行こうかな」
「えっ。来るんですか?」
「駄目なのか?」
「駄目ではありませんが……意外だったから」
小声でそう言った玲奈は、嬉しそうに笑った。
「おぐと北条も行こうよー」
「悪いが断る。俺は今勉強しなきゃいけねぇんだよ」
「えっ。じゃあね日向くん、がんばって」
「はぁ? 行く」
日向と、他クラスであるうちのクラスメイトになぜかあだ名で呼ばれているほど仲良くなっている結花も来るらしい。ちらりと玲奈に視線を向けると、少しだけほっとしたような表情をしていた。
「慣れないことでも、やってみようと思いまして。どうでしょう、上手くできているでしょうか?」
「さあ」
「そうですか」
回答にならない返事を聞いた玲奈は、こくりと頷いた。
「では、まだまだということで」
「そっか」
また一度頷いて、玲奈はクラスメイトの輪の中に戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます