82.朝倉さんは恋人

「やっと二人になれたぁ」

「あはは、たしかに。今日は玲奈と二人きりのタイミング、あんまり無かったな」

「別に普段から君と二人でいるタイミングもそんなにないけどね」


 「でもそれはそれとして、今日は恋人としては二人でいたいというか」とかぶつぶつ言いながら頬を赤く染める隣の玲奈。可愛いな。


「そういえば」

「うん?」

「改めてになるけど、プレゼントありがとな。めちゃくちゃ嬉しい」

「あー……うん、よかった。自己満だったから、もしかしたらめっちゃ嫌がられて玲奈とはやってられない、とかまで言われることもちょっと考えてた。勝手にそこまで考えてめちゃくちゃつらかった」

「そんなになってまで渡してくれたのか……」


 仮に自分の気に食わないプレゼントだったとしても玲奈が頑張って選んでくれたことが俺にとっては嬉しいことなので、別れるとかそういうことは考えられないが。でも、そんなことまで考えてもなお渡してくれたのは、やっぱり嬉しかった。


「写真に写るのが嫌いな人はいるよ。だけど、悠斗はなんか、自分が写真そのものに関わるのが嫌いって感じだったから。なんかあったんだろうなって」

「まあ、少しは」


 写真を撮るのが嫌い、というよりはいつの間にか写真そのものが嫌いになっていたのだと最近になって気づいた。それだけ、あの頃からたった一人の妹が大切だったんだと最近になってようやく実感した。


「お兄ちゃんだねぇ、ほんとに」

「ん? 美希からなんか聞いた?」

「いーや? でも、君がそこまで悩めるとしたら、あの三人かご両親のことくらいでしょ」

「あー……四人、かなぁ」

「ごめんごめん。わたしも入れとくね」


 少し恥ずかしそうに笑った玲奈は、左手で立てた三本の指に右手でもう一本付け足した。


「最近ね、ちょっといいことあったんだ」

「へぇ。それは教えてくれるやつ?」

「うん。まあね、わたし彼氏の近くにいる人に最初は結構嫌われてたっぽくて。いや、嫌われてたは言い過ぎかもだけど」

「あー……」


 結花くらいだろうか、最初から玲奈に友好的だったのは。特に美希はにこにこしながらもちょっと嫌そうな顔をしていた。


「でもさ。なんだかんだこいつが悠斗の彼女なんだって受け入れてくれて。悠斗と付き合うことに関しては誰に何を言われようが気にしないんだけど、やっぱり悠斗が大切にしてる人たちには認められたいなって。ご両親とはまだちゃんと話せたことないけど」

「帰ってきたときに伝えてみよう。あの両親だし、受け入れてくれる」

「だといいね」


 どこか不安そうな笑みを浮かべる玲奈だったが、すぐにいつもの調子を取り戻して笑ってくれた。


「俺の前では無理しないで」

「お、言ったな? それを言っちゃうんだな君は?」

「なんだよ」

「誕生日だからへこむことは言わないでおいてあげようと思ったのに」

「だからなんだよ」


 変なことを言ったつもりは無い。ただ玲奈に無理をして欲しくないだけだ、その言葉通りの意味でしかない。


「君こそ、わたしをもっと頼ってよ。寂しいじゃん」


 ただ悲しそうに、それでもなんとか口元だけは笑顔のままで玲奈はそう言った。


「な、なーんて。わたしらしく……」

「今度さ。美希と紅葉見に行こうって言ってて。せっかくなら写真を撮ったりとか、多分するだろ」

「うん? うん。そうだね?」

「だから、玲奈も来てくれないか。まだ二人で写真に写るのは、ちょっとだけ怖い」

「……うん。いいよ!」


 玲奈だって子どもの頃のことを教えてくれたんだ。俺も、少しずつになってはしまうけど。いろんなことを玲奈に知ってもらいたいと思う。

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