74.三上くんと文化祭(2)

「またお越しください、ご主人様」

「は、はい……」


 どうやらわたしはそれなりに人気らしく、せっかく美希ちゃんが来てくれているのに他のお客さんの対応に追われることになってしまった。時折美希ちゃんのことを見てみると、わたしの方ばかり見ているようでいつも目が合ってしまうからより申し訳ない。


「朝倉さん」

「は、はい。なんでしょう……」

「あの子の相手してあげてよ。妹なんでしょ?」

「い、妹!? えっと、まあ妹と言えば妹かもしれませんが……」


 悠斗の妹ということは実質的にわたしの妹と言えないこともないのかもしれない。そんなことを考えていると、自分の頬が熱くなっていることがわかる。


「どうかした?」

「いえ、なんでも。すみません」


 自分に呆れながら、わたしは美希ちゃんが注文していたオムライスとオレンジジュースを運ぶ。


「お待たせ致しました……お嬢様?」

「わっ……ほんとにメイドさんみたい」

「ふふっ、今はほんとのメイドだと思っていいんですよ?」

「玲奈さんみたいなメイドさんがいたら絶対雇います!」


 本当にいい子だなぁ、と思う。残念ながらわたしは料理が壊滅的なのでメイドにはなれそうにないが、もし美希ちゃんが甘えたいときに、悠斗の代わりくらいになれたらいいな、なんてことを考えながら、美希ちゃん以外のお客さんにも料理を提供する。

 いろんな人がいた。てきぱきと動くわたしに偉いねと声をかけてくれる先輩に、この辺りに住んでいるのかにこにこと優しい笑みを浮かべているおばあさん。中にはさっきのようなナンパ目的の輩もいたが、そういった人は頼りになる彼氏が払ってくれた。

 しばらくしてオムライスを食べ終えた美希ちゃんを教室からだが見送ることになった。


「帰り、一人で大丈夫ですか?」

「はい。あ、その……いえ、やっぱりなんでも……」

「言ってください」

「……兄さんと喧嘩でもしましたか?」

「えっ?」


 喧嘩などしていない。関係は良好な方だろう。

 それでも、あの美希ちゃんがそんなことを心配するということは、悠斗の様子がおかしかったのかもしれない。


「ほんのちょっとだけ、兄さんが見えたんです。でも、ちょっと寂しそうで」

「……ごめん、ありがとっ!」

「えっ、あ……」


 また、空回り。でももうそれでめそめそしたりはするつもりはない。だって、わたしは彼の彼女なのだ。


「悠斗っ!」


 黙々と手を動かす悠斗を呼ぶ。余程切羽詰まったような表情をしていたようで、悠斗は目を丸くしながらもわたしに落ち着くように促してくれる。


「次、夕方くらいにもう一度交代してもらえるとき、一緒に回りましょう!」


 思えば、付き合ってからはこうやって気を遣ってばかりだ。初めて遊びに行くのが遊園地だったり、そうやって悠斗を振り回してばかりいた日が懐かしく感じるくらいに。

 でも、悠斗が好きになってくれたのはその振り回すくらい面倒なわたしじゃないか。


「拒否権なんて、ないですから」

「そっか。拒否権ないなら、仕方ないな」


 そう言って笑った悠斗は、どこかほっとしたような目をしていた。

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