39.三上くんの彼女
「ふふふふ……」
変な笑みが零れてしまう。悠斗がわたしのことを好きだと言った。それはつまり、わたしと悠斗が両思いということだ。
「返事する前に帰っちゃったけど……さすがに、わたしの気持ちにも気づいてるよね?」
そうじゃないなら、あんな告白のやり方はしないと思う。鈍感だとはまだ思っているが、それでもようやく気づいてくれたらしい。
とはいえ、結花ちゃんにはすぐに気づかれてしまったし、バレバレというのは私の方も恥ずかしい。周りからはそんなふうに見えているのだろうか。
まずは、ちゃんと好きだと伝えるところから。たとえわかっていても、言葉にすることで初めて意味を持つことだってあるのだ。
「わたしもす……すぅ……ん? あれ?」
好き。その言葉が、思ったよりも出てこない。
いや、でも。そもそもそんなに無理して伝えなくても、わたしの気持ちなんてとうに伝わっているわけで。だったら無理に伝えようとしなくてもいいわけで。それなら手でも繋いでわたしも君が好きだよ、と間接的に伝えるだけでも告白の返事としては十分なわけで。
「それくらいならできる、うん」
なにせ片思いの男の子に胸を押し付けられるような女だ。思い返しただけでも死にたくなる。
メッセージくらいしてもいいものなのだろうか。いやでも、急にデレたようなメッセージを送ったら引かれないだろうか。今は極力嫌われない努力をするべきだから、慣れないことはやめておこう。
いつの間にか日が暮れていて、にやける顔を抑えられないまま夕食を食べて。お父さんは何か嬉しいことがあったのかと聞いてくれたけれど、さすがにその相手は間違いなく今日来た男の子だとわかってしまうから、好きな人に告白されたなんて言えないわけで。
お風呂に入って、ドライヤーをかけて。スキンケアをして歯を磨いて。布団に入ると、またさっきのことを思い出してしまう。
結花ちゃんからメッセージが来ていたが、今はそれどころではない。というか、眠い。子どもみたいにはしゃいでしまったからか、すごく眠い。
「明日、見るから……」
そんなことで怒るような子じゃない。今日は今までで一番幸せな夢が見られそうだな、なって思いながら、わたしは瞼を閉じた。
停学期間が終わった。あと数日で夏休みが始まる。
「じ、実質彼女だしぃ……?」
家まで行っても、いいのだろうか。手なんて繋いでしまっても、怒られないだろうか。
そんなことを考えながら、わたしの足は既に悠斗の家に向かってしまっている。どうしよう、にやけてしまいそうだ。
傍から見れば、おそらくすごくやばいやつに見えているだろう。頬を軽く叩きながら歩く。気を引き締めておかないと、学校でもだらしない顔をしてしまいそうだ。
悠斗の家の前まで来てしまった。ちょうどそのとき、玄関の扉が開いた。
「……あ」
「お、おはよ」
顔をそむけられてしまう。恥ずかしがっているのだろうか。かわいいところもあるなぁ、なんて思いながら悠斗の手に自分の手を伸ばそうとする。と、悠斗がわたしから一歩離れた。
「朝倉、家こっちじゃないだろ。どうした?」
「えっ? いや、どうしたというか……」
「まあ、いいけど。あと、この前のこと。忘れてくれると助かる」
「へっ!?」
おかしい。なにかが違う。すれ違いが起こっているような気がしてならない。
スマホが振動した。結花ちゃんだ。そういえば、三日前に来ていたLINKにも返信をしていない。というか、見てすらいない。
『悠斗がフラれたって落ち込んでたんだけど!?』
「はぁ!?」
「大丈夫か?」
どうやら、わたしはそう簡単に鈍感な彼の彼女にはなれないらしい。いや、今回のことはわたしが悪いのだけれど!
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