38.朝倉さんと告白

「ああああああああ……」

「!? な、なに……!?」

「なんでもない……」

「怖いよ!? 帰ってくるなりそれは怖すぎるよ!?」


 美希に引かれながら、俺は自室へ戻る。明らかに俺の様子がおかしかったからか、静かに部屋まで着いてきた。


「……美希さ、告白とかよくされるよな」

「よくはされないけど。たまーに?」

「なら、仮に告白されて突き飛ばすときってどういう気持ち?」

「めちゃくちゃ嫌いな人に告白されて、挙句抱き締められたりしたときかな」

「あああああああ!」

「うわあああああ!」


 俺以上の声量で叫ぶ美希。あまりにうるさい声に、俺も少しだけ冷静になる。


「兄さんらしくないよ!」

「俺らしくない?」

「そうだよ。兄さんは面倒なところはあるし落ち込んだときは正直めちゃくちゃ面倒だけど、なんとかしようってがんばれるのがわたしの兄さんだよ!」

「……そうだな、悪かった」


 そもそも、あんなことを言うために朝倉の家に行ったわけではない。ただ少しだけ、元気そうにしている顔さえ見られたらそれでよかった。

 それなのに、朝倉に泣いていいなんて言っておいてその泣き顔を見ているのがだんだん辛くなって、朝倉玲奈という一人の女の子を好きな人が少なくとも一人はいるんだということを伝えようとしたら、なぜか告白のようになってしまったのだ。

 俺が落ち着いたのを確認した美希は、静かに部屋から出ていった。


「次会うとき、どうするかな」


 恋人になんてなれなくてもいい。もちろん、朝倉の傍に恋人として一緒にいたかったという気持ちは今でもある。

 それでも、朝倉には好きな人がいるのだ。少しだけその好きな人と俺が重なっているような気がしたが、勘違いだったらしい。だから、これ以上朝倉に好意を伝えるような真似はしないでおこう。

 それはそれとして、これからも朝倉を支えることができたらいいな、とは思う。


「……次会ったときにきも、とか言われたらどうするんだよ」


 まずい。そういうことを考えていなかった。さすがにそこまで直球の言葉を朝倉が投げてくるとは思えないが、距離を置かれることになってしまったらどうしようか。

 よく考えれば、俺がやったことは他の男子がやっていることを変わらない。むしろ朝倉と親密になっているという辺り、朝倉からすれば俺の方が数倍タチが悪いだろう。


「あああああ……」


 結局その日の夜はいろいろと考えすぎて寝ることができなかった。

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