22.朝倉さんの甘え方
冷蔵庫のものを適当に使わせてもらって作った粥を持って、朝倉の部屋へ戻る。
軽くノックをして、朝倉を呼ぶ。返事はない。
「……入るぞー?」
着替えていたりしたらまずいと思って呼んだだけなので、返事は待たない。部屋に入ると、朝倉は眠っていた。
やや苦しそうにしながらも静かに寝息を立てて眠る朝倉。そういえば、最近はよく朝倉の寝顔を見るようになった。というより、寝顔ばかり見ている。
「置いとくぞ……って、聞こえてないよな」
眠ってくれたのなら、そのまま楽にしていてほしい。俺は使ったものを洗って帰ろう。
「…………寝顔はかわいい」
耳元でそう言ってみる。が、反応はしないので起きているわけではなさそうだ。疑ったことを少しだけ申し訳なく思う。
粥を置いて部屋を出る。先ほど使わせてもらった器具を丁寧に洗って干しておく。
「さて、と……」
あまり長居するつもりもないが、かといって弱っている様子の朝倉を放って帰るのもどうかと思ってしまう。それに、また一緒にいた方が嬉しいというなら俺の方は喜んで一緒にいよう。
「……喜んで?」
喜ぶことなんてない。朝倉が早く良くなってくれたらそれは嬉しいことだ。友人が風邪をひいて面白がるような性格でもない。
ただ、朝倉と一緒にいるということに喜ぶ必要はない。
「なんか最近変だなぁ……」
朝倉といると調子が狂う、のはいつものことだが、かき乱されている感じがする。だからといって何もできることは無いのだが。
とりあえず、洗い物を終えて朝倉の部屋へ戻る。まだ眠ってはいるが、やっぱり少しだけ苦しそうだった。
頭を撫でる。そうされるのが好きだと言っていたから。ただそれだけ。そっと頭に手を置くと、以前と同じように朝倉の表情が少し和らいだような気がした。
髪の毛が少し、汗で湿っている。どうやら少しづつではあるが熱は下がっているらしい。
「……ん……みかみくん……」
「悪い、起こしたか」
うっすらと目を開けた朝倉は、ぼんやりと俺のことをして名前を呼ぶ。
「だいじょぶ……おかゆ……」
「今食べるのか?」
「うん……食べる」
少しだけ身体を起こした朝倉。まだ意識はかなりぼやけているようで、普段の朝倉からは考えられないほどぼーっとしている。
俺が作った粥は、朝倉が眠っている間にちょうど病人が食べやすいような温度になっていた。それをれんげですくって朝倉の口へ運ぶ。
「あーん」
「あー…………おお、すっごい。美味しいね」
「そりゃよかった」
温かいものを口に入れたからか、意識はしっかりしてきたらしい。
「うあー、美希ちゃん羨ましいなぁ」
「そんなに気に入った?」
「気に入った。好き」
「……そうかい」
何の気なしにそう言った朝倉はただの粥を本当に美味しそうに食べてくれる。それが少しだけ嬉しくて、俺は次の一口をすくって朝倉の口へ。
「ちょ、ちょっと待って。食べれるから。うん、大丈夫」
「別に無理しなくても」
「こっちの方が無理というかなんというか」
「なるほど? なんかわからんけど」
れんげを朝倉に手渡す。やや顔が赤いのが心配だが、朝倉はそのまま少しずつ粥を食べ進める。時折水分を摂るように促すと、笑って朝倉が自分で用意していた水を飲んだ。
朝倉が食べ終えるまで待って、荷物をまとめて立ち上がる。
「熱も下がってきたみたいだし、俺は帰るよ」
「あ、うん。そっか。帰っちゃうかぁ……」
「どうかしたか?」
「ううん、なんでも。今日はいろいろありがと。受け取らないと思うから、スポドリとゼリーのお金はまたどっか別の機会にお礼します」
「気にしないで欲しい」
たかだか数百円のことだから、そんなに返そうとしなくてもいい。それでも朝倉は「お金のやりとりは些細なものでも怖いんだよ」と言って譲ろうとしない。
「まあ、それはおいおいな」
「おいおいでなんでも聞いてあげるっていうの一個放置されてるんだけど」
「それもおいおい」
「ちゃんと考えといてよ?」
考えても朝倉にしてほしいことなんて特にはないので、すぐには出てきそうもない。やっぱり、しばらくは保留にしてもらうことにしよう。
「あと、さ」
「ん?」
「もし三上くんが風邪ひいたときは、さ。わたしは料理とかできないし、妹さんもいるからわたしなんかいらないかもだけど……その、看病に行ってもいい?」
「もちろん。来てくれるだけで嬉しいよ」
看病自体は美希が全部やってくれはするが、それはそれとして友達が見舞いに来てくれるのは嬉しい。
それを聞いた朝倉は嬉しそうに笑って言った。
「わたしに看病されたくても風邪ひいちゃ駄目だよ!」
「まずは自分の風邪治してから言いなさい」
おかしそうに笑う朝倉。多少は元気になった朝倉に少しだけ安心しながら、俺は自宅へ帰ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます