勇者を卒業したおっさん、日本の居酒屋でオークとゴブに襲われる!?

竹本蘭乃

第1話

第一話:日本の居酒屋にオークとゴブリンが攻め込んだようです


 俺はなぜ日本に帰ってきてまで、オークやゴブリンと戦っているんだ?

 だっておかしいだろう……ここは世界一安全な日本で、しかもほんの少しこだわりが強い居酒屋でだ。

 そんで俺はそこの店長兼・社長様だ。ついでに言うと元・勇者でもある今年46歳のおっさんだ。

 そら異世界ではモテたぜ? なんせ異世界ではイケメン扱いされていたし、なんと言っても勇者さまだからな。ウヘヘヘ……っと、いけねぇ夜を思い出しちまった。


 いかんいかん。目の前のモブ共にブチキレそうになって、現実逃避をしたくなったがために、昔の事を思い出しちまったぜ。

 クソッ、ああいいさ……殺ってやるよ! 俺は勇者だった、今でも億の魔法と兆の魔剣を持つ、この世の超越者! つまり、この地球上において全て俺しか勝てん・・・・・・!!


「おい! まだ出来んのか!? おではもう腹が減ってヘソが背中とくっつく寸前でぷ!!」


 ちッ……オークの分際で人様のコトバを話すとはな。待っていろ、今す――


「あっしも腹が減ってきたでやんす。それにしてもウワサだけのマズ店のようですねぇ太胃原ふといはら部長。せっかく名刺も置いてやったというのに」


 クソ! 雑魚中の雑魚、ゴブリンにまで暴言を吐かれただとッ!? あぁいいだろう。俺がお前らに見せてやろう……地獄ってもんをなああああ!!


「なに気持ち悪い笑みを浮かべているんですかねぇ~あの店主」

「もしやおで達はヤバイ店に入ってしまったでぷか? 緑革主任、キミのせいでぷ」

「お、お待ちを太胃原部長! 今すぐ店主にモンスタークレームをいれてきます!」


 目つきがギロリとした身長150センチのサラリーマン、緑革小人みどりかわおびとはそう言うと席を勢いよく立つ。

 そしてこの店の店主である元・勇者。飯田久重いいだひさしげ元へとツカツカと歩み寄る。


「ちょっと店長! あっしの敬愛する太胃原部長がお腹をすかせているっす! 一刻も早く料理を出してほしいっす!!」


 こんの……調子にのりやがって……そうかい、そんなに死にてぇのか……いいだろう、俺の本気を見せてやるッ!!


「ハイ! 申し訳ございません。ただいますぐにお出ししますので、もうしばらくお待ちください!」

「もぅ、本当に頼むっすよ! 名刺をくれてやったんだから、あっしらが超・一流企業のVIPだと分かったでやんしょ? さっさと頼むっすよ!!」

「よろこんで~」


 チィィィィッ!? このまま雑魚どもにデカイ顔をさせておくにはいかねぇ!! OK、ならば戦争だ……俺の億ある魔法の一つを見せてやる!


「――時よ、その歩みを止め哀れな活動を永遠に停止せよ! ≪時空魔法! エターナル・ストップ!!≫」

 

 アホズラして固まってろや! ふん、元・勇者を舐めんなよ? 時間なんざ止めることなど赤子の手を捻るより簡単だっつーの! 死ぬほどMPもっていかれるけどな!! あぁシンド……続いてこれでも喰らえい――。


「――闇の彼方へと続く大いなる導きよ。その姿を現し我を彼の地へと導け。開け異世界への扉! ≪マキシマム・ゲート!!≫」


 クックック……どうだ見たか!? 俺が本気を出せばこんなもんよ。見ろ、この黄金の扉の向こうを……異世界だ、ケモ耳獣人だ、モンスターもいるぞ! ついでに夜の思い出よカンバック!

 

「そしてなんと言ってもアレがある・・・・・そう、最強に旨い食材の数々がなあああああああああああ!! 待っていろオークとゴブリンめが、俺がテメーらの度肝を抜いてやんぜ!! ハ~ッハッハッハぎゃぐッ!? だ、だれだ俺を殴るやつは??」

「誰だじゃないわよ! わたくしを置いて異世界へ帰るとか、本当にありえないし!!」


 うぇええ!? なんでこいつ、〝アン・・ジェリカ・ルタリア〟がいるんだ!? ここは俺しか知らない食材調達場所のはず。ストーカーか!?


「な、なんでココいやがるアンポンタン!?」

「いま絶対に失礼な事思ったでしょ? っていうか誰がアンポンタンですって? そ・の・く・ち・が悪いのかああああ」

痛いいらい勘弁してつかぁさいかんへんひれくあはい


 くっそおおおお、思いっきり頬を引っ張りやがって脳筋がッ! 第一王女のくせに口も性格も頭も悪すぎるぞ。

 だいたい十九歳で傾国のツラしやがって、そのうえなんだその爆乳は? 神話級のローブを踊り子の衣装みたく改造しやがって!? 歩く痴女めッ、恥を知れ。おじちゃん、もぅ見てられない!


「……顔をおおう指の間から、あたくしの胸を見るのヤメテいただきませんこと?」

「べ、べつに見てねーしぃ」

「もぅメシダったら、そんなに見たければ……うふふ。いつでもお見せすると言っているでしょう?」

「つかメシダじゃねぇ、飯田だアンポンタン」


 あれから一年もたつってのに、まだ俺のこと諦めていないのか。つかこんなオッサンのどこがいいんだ? 俺はもっとムッチリとした女がいいんだよ。

 ん? まてよ、こいつもなかなかどうして……いやいや、だめだろ。あの皇帝陛下ヒゲオヤジに殺されるわ。


 クソ……どうしてこうなった!?

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