第四章 山に木霊する叫び声

第20話 出発

 私たちの番が回ってきました。

 目的地を目指して出発です!


 と行きたかったのですが、後方でいまだ待機をしている生徒の姿が見えなくなったところまで歩き、私は立ち止まりました。

 そして、皆さんにある提案を行います。



「え~っと、皆さん。このままコース通り進まず、ショートカットをしませんか?」

「はい?」

「ん?」

「ショートカット?」


 私は地図を取り出して、現在地とゴール地点を直線で結びます。

「普通に道を進むと、湾曲した山道を歩き、途中で分岐した道を選ぶことになります。ですが、これだと大変なタイムロス。ですので、ここからゴールまで直線コースで向かいましょう」


 そう、提案するとレンちゃんが眉を折りました。

「直線コースって……ここからゴール地点の間には山があるんだけど?」

「その山を越えていくんですよ」

「いや、あのね……」

「大丈夫ですって。山の高さはさほどではありませんし、頂上付近は台地になってますから、一気に登ってしまえば、あとは楽ですよ」


 エルマが地図と目の前の山を見て、ため息を漏らします。

「ミコン、急がば回れって言葉知ってる?」

「失礼な、知ってますよ」

「だったら、こんな無茶しなくてもよ」


「人と同じことをしてても、同じような評価しか得られません。多少の無茶は必要なものですよ」

「そうは言ってもなぁ……」

「まぁまぁ、このショートカットを使えば、大幅な時間の短縮が可能です。私の計算では最低でも一時間半くらいは。ここで点数配分の内、五分短縮するごとに10点が輝きます。つまり、九十分短縮=180点の加算となります。これは大きいですよ」


 

 この点数について、ラナちゃんが懸念を訴えてきます。

「だっども、スタンプはどうするの? その分点数が入手できないん?」

「この180点で十分賄えると思います。それに、今回の授業の本質はスタンプじゃありませんから」


「「「え?」」」


 三人の疑問の声が重なります。

 私はその疑問に答えました。


「今回の授業について、私は伝令中に寄り道しては駄目だと言っていました。それについてもう少し深く考えてみたんです。そこではたと気づいたんです」


 ここでレンちゃんが小さくポンと手を打ちました。

「なるほど、伝令――つまり、早く情報を伝えること。そんな状況下でスタンプ集めはおかしい。スタンプ集めは罠か」

「そう、レンちゃんの指摘通り。とはいえ、スタンプを集めたからといって、減点されることはないと思います。表向き点数は加算されます。ですが、内申点は……」


 エルマも授業の意図に気づいて、頷くように言葉を漏らします。

「そういうことかぁ。授業を額面通り受け取り、それを行ったことによる点数と、授業の本質に気づいて得た点数とに振り分けられるんだ」

「そういうことです。私は後者の方が、後々の評価が高いと踏んでいます」



 と、意気揚々に私は答えましたが、ラナちゃんが不安そうに山を見つめます。

「だっども、この山を登んのは、わんずはともかくみんなはだいだけお?」

「ふふ、じぶんはともかく、ですか。ラナちゃんは自信あるみたいですね」

「んま、村では野山を駆け巡るなんてさはんのはいはいだから」

「私も同じです。レンちゃんとエルマの自信は如何ほどですか?」


「本格的な山登りはしたことないけど、こういった野外での活動や戦闘訓練を行っているよ」

「俺も同じ。それに体力には滅茶苦茶自信があるし」



「ふふ、ということは皆さん、体力気力に自信ありなわけですね。ならば、他の皆さんを出し抜いてやりましょう!」


 私は元気いっぱいに拳を空へ突き出しました。

 ラナちゃんとエルマはその勢いに押され、小さく手を上げて応えてくれますが……。



「……ふむ、そうであっても危険なんだけど」

「レ、レンちゃん。でも、ほら、この試験の本質を見抜いたことを証明できて、他の皆さんよりも印象を強く与えることができますから」


 と、言い訳――もとい、正当な理由を述べますが、レンちゃんはジーっと私の顔を見て……。

「ミコン、前回の補習、どうだった?」

「ギクギク! も、もちろん、余裕ですよ。朝飯前というか、一切れのケーキをぺろりと言うか」

かんばしくなかったんだ?」

「それは…………」


 私は観念して、ものすごい勢いで頭を下げました。

「すみません! いまいちだったんです。だから、ここで盛り返したんですよ!」

「やっぱり」


「でもでも、ほら! ラナちゃんとエルマの関係も上手くいったみたいですし、ここからは成績に目を向けて――」

「そういう言い訳は嫌いだなぁ。ここは素直であってほしい」

「あ、う……あの、皆さん、協力して頂けませんか?」



 私は猫耳と尻尾をへたりと下げて、恐る恐る三人へ目を向けます。

 すると――。


「まったく、下手な言い訳なんかつけずに、初めからそう言えばいいのに。いいよ、私は協力する。二人は?」

「わんずはミコンに世話になったから、ここでおへんしたい」

「ま、俺も誤解を解いてもらったってのがあるからいいけどさ」


「だそうだよ、ミコン」

「うう、すみません。皆さん。ありがとうございます」


「ふふ、じゃあ、話もまとまったことだし。ミコンが考えるショートカットとやらに挑戦してみるか。正直に言うと、普通に課外授業をこなすよりも面白そうだと感じてるからね」

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