第19話 監視者?
――今回の授業
アトリア学園は普通の学園と違い、士官学校としての側面を有している。
それゆえに、一風変わった授業内容が存在する。
今回の授業は伝令として、目的地へ手紙を運ぶこと。
まず、現在地・河原からスタートして、徒歩ならば五時間程度で到着できる場所に目的地が設定してある。
そのため、今回の制限時間は五時間。
河原のすぐそばには目的地へと続く山の本道。
本道は山沿いにぴったりくっつき湾曲するように先へ続いており、そこから幾つもの小道へ分かれている。
その道を自由に選択しながら目的地を目指す。
だが、ただ道を進むというだけではない。
途中途中にトラップや訓練用の魔法生物やゴーレムなどが配置されていて、それらを打ち破りながら進まなければならない。
その難易度の高低は、チームの探知能力や観察力を駆使することより変わる。
能力の高いチームは危険の少ない道を選ぶことができ、早くゴールができるということ。
また、目的地までの道中のそこかしこにスタンプがあり、それらを集めるとよりたくさんの点数が貰える。
点数の内容はスタンプが設置してあるところにより、まちまち。
点の幅は1~20点の間。
これに加え、制限時間五時間より早くゴールできると得点ボーナスがつく。
五分早まるごとに10点。
下手にスタンプを集めるよりも恩恵が大きい可能性がある。
――――
私たちは授業内容のおさらいと地図の確認を終えました。
そこから私が疑問を口にして、それをみんなが受け取ります。
「伝令なので、より安全な道を選ぶ能力というのは納得しましょう。ですが、スタンプって何ですか? 伝令中に寄り道しちゃ駄目でしょう」
「今回は伝令にプラスされて授業らしく点数があるからね。状況の取捨選択を求められているのかもしれない」
「わんずがぶんた話では、スタンプは難しい場所ほど高いってぶんた。たぶん、スタンプを貰うにもなんかすんのかも」
「もしかしてよ、スタンプの近くにこちらを窺う敵が潜んでいて、その排除をしつつ隠密に行動できる……なんてもんもあんのかもな」
「なんにせよ、始まってからのお楽しみですか。でも……ふむ」
私は地図へ目を落とし、少しばかり頭を捻ります。
(伝令なのにスタンプ。一生徒としては、点数集めは大事ですが……なるほど、そういうことですか)
あることに気づき、私は本道の隣にある山と目的地を見つめます。
「ふむふむ、ラナちゃん」
「なんず?」
「ちょっと失礼します」
「へ? キャッ!」
私はラナちゃんの背後に回り、両足をもみもみ。
「ちょ、ミコン。がんだら!」
ラナちゃんはびっくりして、私から離れちゃいました。
「あ、ごめんなさい。ちょっと確かめたいことがあって」
「確かめたいこと?」
「ラナちゃん、意外と両足逞しいですね」
「が~ん、ミコン、ひどい」
がっくりと落ち込むラナちゃんの傍にレンちゃんとエルマが寄り添います。
「ミコン、君はいきなり何を言っているんだ?」
「おいおい、いくら友達だからって足が太いとかひどすぎるだろ」
「違います違います! 太いなんて言ってませんよ! 今回の授業でちょっと思いついたことがあるから、それにラナちゃんがついて来れるか調べただけでして」
「「「思いついたこと?」」」
「そうです。とっておきの作戦が。そのためにも皆さんの装備の確認をいいですか?」
――レンちゃん
学生服姿。腰には両刃の長剣。持ち手はとても簡素ですが、刃は鋭い。
――ラナちゃん
学生服姿。魔力を増幅する指輪を装備。指輪には
――エルマ
学生服姿。スカートの下には膝上まで届く黒のレギンス。右手に長槍。持ち手は黒く、先端の刃もまた黒い。穂先の右側にフックのようなものがついている。
――で、私
学生服姿。赤い魔石が手の甲に納まった黒のグローブ。魔石は魔力を少しだけ増幅しますがどちらかというと制御に重きを置いたもの。
皆さんの装備を確認して、エルマの姿に注目します。
「レギンス……対策済みですね」
「え……ああ、まぁ、やっぱり、激しく動くから。それで人に見られるのはちょっとな」
「うん、ですよね。女の子ですもん。レンちゃん、頑張りましょう」
「ひっどいこと言うなぁ。動きやすさを重視してるから履いてないだけだよ。私の場合、レギンスをつけるとちょっと動きにくく感じるから」
「だからって、男子にサービスしなくても……」
「そんな気はないよ! そういうミコンだってスカートだけじゃないか?」
「対策をして準備してたけど、履き忘れてきただけです。フッ」
「え、そう、なんだ……」
「はい……まぁ、この話題は忘れましょう」
「自分で振っておいて……」
自分の失敗を見つめても気が滅入るだけですので目を逸らし、授業へ集中します。
内容は先ほども触れましたが、端的に言えば、スタート地点からゴール地点までなるべく早く向かうこと。
出発の時間はくじ引きで、出発時から時間を計測開始。
くじの結果、あのテンプレ嫌味お嬢様たるネティアは取り巻きたちと共に先に出発。
私たちは後発組となりました。
次々に、他のグループがゴールを目指して歩き出しています。
そろそろ私たちの番ですが――。
「うん?」
「おや?」
私とレンちゃんは同時に川を挟んだ向こう岸へ振り返りました。
ラナちゃんとエルマが不思議そうな顔をして話しかけてきます。
「どした?」
「どうした?」
「何か、奇妙な視線を感じました」
「うん、向こう岸にある山の頂上から妙な気配が。すぐに消えたけど」
「なんず?」
「さぁ、わからないな。気配に敵意はなかったけど、観察されている……そんな感じのものだった。ミコン、どう思う?」
「観察……先生方ですかね? 万が一、私たちが大怪我をしないように見張っているとか?」
「なるほど、かもしれない。一応警戒しつつ、授業に参加するとしよう。そろそろ、私たちの出立の時間だしね」
レンちゃんにそう言われ、頭の片隅に奇妙な気配のことを置きつつ、私たちは授業へ意識を集めることにしました。
――向こう岸の山・頂上付近
草木に隠れるように黒い影が蠢く。
影は言葉を発する。
「驚いた。この距離で、しかも僕の気配を感じ取れるなんて。ミコン=ペルシャは獣人。人間族よりも勘がいいみたいだ。そして、レン=ディア=バスカ。さすがはバスカ家のご息女。剣士の卵とは言え、なかなか。フフ、これはちょっかいの掛けがいがありそうだ」
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