第4話 賢者様、血に沈む。
※ミュオン触媒核融合とは――
これは水素に粒子をぶつけると核融合反応を起こせるという超お手軽なもの。
だけど、ミュー粒子を造るのにすっごいエネルギーが必要なので、核融合を起こしてエネルギーをゲットしても赤字。
だけど、今回はおばあちゃんの指輪の力を借りているので、エネルギー消費の問題は全く無視して行えました。
以上、説明終わり。
――――――――――
ミュー粒子を放った瞬間、水球が白光を帯びて激しい閃光を解き放ちました。
そこから感じ取られる力は私の想像を遥かに超えるもの――。
「あれ、これってやばい?」
「くっ! このままでは学園、いや、町そのものが!! 魔力を高めないと!!」
賢者様の怒声とも言える声が駆け抜けていきました。
同時に、私たちの周囲を覆っていた結界と賢者様を守っていた結界の力に急激な高まりを感じます。
私もおばあちゃんの
「うそ、出力が上がらない! ちょっと! あ!?」
水球は弾け飛び、そこから熱と光が交わり溶け込んだ暴虐な風が爆発的に広がりました。
「きゃぁぁあぁぁぁあぁぁ!」
「ミコンさん!? 間に合え!!」
世界の全てを白に染めて溶かし尽くす嵐の前であっても、賢者様は自身と多くを守るための結界を確かなる力で守護していました。
さらには、私の結界を強化しようと魔力を注いでくれますが――間に合いません!
「このままじゃ死んじゃう! ごめんなさい、おばあちゃんにパパにママ――――ニャントワンキルの禁忌の力を使います!!」
おばあちゃんやパパやママから人前で使うなと言われていた、私の隠された力。
それはニャントワンキルの魔女王の力の一端。
今、この広場は光に満たされている――これならば、使っても誰の目にも止まらないはず!
私はありったけの魔女王の力を
その想いに応えてくれたのか、一度は光に屈しようとした
そして、ひび割れた結界に飛び込んできた光を掻き消し、結界の外側を紫の光で包み込みます。
「よし! これで何とかしのげそう!」
巨大なエネルギーの暴流。
時間にすれば、十数秒程度でしょうか。
それでも私にはとてもとても長い時間に感じました。
やがてはその時間も流れ行き、地上に表れた太陽は沈黙し、熱は霧散し、光は消え去りました。
「はぁはぁはぁ、いや、まさか、核融合がこんなにすごい魔法だったなんて……あ、そうだ!」
私は急ぎ、指輪で周囲の汚染を確かめます。
「中性子、問題なし。指輪の力でそれは制御できたから大丈夫みたい。核融合の瞬間に発生した中性子は分厚い水の結界が受け止めたからこちらも問題なし。光も黒の水が緩和しているはずだから失明の危険もなし――うん、おーるおっけー!」
と、指輪から視線を外して顔を正面に向けました。
そこには…………血反吐を吐き続ける賢者様の姿!?
「がはぁっ。ま、まさか、あれほどのエネルギーを。これが古代魔法……ミリ秒でも対応が遅れてたら、町が消滅、がはぁぁあ!」
そう、賢者様は遺言を残して、自分の吐いた血の海に沈みました。
「賢者様!?」
私はすぐにでも賢者様のもとへ駆け寄ろうとしたのですが、その時、右手に持っていたおばあちゃんの杖がボッキリ折れちゃいました。
「え? 何が?」
瞳を杖に寄せます。
杖は折れた場所からさらさらとした粒となり零れ落ちて、塵に帰っていきます。
「ちょ、なんでって? 指輪も!?」
装備していた指輪も首から掛けていた
「どうして? 負荷を掛け過ぎたから? どうしよう……おばあちゃんに殺される……いや、今はそんなことより賢者様!」
意識を賢者様に戻します。
ですが、すでに先生方が賢者様の介抱を行っていました。
一度は地面に伏した賢者様ですが、片膝をつきつつも、はっきりした受け答えを行っています。
その様子からして、命に別状はなさそうです。
だけど、ホッとするのも束の間。
教会のシスターのような真っ黒なローブを纏った学園長のオウル先生が、僅かに白髪が混ざる黒髪を逆立てて、深緑の瞳で私を睨みつけながら近づいてきます。
「ミコンさん……学園長室まで、御同行願いますか? いえ、ただち来なさいっ」
「は、はい!」
こうして、私のやらかしで模擬戦はうやむやな感じで幕を閉じました。
私はオウル学園長と後見人である老魔導師ヴィエドマさん・学園のお偉方。そして、体力と魔力が回復した賢者セラウィク=セレトゥイテニス様に囲まれて、事情聴取とお説教を受けたのでした。
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