大魔法使い(予定)・猫の子ミコン~現代魔法は苦手だけど、破壊力抜群の古代魔法は得意なんです~
雪野湯
第一章 賢者様を血に沈める
第1話 赤点からの一発逆転!
「ミコン、アトリア学園は優秀な子どもたちが集まった学校だからね。授業に遅れないように頑張りなさい」
「健康には気を使うんだぞ。怪我にも気をつけて。もちろん、勉強もしっかりな」
真っ白な毛に包まれたチャーミングな猫の姿に青いエプロンを纏ったママ。
茶とら
パパとママからとても温かな言葉で送り出された私は元気いっぱいに返事をしました。
「任せてください! 村では神童と呼ばれた私の才能を都会っ子に見せつけてやりますから!」
そうして、意気揚々と都会の学園へ向かったのですが……。
――入学から二か月後
「ま、魔導学……総合テスト……23点…………」
ヤバいヤバいヤバイ、ヤバいですよ。
40点未満は赤点。
このままじゃ、見せつけるどころか退学になっちゃう!!
とってはいけない点数が記載されたテスト用紙を両手で握り締めて小刻みに震えている私は、『魔導学園都市アダラ』の『アトリア学園』に通う生徒・ミコン=ペルシャ。
見た目はパパとママと違って、人の姿にマリーゴールド色の猫耳とスレンダーな尻尾が生えた十五歳の女の子。
髪はセミロングで、髪の色は耳と尻尾よりもオレンジみの濃い色。
ちょっぴり丸みを帯びたレモンイエローの瞳が特徴で、武道を
ですが今は、その腕白っぷりも鳴りを潜めて、はわわわ~と声にならぬ声を漏らす哀れな子猫です。
この様子を後ろから見ていたレンちゃんが話しかけてきました。
「大丈夫かい?」
レンちゃんは学園の寮の同じ部屋に住む同級生の友達。
身長は私よりも10cmくらい高く、166cmはあります。
女の子だけど中性的な美しさを持つ、青色のボブカットのボーイッシュな子です。
おかげさまで同性の女の子から人気があったりします。
レンちゃんは自分の椅子に腰を掛け、あごに手を置き、森の色を溶け込ませたエメラルドの瞳で私を見ています。
教室から寮の部屋に戻ってきたばかりなので、私もレンちゃんも学生服姿のまま。
青と水色と黒の模様が不規則に交差するマドラスチェックのスカートに、薄い青色のブラウスと濃い青色のネクタイを締めた姿。
私はレンちゃんの声に答えます。
「どうしよう、レンちゃん。中間考査で赤点を……退学になっちゃうかも」
「いや、補習があるし。それにまだ、期末考査が残ってるから、そこで結果を出せば大丈夫だよ」
「だいじょばないですよ! 魔導学園の生徒なのに、いっちばん重要な魔導学のテストで赤点をとっているんですから! 魔導学の小テストだって、ほら!!」
中間考査に至るまでに定期的に行われた十数枚の小テストたち。
彼らを木床にぶちまけて、呪いの声を生みます。
「おかしいぃぃ! こんなはずじゃなかったのに~。都会っ子たちに私の凄さを見せつけて憧れのお姉さま的な存在になる予定だったのに~」
錬金術を操る猫の一族が住む『ぷにぷに村』の学校で、私は村一番の成績を誇る生徒でした
神童とまで言われ、すっごい調子こいてました。
その才が認められて、アトリア学園の顧問である『老魔導師ヴィエドマさん』に学園への入学を勧められました。
ですが、学園の魔導学の勉強はぷにぷに村の学校と全く内容が違ったのです!
私は涙ながらに語ります。
「ううう、国語や数学や歴史なんかの基本教科は申し分ない成績なのに、魔導学が赤点なんて……私は魔法使いになりたいんです。そのためにアトリア学園へ入学したのに、他の成績が良くても魔導学が駄目なら意味がないんですよ!」
「たしかに、他の成績はいいよね。でも、魔導学だけは赤点……故郷で学んだものとそんなに違うんだ?」
「ええ、まったく。魔導体系の根本が違うんですよ。魔力の源である『レスル』を基軸として力を産み出すまでは同じなんですが、それを操る概念が……なんですか!? 木に火を与えると燃えるから、木には火のレスルが宿っているとか。金属は電気を通すから、雷のレスルが宿っているとか。もう、わっけわかんない! しかも、実際宿ってるし!!」
「う~ん、それがわからない理由がわからないんだけどなぁ。ミコンが学んだ魔法はどうなものだったんだい?」
「そうですね。例えば、水を産み出す魔法。レスルの力を利用して大気中の水素分子と酸素分子を結合して水へ変換するんです。それらをレスルによって増加して効果を増す。といったものです」
「なるほど、何を言っているのかわからないな。世界の片隅に暮らす錬金術を操る猫の一族は、この『カロス』に魔法をもたらした、魔法の始祖とも呼べる存在……だけど、その魔法も時が経ち、様変わりした。ミコンが操る魔法は私たちが忘れてしまった古代魔法。だから、現在の魔導体系とかなり違うのかもね」
「そうなんですよ。はぁ~、魔法の始祖の看板を背負った私が魔法が駄目駄目って……まさか、都会の学校の魔導学がこうまで進んでいようとは……」
どうやら、私が学んだ魔法はカビの生えた古臭い魔法のようで、魔導学の最先端を歩くアトリア学園では全く通用しないようです。
それでも何とか頭を切り替えて、新たな魔導体系を学ぼうとしたのですが、古い概念が邪魔をしてなかなか頭に入ってこない。
どれだけ常識が違うかというと、水を凍らせる場合、私の学んだ魔導学は分子の熱運動を弱めつつ分子間力を高めるのがポピュラーな方法なのですが、新たな魔導体系では、水は凍るもの。
だから、水のレスルが凍るイメージをすると凍る。というもの。
わざわざ、頭の中で分子を操る方法を考える必要もなく、イメージを即座に反映できるという恐ろしいまでに無駄のない方法なんです。
私はどうしても頭の中で理屈を考えてしまい、上手くいかない。
そのため、魔導学のテストも実践魔法も点数は下から数えた方が早い状況。
「このままじゃ仮に退学にならなくても、魔導科から一般科に移されて魔法使いの道は閉ざされてしまいます」
「そっか、その可能性はあるね。そういえば尋ねたことはなかったけど、どうしてミコンはそんなに魔法使いになりたいんだ?」
「幼いころ読んだ『魔女と猫』のお話を読んで、将来は世界一の大魔法使いなると決めたんです」
「有名な絵本だね。魔法を操る猫耳の女の子が大勢の魔法猫を引き連れて世界を救う話」
「そうです! 絵本に登場する魔女は私たちの一族のご先祖である、ニャントワンキルの魔女王だと言われています。あの絵本は私の人生のバイブル。だからこそ、魔女王みたいな世界一の魔法使いに! でも……その夢が
私は椅子の上に立って、猫耳をピンと張り、尻尾を天井へ掲げます。
レンちゃんは私がばら撒いた小テストを拾い集めながら、私が口にしたチャンスについて尋ねてきました。
「チャンス? 補習以外に何かあったかな?」
「それは――学園恒例の行事である、賢者様の視察です!」
私たち新入生が学園へ迎い入れられ、学園生活に慣れた夏の少し前に、魔法使いの最高峰たる賢者様が学園へ視察にやってくる行事。
そこでは歓迎会の意味合いを含めて、賢者様と模擬戦を行えるんです。
「そこで結果を残せばテストが赤点であっても、とりあえず魔導科に残してもらえるはず。なにせ、賢者様をぶっ飛ばしちゃうわけですし」
「いや、ぶっ飛ばしたら駄目だろう。でも、あの行事は成績上位者しか参加できないんじゃ?」
「ええ、そうです。ですが、それは十名中、上位者の九名まで。残り一名はクジ引きで成績の悪い子にも機会を与えるという、運という名の公平を
「ああ、そんなのがあったね。でも、クジだと選ばれるかどうか」
私はぴょこんと椅子から飛び降りて、人差し指と尻尾を連動させながら左右に振ります。
「チッチッチ、運とは――自分で呼び込むもの創り出すもの奪い取るものですよ!」
「うん?」
「私、ミコンは、現代魔法の実践やテストは苦手です。でも、古代魔法の特性を生かせる魔導トラップ解除なら得意なんですよ」
「え?」
「賢者様の歓迎イベントの参加権を得られるクジ箱は学園長室の金庫の中――つまり、そういうことです」
私は猫耳をぴくぴく動かしながら満面の笑みを浮かべます。
それに対してレンちゃんは眉を顰めながら答えます。
「不法侵入に不正行為……」
「フッ、バレなければいいんです」
私の可愛くもやんちゃ笑いに、レンちゃんは大きなため息を返しました。
「はぁ、なんてことを……でも、ミコンがいなくなるのは寂しいからね。聞かなかったことにするよ」
「ありがとうございます。一見堅物そうだけど、レンちゃんのそういう柔軟なところ好きですよ」
「ふふ、ミコンと付き合っていれば嫌でも柔軟になるよ」
「にゃにゃ、なんだか不本意な評価ですね。ま、それはさておき、レンちゃんは行事に参加しないと聞いたんですが本当ですか? 魔導の成績は七位なのに」
「私は魔法剣士だけど、剣の方に重きを置きたいと願ってるから、魔法使いを目指す子に枠を譲ったんだ」
「そうなんですか。剣士の方に。レンちゃんは剣の名門の貴族ですもんね」
レンちゃんのフルネームはレン=ディア=バスカ。
剣の名門バスカ家の次女。
そして、四大名門といわれる大貴族様なんです。
入学当初、レンちゃんと同室になった私はそんなことも知らずに気楽に声を掛けてしまいましたが……。
ですので、田舎娘の私ですが大貴族のレンちゃんであっても肩ひじを張らずに接しています…………そのせいで、レンちゃんのファンにはつるし上げを食らいましたが。
まぁ、そこは拳で黙らせました。
レンちゃんは壁に飾ってある剣を見つめて、寂しさと決意の溶け合う瞳を見せています。
おそらく、憧れの姉に対する距離の遠さと、それに追いつく覚悟を見せているのでしょう。
「レンちゃんは剣士を目指して……うん! 私も負けてられない! 必ずや、三日後の模擬戦で、賢者様をぶっ殺して見せますね!!」
「いや、だから、殺しちゃダメだって……」
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