紫煙
心之丞
✴︎
残像を残しながら閃光を放つ切刃
刃先が薄い皮膚と動脈を切り裂く感触
地面に滴る朱殷
新鮮なヘモグロビンの薫香
ああ、あなたは僕に生きる糧をくれた
暗く澱んでいた日々に力強い光を灯してくれた
耐え難いほどの苦しみ
どうしようもないほどの絶望感、虚無感
厭世感に絡め取られていた僕を
あなたは救ってくれた
ああ、嬉しくて泣いてしまいそうだ
あなたも泣いている
顔をくしゃくしゃにして
歓喜を表現してくれている
その頰に伝う雫がきらきらと煌めいている
人差し指で掬うと、ぷるんとしなやかに弾む中に僕を映す
うっすらと開いた瞼から覗く榛色の瞳
もう僕を捉えない瞳の中に、ゆらゆらと歪む僕が映る
ドクッドクッ
高鳴る胸の鼓動は静まることを知らない
造血幹細胞から産生された血液が、抹消血管の隅々にまで駆け巡る
全身を蠢く生命の源
瞼を閉じると、その波打ちを強く感じる
深く息を吸う、限界まで
横隔膜が下がり、肺が破裂しそうになるまで
もっと、もっと
そして、ゆっくりと吐き出す
心臓の鼓動が、先程よりも大きなって聞こえる
リズミカルに、美しい旋律を奏でるように
ああ、生きてる、僕は生きてるんだ
どこまでも深く、実感する
これほど、生きていることを実感する瞬間はないのではないか
僕は、この刹那に巡る生命の息吹を感じるために生きているのかもしれない
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