第2話
今年の夏休みは例年に比べるとかなり暑くなるそうだ。ニュースでやっていた。だが、今日はあいにくの雨。午後からはもっと強くなるらしいが、現時点でかなり大きめの雨粒が傘を打ちつけていた。1歩ずつ踏みだす度に革靴の音と水の音が鳴っている。
俺の学校には、生徒全員が部活に入らないといけないという校則がある。そもそも部活に入る気は無かったが、校則には従わないといけないため、クラスのすぐ仲良くなった2人と共に『雑談部』というものを創った。活動内容や活動日は特に決まってないが、どうしても今日は大事な話があるらしく、召集がかかった。
ちなみに集合時間が10時なのだが、俺は9時45分頃に起きた。家から徒歩で30分近くかかるため、確実に遅刻するだろう。
さて、どうやって謝罪をするか考えるとするか。
何だかんだで学校に着いた。時刻は10時30分。確実に2人から怒られるだろう。普通なら賑やかな声や部活の声などが聞こえるだろうが、雨音と自分の足音しか聞こえない。
部室は旧校舎の端にあるため、正門から少し時間がかかる。誰もいない中庭を通り旧校舎の中に入ると、さっきまでの雨音はノイズのような音に変わり、床の軋む音が増えた。
部室の引き戸を開けると、そこには殺伐とした空気が流れていた。折り畳みの出来る長机が2つ置かれており、男女がそれぞれ向かい合い、手を組み肘を机につけながら座っていた。流石に怖かったため、扉を1度閉めてしまった。
10秒ほど間隔をあけてもう一度引き戸を開けると、そこには鬼のような形相をした男女2人が立っていた……
「キャーーー!」
旧校舎中に俺の叫び声が響き渡った…。
「叶向遅すぎだぞ…」
「読心遅すぎ!」
「すまんすまん…」
叶向って呼んできたやつの名前は笹原
読心って呼んできたやつの名前は朝野
「ところで優斗、大事な話って何だ?」
俺は椅子に座ろうとしながら、一応部長である優斗に確認をした。
「僕もわからない。朝野が召集かけたからな」
「ほう、じゃあ朝野。大事な話って何だ?」
優斗からの返事を聞き、そのまま朝野に問いかけた。
すると朝野は
「大事な話があるんです」
と言った。少し緊張しているのかタジタジしている。
「早く本題に移ってくれ」
急かすような感じで申し訳ないが、これからもっと雨が強くなるから早めに帰りたい。それに旧校舎にはクーラーが無いため、夏の雨の日の蒸し暑さは天敵だ。家で涼みたい。すると朝野は少し顔を赤くしながら
「わかった、あの皆の初恋ってどんな感じだった!?」
と質問した。
思いもよらない質問の内容に思わず開いた口が閉じなかったが、直ぐに優斗が反応した。
「初恋ねぇ…僕は小学五年生の時にしたかな」
意外だ。モテてる印象はあったけど、人に恋している印象は無かった。
「カブトムシにしたなぁ…」
やはり優斗は優斗だったようだ。
「はぁ…で、読心はどうなの?」
どうって言われても、人にするような話じゃないからな…
「あんま面白くないから俺は話さないぞ」
「その言い方ってことは、叶向初恋してるんだ」
「確かに、つまらなくてもいいから話して」
めんどくさい事になってしまった。早く帰りたいから簡潔にまとめて話して帰るか。
「えっと幼稚園児の時の話なんだけど……」
心を読めることを隠して、美世との話を2分で説明した。
「何その話……」
やっぱこういう反応…。傍から見たら気持ち悪い話だよな…
「すごくいい話じゃない!読心!」
「泣きそうだぞ叶向…」
正直驚きを隠せない。そんな悲恋みたいな扱いされるのか?この話…。
「読心はさ、その子にまた会いたいとか思わないの?」
「会えるなら会いたいけど、別に会いに行く理由も無いしな」
この発言のせいで少し沈黙が生まれてしまった。
ぇもいきなりの引越しで消えたから、引越し先もどこなのか分からない。それに電話番号も知らなかったから、手がかりが一切ない。
だからどうしようもない。
すると優斗が重い口を開いた。
「でも叶向が会いたいと思ってるんだったら、それが理由で良くないか?」
俺は考えもできなかった発想にびっくりしてしまった。
そしてそれに賛同するかのように朝野も喋り始めた。
「そうよ!ねぇ読心。この夏休みの期間中、3人でその初恋相手を探しに行かない?」
まさかの内容の連続に俺は開いた口が塞がらなかった。
「いいなぁそれ!朝野に賛成だよな?叶向」
正直2人にそう言われて嬉しいし、美世に会えるなら会いたい。でも会える見込みもないし、仮に探すとしても絶対に2人に迷惑をかけるだろう。
「いや、いいよ別にそんなの。絶対に見つかる訳じゃないしな」
「何?もしかして私たちのこと気遣ってるの?」
「そんな必要なんて僕たちには必要ないと思うんだが。だって、僕たち友達だろ?」
友達、か……。友達って言葉の響きに少しうるっと来てしまった。
「しょうがないな。でも俺は忠告したからな?」
流石にもうお手上げだ。参った。2人の意見に乗るしかないようだな。
「大丈夫だ。絶対に見つけてやるから!」
優斗がそう言うと、朝野が大きく頷いた。
「じゃあ、明日も10時にここ集合ね!明日はちゃんと時間通りに来るんだよ!読心!」
「わかったよ」
そうして、俺は学校を後にした。そういえば、朝野がこの話を始めた理由って何だったんだろう。ついでにあいつの初恋も聞いときゃ良かったな。
まあそれは置いといて、すごく楽しい夏休みになりそうだ。
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