光は君の心の中に

@nezima_ma

第1話 出逢い。そして別れ


俺は生まれつき人の心が読める。相手の顔を見れば、まるで漫画の吹き出しのように心の中が読める。幼稚園児の時の話だが、それについて話しても誰も信じてくれないし、笑われるのがほとんど。証明するために、実際にその人の考えてることを言うと、気味悪がられ、それからは醜いものを見るような目で睨まれることもあった。しかし、1人だけ信じてくれる少女がいた。その少女の名は天野 美世あまの みよ。俺の親の友達の子だった。彼女とはじめて会った日は美世の父親の誕生日会だった。テニスコート2面分はありそうな広い建物。それに美世の父親は有名な会社の偉い方らしく、たくさんの人が誕生日会に参加していた。俺はその環境に少し震え戦いていた。ずっと会場の端の方にいたが、いきなり親に連れられ、美世と美世の両親に挨拶することになった。俺は他人が怖かったため、父親の後ろに隠れていたが、勇気を振り絞って、自己紹介をした。

「読心 叶向どくしん かなたって言います。よろしくお願いします」当時、お互いに幼稚園児だったのだが、幼稚園児にしては少しかための挨拶。だが少女はクスッと笑い、

「よろしく、私は美世って言うの」と返してくれた。この時少しだけ彼女に対しての恐怖心が無くなったのだろう。

その日はずっと2人で行動していた。もちろん、この日に自分の力についても説明した。すると美世は

「へー!凄いじゃん!今の私の心の中もバレてるんだぁ……」と少し拍子抜けな反応を見せた。でも今までの人達と違う反応に、少し嬉しくなってしまい、徐々に彼女に依存していった。それに同い年であること、同じ小学校に進学しようとしていることなど、色々な共通点もあり、次第に仲良くなっていった。

小学生になってからは、毎日のように2人で遊ぶようになった。今思えば、何が楽しかったのかよく分からないが、2人だけでかくれんぼや鬼ごっこをやっていた。

これから話す内容は小学3年生の時の夏休みのある日の話だ。町の近くにある山で2人で遊んでいた時のこと。お互いに活発な子供だったので、虫取りをしていた。俺はセミやカブトムシを必死に探していたのだが、美世は飽きてきたようで、不満を漏らしていた。しばらくすると美世がいきなりどんどん山の奥の方へと進んでいき、どんどん離れていった。逸れるのは嫌なので、俺も美世に着いて行った。辿り着いた先には祠があった。まるで2人とも祠に引きこまれるような感じだった。そこから出されるオーラは少し不気味で、祠の半径10m以内には木が1本も生えておらず、まるで祠を守っているかのように感じた覚えがある。正直少し怖く感じ、美世に戻ろうと促すが美世は少しずつ祠に近づいていく。そして美世は祠の目の前に立つと、振り返って俺にこう言い放った。

「せっかくだしこの祠にお願い事をしない?」

「少し変な感じするし、やめようよ…。早く帰らない?」

俺は祠に圧倒されていた。

「え、何ビビってるの!?叶向の弱虫!」

「なんだって!?分かったよ!しょうがないなぁ…」

確かこの一瞬で美世に対してかなり苛立ち、ムキになって美世に乗ってしまった。その後、2人で祠の前に横で並び、お願い事をした。御参りのやり方は親から教えられたので、問題なく出来た。あとしっかりお願い事も心の中で願った。夕陽が沈み始め、徐々に暗くなっていく。流石に家に帰るのが遅すぎると、「親が怒るだろうからもう帰ろう」と美世に言った。すると美世は「小学校まで競走ね!」と走る。それに少し呆れながらも、走って追いかけた。俺は小さい頃からあまり体力が無かった上、足も早くなかったため、足がもつれ呼吸が苦しくなった。すると美世は足を止め、俺の元へ走ってきた。

「もうしょうがないなぁ、歩きながら話して帰ろうか!」

腰に手を当てながら笑顔でそう言う美世に、何故か微笑ましく思い、笑ってしまった。

坂道を降りながら、美世は話しかけてきた。

「そういえばさ、さっき何願ったの?」

「教えるはずがないよ」

願い事を誰かに言うと叶わなくなる、と聞いたことがある。だから美世にも言えなかった。

「確かにそうだよね。私も聞かれても言わないもん」

多分美世は忘れているんだと思う。俺が人の心を読めることを。彼女は『いつまでも叶向と一緒にいれますように』と願っていた。俺は家族以外の人に初めて認められたと思った。美世と明日も遊びたいからと、遊びに誘ったが、明日から家族で旅行に行くからと断られてしまった。

でも、この日の出来事は今も鮮明に覚えている。

それから夏休みの間に美世と会うことは無くなってしまった。

夏休みが明け、久しぶりに美世に会えると思い、ワクワクしながら学校に向かった。しかし教室に美世が姿を現さないまま担任の先生が入ってきて朝礼を迎えた。

「きりーつ、礼」と挨拶が終わると、先生は悲しそうな雰囲気を出し口を開いた。

「天野 さんが転校しました」

皆は一斉に「えー」と反応していたが、俺は声が出なかった。美世から一切聞かされてなかったし、美世が転校するなんて思ってる時すら無かったからだ。あの祠での、美世の願い事から色々なことを考えてしまい、その日の授業はまともに頭の中に入らなかった。家に帰ってからは感情が抑えられなくなりずっと泣くと同時に、この力を恨んだ。心さえ読めなければ美世に対して、こんなに辛い思いをせずに済んだのに、と。

その後ショックのあまり、1週間ほど学校を休んだ。心の拠り所であり、唯一信頼していた友達であった美世が居ないのがどうしても辛かった。



俺はその日からもっと臆病で奥手な人間になってしまった。当時のことは今も強く印象に残っている。正直この力自体良いものだと思ってないし。でも、出来ればもっと美世と一緒にいたかった。今思えば、これは初恋だったのかもしれない。でももう6年以上前の出来事だし、どうせもう会えないだろうから、この想いに蓋をすることが最適だと思う。明日から高校生初の夏休み。部活があるし、新たな人間関係も出来たから、いつまでも引き摺っていると、高校でできた友達に失礼だ。だから美世についてはなるべく早く忘れるべきなのかもしれない。

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