第101話 秘策
長剣の
「千紘ちゃんこれ使いなさい! あたしの代わりに、わかったわね!」
すぐさま千紘が声のした方へと顔を向けると、声の主――香介と目が合った。
真面目な表情で一つ頷いた香介は、
もちろんノアの協力だけでなく、香介の刀も今回の作戦には必要なものだ。
「ああ、わかってる!」
千紘は大きな放物線を描きながら飛んできた刀をしっかり受け取ると、即座に鞘から抜き、左手で強く握りしめる。
それから、刀を投げることができるまでに回復した香介の姿に、ほっと胸を撫で下ろした。
そこで、隣にいる秋斗から声が掛かる。
「これで千紘の準備はできたな」
「ああ、いつでも行ける」
千紘が秋斗に向けて首を縦に振ると、秋斗は邪魔にならないようにと考えたのだろう、後ろに下がった。
「おれも大丈夫だし、後はノアだな」
「ノア、準備できたか?」
顔を戻した千紘が、今度はノアを見やる。ノアはまだ千紘と秋斗から少し離れた場所――律と香介の
千紘が確認すると、
「こっちも準備できてるよ!」
ノアは笑顔で答えながら、ピースサインを見せる。
その時だ。
離れたところからこれまでのやり取りをのんびり眺めていたギウスデスが、呆れたように零した。
「どんな秘策があるのかは知らないけど、簡単に勝てると思わないことだね」
「随分と余裕があるんだな」
「まあね。だから君たちの茶番をおとなしく見守っていてあげたんだよ」
千紘がまっすぐにギウスデスを見据えると、ギウスデスはわざとらしく肩を竦めた後、そう言って
いつでも千紘たちを攻撃することができたはずなのにそれをしなかったのは、相当な自信があるからだろう。
(ホントにいけ好かないやつだな)
千紘にとっては少々どころかかなり面白くないが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「茶番……ね。ま、いいけど。でもどうだろうな。やってみないとわからないこともあるだろうし、試すくらいはいいだろ?」
「そうだね。それくらいはさせてあげよう」
不敵な笑みを浮かべる千紘に、ギウスデスは素直に頷いた。あくまでも五人を格下だと見ているようである。
千紘たちが何かを試したところで、意味などないと思っているのだろう。
見下されていることには腹が立つが、今に限っていえば、その
「それは助かるよ」
千紘はギウスデスの余裕を逆手に取れたことに安堵しながら、心の中でさらに笑みを深める。
これで最低でも一撃はギウスデスに叩き込むことができるはずだ。今はそれに賭けることしかできないが、何もできないよりは断然いいだろう。
当然、その一撃が勝負の分かれ目となることはわかっている。
「ではやってみるといい。ただ、失敗した時はわかっているだろうね」
「もちろん」
ギウスデスを見つめながら、千紘はしっかりと頷いた。
言われるまでもなく、作戦の失敗はすなわち死を意味している。
失敗した後の作戦までは決まっていない。この作戦を思いついただけでも上出来なのだ。
作戦が失敗した時点で、すぐさまギウスデスは反撃してくるだろう。そうなったら、次の相談をしている暇などない。
間違いなく瞬殺されるのは目に見えている。
どのみち、この一撃にすべてを賭けるしかないのだ。
「じゃあ、やるぞ!」
千紘が力強く声を上げると、秋斗とノアがそれぞれ両の手のひらを千紘に向け、真剣な表情で構える。そのまま静かに魔法の詠唱を始めた。
「聖なる水よ、今ここに
秋斗の詠唱が終わると、千紘が手にしている長剣の刀身が一瞬で氷に覆われる。
「
今度は左手の刀が同じようにノアの炎に覆われた。
「剣に魔法を
いかにも余裕そうに腕を組んで様子を眺めていたギウスデスの口から、声が漏れる。
(さすがにこれは予想してなかったか)
ギウスデスの声は平静を装ったものではあったが、その前にほんのわずかに目を見張ったのを、千紘は見逃さなかった。
秋斗から作戦を聞いた時は、千紘だって「本当にできるのか」と疑ったのである。ギウスデスが驚くのも無理はない。
このような反応をしたということは、これから千紘たちがしようとしていることもきっと想像できていないだろう。
それならば、まだ勝機もあるはずだ。
(よし、ちゃんと魔法は乗ったな)
氷の剣と炎の刀、両手を交互に見やった千紘が満足そうに目を細める。
まずは長剣と刀に、秋斗とノアの魔法を纏わせることができた。
これで第一段階はクリアである。
(後は秋斗とノアがどこまで魔法を制御できるかだけど、まああの二人なら大丈夫だろ。さて、そろそろ行くか!)
千紘は挑戦的な瞳でギウスデスを睨みつけると、迷うことなく地面を蹴ったのだった。
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