第90話 スターレンジャーvs.ギウス四天王・1
無事に作戦が決まった千紘たちは、改めて扉の前に立つ。
思い切って勢いよく扉を開け放つと、中にいた三人の男女がその音に反応してすぐさま振り返った。しかし、千紘たちの姿を認めても動じる様子はどこにもない。
きっと、ノアが消えたことからある程度の予想はしていたのだろう。三人にとっては、ここに来ることも想定内だったというわけだ。
「よくここまで来たな!」
仁王立ちして五人を出迎えたのは、よく見知った顔の青年である。いつも偉そうな態度と、うるさい話し方が特徴的だ。
もし本当にこのような人間が身近にいたら、千紘は何があっても絶対に関わりたくないと思っている。
千紘にとっては、それくらい面倒なキャラなのだ。
青年に向けて、千紘が大げさな仕草で首を傾げる。
「えーと、誰だっけ?」
「ルセスだよ! ル・セ・ス・様!」
千紘のわざとらしい台詞に、ルセスは瞬時に顔を真っ赤にすると大声を上げた。
「ああ、ギウス四天王に似た名前のやつがいたかもしれねーな」
真顔でなおもそんなことを言う千紘に、ルセスがさらに悔しそうに
「『似た名前』とか言ってんじゃねー! おれがルセス本人なんだよ!」
そう、ルセスはギウス四天王の一人だ。
もちろん、千紘たちはルセスのことをよく知っている。名前も顔も、忘れたくても忘れられない。ドラマ撮影の間、ずっと見てきているのだから当たり前だ。
だが、今はあえて知らないふりをしている。これも作戦の一部である。
ルセスが必死になって千紘に噛みついていると、その横から若い女性がまたも大声で割り込んできた。
「随分と失礼じゃない! まさかこのエリダ様のことも忘れてるってわけじゃないわよね!」
そこで、すかさずエリダの前に立ちはだかったのは香介である。
「エリダとか言ったかしら? あなたの名前は覚えてないけど、あたしとキャラが被ってることはしっかり覚えてるわよぉ」
「あんたなんかと被ってるわけないじゃない!」
「十分被ってると思うけどぉ。まあ、あたしの方がずっと綺麗だけどねぇ」
「はぁ? 何言ってんのよ、あんた!」
香介とエリダは、あっという間に一触即発の状態になっていた。
エリダは
(そもそもの性別が違うんだけどな……。いや、その前に人間と怪人の違いがあるか……)
千紘は二人を横目で見ながら、小さく溜息をつく。
思っていることはきっと他のメンバーも同じはずだ。実際、香介以外の全員が苦笑していた。
しかし心の中で思ってはいるが、誰も決して口には出さない。口にしたが最後、香介にどんな目に遭わされるかわかったものではないからである。
「エリダは黙ってろ!」
ルセスは自分を無視されたくないらしく、懸命に香介とエリダの間に入ろうとしていた。
(これはまれに見るカオスだな……)
もはや千紘には、だんだんと混乱していくこの場を眺めることしかできない。
千紘が腕を組んで呆れていると、ルセスとエリダの背後から少年の冷静な声が聞こえてきた。
「二人とも黙って」
「でも、メレオル……」
「いいから」
静かではあるが有無を言わせない口調に、ルセスとエリダが揃って無言になった。
メレオルと呼ばれたのは、四天王の中で最年少の少年である。
正確な年齢は不明という設定だが、ルセスやエリダよりはずっと子供に見える。見た目だけならば律よりも幼い。
けれど、実力は四天王の中では一番だ。
メレオルの言葉で場が静かになったのを見計らって、すぐに千紘が口を開く。
「とにかく、アンタらに用はないんだよ」
「何だと! スターレッドのくせに!」
冷めた眼差しを向ける千紘に、またルセスが噛みつこうとした。
「今はレッドがどうとかは関係ないだろ」
「おれには関係あるんだよ!」
そこで、これまで後ろに控えていたノアが一歩前に出て、千紘の隣に並ぶ。穏やかな笑みを浮かべると、メレオルをまっすぐに見据えた。
「黒幕のところまで案内してくれると助かるんだけど」
だが、目の前のメレオルは冷静な表情を崩すことなく、両手を頭の後ろで組む。
「ふーん、教祖様が帰ってきたと思ったけど、やっぱりもう洗脳が解けちゃってたんだ。残念」
そう言いながらも、メレオルの顔には『残念』などとはどこにも書かれていない。これも想定内だったのだろう。
「洗脳……ね。なるほど、秋斗が言った通りだったか」
千紘は秋斗がノアの部屋で言っていたことを思い返した。
他のメンバーも同じことを考えたらしく、互いに顔を見合わせる。
次にゆっくり言葉を絞り出したのは秋斗だった。
「……洗脳なんて、お前らがやったのか?」
「まさか。そんなこと僕らがすると思ってるの?」
「本当か?」
メレオルに向けて、秋斗は声を低め、さらに厳しい視線を投げつける。
おそらく、ノアを洗脳して利用しようとした奴を許せないのだろう。
そこで千紘が秋斗の肩を優しく叩いた。
「秋斗、こいつらにはそんな能力なんてないだろうし、きっとホントだよ」
「……千紘。そっか、ならもうここに用はないな」
呟いた秋斗は大きく深呼吸をして、いつもの明るい笑顔に戻る。
「能力がないとか失礼もいいところだな! ふん、お前らを案内なんてするわけねーだろ。通すことすらしてやんねーよ。バーカ!」
ルセスがようやくといった様子で、秋斗とメレオルの間に大声で入ってきた。
メレオルよりもずっと子供っぽいルセスの言動に、
「うん、そう言うと思ってたよ」
ノアは改めてにっこりと満面の笑みを浮かべ、さらに続ける。
「じゃあ、無理やり通らせてもらうね」
その声を合図に、千紘たちは一斉に武器を構えたのだった。
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