第86話 スターレンジャー全員集合

 律が聞いた『ベテルギウス教団』という名前。

 それは、ノア以外のメンバーにあることを想起させた。


「リリアが言ってた『ベテ……何とか教団』ってそれのことか……」


 すぐに思い当たった千紘が、頭を抱えながら唸る。

 やはり秋斗と香介も同様だったようで、互いに顔を見合わせていた。


「俺たちスターレンジャーの敵である『宇宙化学組織ギウス』って、確か『ベテルギウス』って星の名前から取ったって設定じゃなかったか?」


 顔を上げた千紘が、そう訊きながら秋斗たちを見回す。

 秋斗はそんな千紘に苦笑いで返した。


「それなんだよなぁ。てことは、やっぱりギウスと何か関係あるのかな? 前に具現化されたラオムとは戦ったけど」

「あら、そうなの?」

「でも、具現化されたラオムってどういうことなんだ?」


 秋斗の台詞に、香介とノアが一緒になって目を見開き、首を傾げる。


「ああ、そんなこともあったっけな。あまり思い出したくはないけど、これも簡単に説明しておくか」


 真っ先に消し去りたい記憶ではあるが、今回は説明する必要があると判断した千紘は、一つ咳払いをしてさらに続けた。



  ※※※



 千紘と秋斗が話したのは、次の通りである。


 まず、この世界のラオムは、リリアが千紘と秋斗を召喚した際にイレギュラーが起きて、具現化された存在だった。

 二人を召喚したタイミングで、リリアが無意識のうちにラオムを具現化してしまっていたのである。


 具現化とはリリアが生まれつき持っている能力で、簡単なものを無から創り出すことができる。たまたまその能力があだとなってしまったのだ。


 ラオムは千紘と秋斗の記憶を元に作られていて、具現化したリリアのいるこの世界でしか生きられない。二人が地球に帰ってしまうと存在が認識されなくなってしまい、この世界から消えてしまうのである。


 そうならないため、ラオムは二人を地球に帰すことができるリリアを殺そうとしていた。

 ちなみに、アンシュタートにいる千紘たちについては、ラオムを認識したままのため、この世界で殺してしまっても問題ないらしい。


 また、千紘たちに『ギウスの怪人は世界征服を目的としている』という認識があったせいで、この世界のラオムも世界征服を目論もくろんでいた。


 それを止めようとした千紘たちだったが、当時二人の中でラオムは『自分と同等かそれより少し強い敵』との認識だったため、当然のことながら苦戦をいられることになった。

 実際に、千紘は秋斗の助けがなければ、この世界でとっくに死んでいたはずなのである。


 それでも最後にはどうにか勝利し、具現化されたラオムも暗黒霧あんこくむになってこの世界から消えたのだった。


 千紘と秋斗がざっくりとした説明を終えると、


「そんなことがあったのねぇ」

「それは大変だったね」


 何度も頷きながら真剣に話を聞いていた香介とノアが、揃って大きな息を吐く。


 律は前に千紘と秋斗から聞いてすでに知っていたのだが、こちらもまた真面目な表情で聞き入っていた。


「まあそんな感じで、大変な目に遭ったんだけどさ」


 千紘が首を左右に振りながら、やれやれと肩をすくめる。

 次には秋斗が口を開いた。


「ちょっと思ったんだけど、今回ノアを何かしらの方法で教祖に仕立て上げたやつが教団の中にいるんじゃないかな? しかも教団の名前から察するに、ギウス絡みかもしれない」

「やっぱり秋斗もそう考えるのか」


 また面倒なことになってきたな、と千紘はうんざりしたように溜息をつく。


「つまり、今回もギウスの怪人かそれに近い存在が、教団に関わってるってことですか?」


 律が端的にまとめて確認すると、秋斗は少しばかり思案する様子を見せた。


「うーん、絶対とは言えないけどな。あくまでも可能性の話」


 秋斗がそう言うと、香介は勢いよく身を乗り出してくる。


「だったらもう一度教団を調べてみましょう。もし本当にギウスが関係あるんだったら見過ごせないもの」

「じゃあ、ヴェール城に戻ってみますか?」

「教祖が消えたことはすでに向こうにバレてるだろうし、正面突破するか」


 香介と律の言葉に、千紘が素直に頷く。

 秋斗は心配そうな表情を浮かべ、ノアの顔を覗き込んだ。


「ノアはどうする? もしかしたら、誰かと一緒にここに残った方がいいのかもしれないけど」

「いや、オレも行くよ。魔法も使えるみたいだから、何かの役には立てるかもしれないし。それにまたみんなと離れ離れになるのはごめんだからね」


 自分だけ安全なところにいるわけにはいかない、とノアはしっかりした口調で言い切る。


 普段は穏やかで優しいノアだが、たまに頑固なところがある。今のノアがまさにそうだ。

 こうなったら何を言っても絶対に引かないことを、スターレンジャーのメンバーはよく知っている。


 秋斗は一瞬だけ目を見張った後、すぐに表情を緩めると、


「なら、スターレンジャー全員集合だな!」


 そう言ってガッツポーズをした。


「いや、そこはスターレンジャーにしなくてもいいだろ……」

「えーっ! その方が何かかっこいいだろ! 正義の味方なんだから!」


 千紘が思わず呆れると、秋斗は両の拳を握って懸命に訴える。

 あくまでもスターレンジャーにこだわりたいらしい秋斗に、千紘は小さく息を吐くことしかできない。


「……まあ、今回はそれでいいことにしとくよ」


 もう言い合うのも面倒だ、と今回は潔く諦めることにして、今度はノアに顔を向けた。


「ところでノア、多分記憶にはないんだろうけど一応聞いてもいいか?」

「ん、何?」

「『侵略者』って一体何なんだ? ノアが教祖やってた時に話してたんだけど」


 千紘が口にした言葉に、ノアは首を捻る。


「さあ? 『侵略者』なんて、オレそんなこと言ってた?」

「ああ、『侵略者』からこの世界を取り戻すとかそんな感じのことを偉そうにベラベラ喋ってたな」

「うわ、いくら記憶がないとは言ってもさすがにそれは恥ずかしいな……」


 どうやらいつもとまったく違う自分を想像したらしく、途端にノアは頬を紅潮させた。


 そこで秋斗が元気よく拳を突き上げる。


「よし、改めて教団に乗り込むぞ!」


 その声を合図にして、五人は再度ヴェール城へと向かうことになったのである。


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