第37話 荷物の確認

 リリアを待っている少しの間、千紘たち三人は村人の様子を何気なく眺めていたが、やはり魔物と塩不足問題のせいか、皆やや不安そうな表情を浮かべていた。


「前来た時から比べると、みんな元気なさそうだよなぁ」


 村が大変な時だもんな、と秋斗が心配そうにぽつりと零す。


 時折近くを通る村人もいたが、三人に向けて声こそ掛けてはこないものの、全員が何かを言いたそうな表情で会釈えしゃくをしていった。


「よし、おれたちがしっかり頑張らないとな!」

「はい! 頑張ります!」


 あえて笑顔で会釈を返した秋斗は、改めて自分たちを奮い立たせるかのようにぐっと拳を握る。律もそれに応えるように大きな声で返事をした。


「めんどくさいけど、もう引き受けたもんは仕方ないか……」


 一人しゃがみ込んだ千紘がそう言いながら、渋々といった様子で頷いた時だ。


「お待たせ」


 扉が開いて、リリアが出てくる。その両手にはたくさんのものを抱えていて、持っているだけでも大変そうに見えた。


「何だよ、その大荷物」


 思わず千紘が眉を寄せると、


「持ってくるの大変だったんだから、ここまで頑張った女の子を少しはいたわりなさいよ」


 そう答えたリリアはやや不機嫌そうに、小さく頬を膨らませた。

 そんな二人の様子を見てか、すぐさま秋斗が苦笑しながら間に入ってくる。


「ごめんなリリア、千紘は素直じゃないからさ。ほら、千紘もお礼くらいちゃんと言えって。でも何でこんなにあるんだ?」

「誰かさんが『マントを持ってこい』なんて言うからかさばったのよ」

「俺のせいかよ!」


 千紘の言葉を無視して、リリアが「よいしょ」とこれまで抱えていた荷物をその場に下ろした。

 リリア以外の三人は揃ってそれを見る。


「おお、一ヶ月しか経ってないけど何だか懐かしいな!」


 早速、秋斗がとても見覚えのある青い欠片かけらに手を伸ばして、嬉しそうな声を上げた。


 千紘と秋斗に見覚えのあるものは、秋斗が今手にしたミロワールの欠片と、前回置いていった千紘の長剣くらいのものだ。

 それ以外にあるのは、先ほど千紘が頼んだ何の装飾もないただの布とも言えそうなシンプルなマントが三人分と、リュックが一つ。


「主にあんたの剣が重くて運ぶのが大変だったのよ」


 まったく、と呆れた声で言いながら、リリアが両手を腰に当ててふんぞり返ると、しゃがみ込んでいる千紘が大きな溜息をつきながらリリアの顔を見上げた。


「俺、好きで剣使ってるわけじゃねーんだけど。できれば魔法の能力の方がよかったし」

「そんなこと知らないわよ。とにかく、言われた通りにちゃんとマント持ってきたんだからサイズ合わせてみてよ」

「ああ、そうだったな!」


 リリアの促す声に、秋斗が思い出したように手を叩く。そして千紘の腕を取って立たせると、「ほら」と千紘と律にそれぞれマントを手渡した。

 三人はすぐさまそれを羽織ってみる。


「……サイズは問題ないか」

「僕にはちょっと大きいですかね」

「『大は小を兼ねる』って言うし、小さいよりはいいんじゃないかな?」


 今着ている服を隠すために羽織るだけのシンプルなマントである。それほどサイズはこだわらなくていい。

 三着ともほぼ同じサイズのせいか律には少々大きめだが、大きい分には問題ないだろうと全員で判断した。


 しっかりとマントを羽織ってアンシュタートの人間の見た目に同化した千紘たちは、次にリュックの中身を確認することにする。

 思ったよりもそれほど大きくはないリュックから中身を取り出しながら、全員で確認していった。


「えーと、方位磁石にロープ、これは携帯食かな?」


 秋斗が一つ一つ手にして、物によっては珍しそうに眺める。律も同様だ。


「ちゃんと包帯も入ってますね」

「前回、止血するのに服を破ってきた人たちがいたから、今回は念のためよ」


 律の言葉にリリアが頷くと、


「それは別に俺たちは悪くないからな。好きで怪我してきたわけじゃないんだし」


 千紘はふてくされたようにそう言って顔を背けた。


「まあまあ、千紘はそう怒るなって。前のは確かに不可抗力ふかこうりょくみたいなもんだし。今回はりっちゃんがいるから大丈夫だろうけど、一応持っていこうな?」


 また苦笑した秋斗が千紘をなだめる。

 こういうところは千紘よりも大人だ。


 さらに確認を続けることにして、他に出てきたのはランタンが一つと、人数分の小さなコップだが、それを見た千紘は首を傾げた。


「コップがあるのに、水がないんじゃないか?」


 飲み水は大事だろ、と千紘がリュックをひっくり返そうとしながら問い掛けるように呟くと、隣にいたリリアはしれっと秋斗を指差す。


「水ならそこにあるじゃない」

「……あー、なるほどな。確かに間違ってはいないか……」


 前回は秋斗の水魔法が色々と役に立ったことを思い出し、千紘は神妙な面持ちで頷いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る