第36話 律の能力

「……リツには、治癒魔法の能力があるみたいね。あと、ナイフとかダガーみたいな飛び道具を扱う能力かしら」


 静かにまぶたを持ち上げたリリアが発した言葉に、三人は目を丸くする。


「二つも能力があるなんて、りっちゃんすごいな!」


 羨ましいなぁ、と秋斗が律の頭を撫でまわすと、律は少々迷惑そうにしながらもはにかんだ笑みを浮かべた。


「それに飛び道具ってのも律らしいな」


 千紘も目を細める。

 その様子に、秋斗が同意するように何度も頷いた。


「スターレンジャーでも小型のダガー使ってるからじゃないかな? 千紘の長剣みたいにさ、それでかも」

「確かにそうかもしれないな。もう一つは治癒魔法だし、これはかなりありがたいよな」


 すごく助かるよ、と千紘が律の方に顔を向けると、律はさらに明るい表情になる。


「ホントですか!?」

「ああ」

「もちろん!」


 千紘と秋斗が揃って頷いた。


 治癒魔法があれば、多少の怪我くらいなら平気だろう。それは実際に治癒魔法を受けたことのある千紘と秋斗にはよくわかっていることである。

 もちろん怪我をしないことが一番大事だが、それでも万一の場合を考えればこれほどありがたいものはない。


「ここで確認しておいて正解だったな」

「これでいくら怪我しても大丈夫だもんな!」

「そんなに怪我されても困りますけど、役に立てそうな能力でよかったです!」


 三人で同時に顔を見合わせながら、喜ぶ。


「チヒロの剣にアキトの水魔法。それにリツの治癒魔法。これでバランスはばっちりじゃない」


 これまで黙って三人の様子を眺めていたリリアも顔をほころばせた。



  ※※※



「ここが私の家よ」


 そう言って立ち止まったリリアにならい、三人も足を止める。

 指を差されたのは、村長のところよりも少し質素なたたずまいの家だ。


「じゃあ、今荷物を持ってくるからちょっと待ってて」


 リリアの言葉に三人は素直に頷いた。


 しかし千紘はふとあることを思い出し、玄関の扉を開けようとしていたリリアの背に声を掛ける。


「あ、ちょっと待ってくれ」

「何?」


 引き留められたリリアはすぐさま振り返って、怪訝けげんな顔を声の主に向けた。


「いや、マントを三人分用意してくれないか?」

「マント? どうして?」


 不思議そうに小首を傾げるリリアに、千紘は自身の服を指差す。


「どうしても何も、これじゃ目立つだろ」


 地球で着ている服だと、この世界では変に目立ってしまう。前回のスターレンジャーの格好よりは随分マシだろうが、それでも千紘は気になって仕方がないのだ。


「私は別にそのままでもいいと思うけど」

「アンタはそうかもしれないけど、俺が気になるんだよ。何か色々と怪しまれそうだし。とにかく目立たないやつで頼む」

「もう、わかったわよ。家にある分じゃ足りないと思うから、人数分まとめて具現化してくるわ。目立たないやつね、ちょっと待ってなさい」


 そう答えると、リリアは家の中へと消えていった。


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