第13話 逃げ出した後
「一体、どうなってるんだ……!?」
千紘が大きく肩で息をしながら、苦しそうに唸る。
どれだけ走ったかわからないが、とりあえず戦闘員たちは上手く
草原の真ん中で、「これ以上は無理だ」とばかりに二人揃ってへたり込んだ。
「あれ、人間じゃなかったよな……?」
千紘に問う秋斗の肩も、大きく上下している。
「ああ、確かにあれは人間じゃなかった」
呼吸を整えながら、千紘は先ほどの黒い霧を思い返した。
まだはっきりと覚えている。長剣が戦闘員の肩を掠めた時の感触と、その後に黒い霧となって消えていく戦闘員の姿。
肩を掠めた時は人間だと思っていた。でも、実際にはまったく違っていた。
あれはどう見ても、誰が見ても、人間ではなかった。
「それに、あの霧……多分
「暗黒霧!?」
秋斗が弾かれたように目を見開く。
まさか、と思っただろうことは千紘にもすぐにわかった。それもそうだ。秋斗と同じく、自分も中身は人間だと思っていたのだから。
「あー、だからかな」
青い空を仰ぎながら、思い出したように秋斗がぽつりと呟いた。
「何が?」
「いや、一人気絶させたんだけどさ、その時の感触が人間とはちょっと違う気がしたんだよな」
「あの時か」
これはやばい、と咄嗟に大声で秋斗を呼んだ時のことを振り返る。
「ちゃんと気絶はしたみたいだったけど、何かこう、中身がやけに柔らかかったというか」
「きっと、中身が人間じゃなくて暗黒霧そのものだからじゃないか?」
「そっか、それなら柔らかかったってのも納得だな」
秋斗は両手を繰り返し握ったり開いたりしながら、当時の記憶を辿っているようだ。それから神妙に頷くと、さらに続けた。
「じゃあ中の人間はこっちの世界には来てないってことになるのか?」
「そうだといいけど、こればっかはわかんないな」
リリアに聞かないと、と千紘は答える。
そして、二人はリリアという名前で思い出した。
『何となくだけど、感じるの。この世界のものじゃない、だけどあんたたちでもない気配を』
見送ってくれた時のリリアの不安そうな表情。
「俺たちじゃない気配が多分暗黒霧のことだってのはわかったけど、何だか厄介なことになりそうだな……」
「これからどうする?」
「さっさとターパイト採って帰るのが一番いいんじゃないか? こんな状況でのんびり冒険なんてしていられないしな」
千紘が溜息交じりに言うと、秋斗もまた心配そうな表情を浮かべる。
「また戦うことになるかな?」
いくら中身が人間ではないとはいえ、やはり人の形をしたものと戦うのは気が引けるものだ。それは秋斗だけでなく、千紘も例外ではない。
「どっかで会えばそうなるかもだけど、あいつらと戦うとかマジでめんどくせーな」
あまり気分のいいもんじゃないしな、と千紘は眉をひそめ、舌打ちした。
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