第12話 ギウスの戦闘員・2
(……何だ? 何かがおかしい……?)
自分には攻撃が来ないのをいいことに秋斗を無視して、千紘は瞬時に考えを巡らせる。
秋斗の運動神経の良さは千紘もよく知っているから、その辺は放っておいても大丈夫だろうと思ったが、戦闘員の様子が何となくいつもと違うのが妙に気になった。
ドラマの中ではいつも「シャー」とか「キャー」などと奇声にも似たような声を発しているのだが、今はずっと無言なのだ。攻撃をしてくるにしても、普段の戦闘員はまとめてかかってくるのに、今は一人だけというのがなぜか引っかかる。
何より、話の途中に攻撃してきた点が一番おかしかった。いきなり異世界に召喚されて混乱しているにしても、普通は話くらい最後まで聞くものではないのか。それに、これまでずっと一緒にやってきたのだから、自分たちの顔を知らないことはないはずだ。
「千紘! 何とかしてくれよ!」
まだ攻撃をかわし続けていた秋斗が助けを求めてくる。
気にはなったが、具体的にどこがどうおかしいのかがわからない。たまたま無言なだけかもしれないし、攻撃を仕掛けてきたのだって、ドラマではなかったから偶然一人だっただけなのかもしれない。話を聞かなかったのも何かしらの理由があったのか、と考えた。
「……はいはい」
だから、とりあえずは秋斗から戦闘員を引き
それからまたゆっくり話をすればいい。相手はたった一人だし、それくらいのことは簡単だと思われた。
しかし秋斗のところに向かう途中で、
「うわ……っ!」
違う戦闘員が千紘に向かってくる。今度は手にナイフを持っていた。
これで秋斗を助けることができなくなってしまった。
(さすがに刃物は卑怯だろ……っ!)
戦闘員は何の
幸いなことに、千紘も秋斗と同じく運動神経が良かった。運動神経の良さは戦隊ヒーローの必須スキルでもある。おそらく秋斗よりも上だろうと自負していた。この程度の攻撃ならば、身をかわすことはそれほど難しくない。
だがずっとこのままでは
いつまで経っても攻撃は止みそうにない。おまけに同じ人間に遠慮なく攻撃してくるような奴らである。話もまともに通じなさそうで、千紘は「これは最後の手段を使うしかないな」と考えた。
「……仕方ないか」
攻撃をかわしながら千紘が眉を寄せ、小さく一つ息を吐く。めんどくさいのに、と心の中で呟いた。
いよいよ戦闘員がナイフを振りかぶってくる。
できれば使いたくなかったが、使わざるを得なかった。
「──っ!」
大きな金属音の後、戦闘員の持っていたナイフが少し離れた地面に落下する。千紘の長剣がナイフを受け止め、弾いた音だった。
直後、千紘ははっとする。
「悪い! 怪我は!?」
ナイフを弾いた時に、長剣が戦闘員の左肩辺りを掠めてしまったのだ。
いくら自分に攻撃してきたからとはいえ、相手を傷つけるつもりは毛頭なかった。千紘の顔に焦りの色が広がる。
しかし戦闘員は痛がる素振りを見せるでもなく、かと言って何かを話すわけでもない。ただ黙って立っているだけだった。
「……おい! 何か言えって!」
千紘が怪我の具合を診るために、戦闘員の腕を取ろうとした時である。伸ばしかけた手が途中で止まった。
「何だよ、これ……」
思わず、
長剣が掠めた場所からは、人間の赤い血ではなく、黒い霧のようなものが出てきていたのだ。
最初は少しずつしか出ていなかったそれは、内側から傷口を広げるようにして、だんだんと出る量が増えてくる。そして出てきた後は、まるで黒いアイスクリームが溶けて蒸発していくかのように、空中で跡形もなく消えていった。
「人間、じゃ……ない……?」
千紘が目を見張る。その場で硬直したまま、動けなかった。
その間も黒い霧は戦闘員の身体を徐々に溶かすように広がり、蒸発していく。ついにはとうとう人の形を成さなくなり、すべてが消えてしまったのだ。
「ドラマと同じ、
そんなまさか、と思った。
ドラマの中では、ギウスの戦闘員たちは暗黒霧という化学物質でできていて、スターレンジャーに倒されると暗黒霧になって消えてしまう、という設定になっている。
だがドラマのそれはあくまでも演出で、後から映像を合成したりしているはずだった。
それに、他の戦闘員たちは仲間が消えたというのに駆け寄ることもせず、変わらず無言のまま佇んでいるのである。
これはどこかがおかしいだとか、そんな程度の話ではない。
「────秋斗!!」
割れんばかりの大声で秋斗の名を呼ぶ。
見れば、ちょうど秋斗が戦闘員を気絶させたところだった。どうやら、秋斗もこのまま攻撃をかわし続けるわけにはいかないと思ったのだろう。
「こいつらやばい! すぐに逃げるぞ!」
「……わかった!」
秋斗の返事を合図に、揃って駆け出す。と同時に、これまで黙っていた戦闘員たちも動き出した。
正面から新しい戦闘員が数人襲い掛かってくるのを、なりふり構わず体当たりで突き飛ばすと、ちょうど逃げ道ができた。
そこを、後ろから追ってくる戦闘員を振り切るようにして全速力で走り抜ける。
そうして逃げ出した二人はあてもなく、しばらくの間必死で走り続けたのである。
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