愛されたい
HYS
失敗
こんな事を考えたことは無いだろうか。
《愛されたいが愛せない》
一方的な愛。
愛されていたいが、愛せない。
この話はそんなどうしようもない子の話だ。
『これで話は終わります。起立。礼!』
高校の入学式が終わり、教室から出て行く同級生。廊下には同級生の男女が溜まっている。
入学初日だから浮かれいるのだろう。
『いいな』
ボソッと私は口にした。
一緒に帰る友達や楽しく喋れる人が居る事が。
私は昔から何をやっても失敗して迷惑をかける。かけてしまう。初めは許されていたが失敗を繰り返す内に直に周りから人が離れていた。
だから私は友達を作らない。作れない。
また離れるのが怖いから。嫌だから。
『私も帰るか』
教室を出て帰路に着く。帰り道すら賑やかだ。
『いいな』
また口に出てしまった。
そんな事を考えている間に家に着いた。
扉の前に立ち尽くす。
『はぁー』
ため息が出てしまう。
『何してる。邪魔です。どきなさい』
母が後ろから声をかける。
私の家族はいつもこうだ。
『ごめんなさい』
私は邪魔者扱い。
私はこの家の次女とし、生まれた。この家は名家だったらしい。後継として生まれた姉。
私、仲田華(なかた はな)は姉がもしもの時の為に作られた『予備』として教育されてきた。
姉は昔から何をやっても成功する。勉強でも。スポーツでも。いつでも姉の周りにはいつも友達が沢山いて。私と正反対だった。そんな姉を両親は観て『予備』は必要ないと確信したのだろう。その時から、私は要らなくなり、『予備』から『名家の汚点』となった。
『おかえりなさい。お母さん。』
『…』
私はいないもの同然の扱いを受ける様になった。そんな扱いに慣れている自分も自分だ。
今日も何もなく、終わった。
次の日、学校に登校し、教室の自分の席に1枚の手紙が置いてあった。
内容は『昼休憩の時間に校舎裏に来てください。』との事だった。
昼休憩に校舎裏に行くと同級生の男子がいた。
『入学式の日に一目惚れしました。付き合って下さい。』と言われた。
私は容姿だけは良いらしく、これまでに何度か告白された事がある。
そして決まって私は
『よろしくお願いします。』
その告白を断らない。
今まで誰一人として愛せた事がないから。
いつか、本当に愛せる人が出来るのではないかと。そう思いながら。
私は付き合う。
『やったー!ありがとう!これからよろしくね!』毎回、最初は喜んでくれる。
しかし、1週間程するとあっちから振ってくる。
私と居ても楽しく無いと思うのだろう。
そしてまた別の人が告白してくる
ある日の放課後。教室で一人、勉強をしている所に
『ねぇ。勉強してるの?俺も混ぜてくれない?』
と言い、私の隣に座った。少しすると。
『ここの問題分かんないから教えて!』
『えっ?』
『あっ!ごめん。ごめん。自己紹介がまだだったね。俺の名前は赤野翠(あかの すい)』
『あ、わ、私は仲田華と言います。』
私は戸惑いながら、赤野さんに名前を教えた。
『仲田さんだね。また明日も来るから!じゃあねー』
赤野さんが荷物をまとめて教室を出て行った。
私も帰り、いつも通りの扱いにあう。
次の日の放課後。本当に赤野さんは来た。
次の日も、次の日も、
今日もいつも通り、放課後に赤野さんが来た。
『なぁ、仲田さんはなんで必ず告白を断らないんだ?別に断れないば良いじゃん』
赤野さんは誰もが思う疑問を聞いて来た。
『私は人を愛せないんだよ。昔から』
『だから誰とでも付き合って愛せる人を探してる。多分、そんな感じだと思う。』
『そうか。なんで愛せないんだ?』
私は今までの事を初めて口にした。
『…て事があって愛せないんだよ。』
『うゔーなんて悲しい話。泣ける。てか泣いた』
『そんなに!!』
プ ハハw
『あっ。』
笑った。私が笑った。自分でビックリした。
『へーそんな顔できたんだ。そっちの方が良いよ』
『無理だよ。今のはまぐれの笑いだよ。もうない』
『じゃあさ。俺と付き合お。』
『え?』
『断らないんだよね。じゃあ付き合お!』
『い、今までで一番雰囲気のない告白ありがとう。これからよろしく。』
『じゃあ。まず名前で呼んでねー。これはルールです!』
私が赤野さんと付き合ってからのルールとして名前呼びに決まった。半ば強制的に。
『また、1週間で別れるんだろうな。』
私は翠さんに聞こえぬ声で言った。
付き合ってからも教室での雑談だけは毎日必ずした。
土日は遊びに家から連れ出してくれた。私が家を嫌いなのを知っているから。
そんな学生だったら当たり前の様な事が今までで一番楽しく感じた。
気づけば付き合ってから一ヶ月以上経っていた。
今日も変わらず、教室で雑談をしていた。
『さてと。帰るか。華さん』
気づけば日が暮れていた。
扉の前に立っていた翠君が私の方へ振り向く。
プルル プルル プルル
その時、携帯から着信音が鳴った。
私の携帯に1本の電話が来たらしい。
『ちょっとごめん。電話来た。』
翠君に待ってもらい、携帯の画面を見た。
珍しく、母からの電話だった。
『華!お姉ちゃんが!お姉ちゃんが!』
動揺しているのが電話越しでも分かる。母のこんな声を初めて聞いた。
『お姉ちゃんが事故にあって!とりあえず病院に来て!』と
病院の名前と場所だけ伝え、電話が切れた。相変わらず自己中だと思う。
『ごめん。急用が出来た。』
『何?どうしたの?』
『姉が事故に遭ったから今すぐに病院へ来いって母が…』
『それは急いだ方が良い…よな?俺も一緒に行く。話したい事もあるしな。』
『ありがとう。お願い。』
翠君の『話したい事』にも気になったが聞く暇が無かった。
学校を出て、病院近くまで走るバスに乗り、病院まで30分程で着いた。
病院の中に入り、受付のお姉さんに部屋を聞く。
『すみません。仲田さんの部屋は何処ですか?』
『すみません。まず、あなたの名前を聞いても良いですか?』
『私は仲田華。妹です。』
『そうでしたか。お姉さんの部屋は突き当たりを曲がった先の613号室です。』
私はありがとうございますと礼をし、部屋に向かった。
613号室の前につき、扉を開け、中に入ると泣き崩れている母と俯いている父の姿があった。
こんな表情が出来たんだ。
私の知らない一面がそこにあった。
『華!来てくれたのね。ちょっと話しがあるの。』
閉じた扉の前に立っていた私と翠君を見つけたらしい。私が見た事の無い笑顔で母が寄って来た。
『あなたが華を連れて来てくれたの?ありがとう。帰っていいわよ。』
本当に自己中だ。
『お母さん。私も話したい事があるの。だから翠君を居てもいいですか。』
少しの間の後、
『まぁ、いいわ。』
『早速、話しに入るけど、華。あなたにはこの家の後継になってもらいます。』
は?言っている事が理解出来なかった。
キョトンとしている私を見て
『あぁ、ごめんなさい。ちゃんと説明しないとよね。お姉ちゃんが今、こんな状態でしょ?』
部屋に入って直ぐに話が始まったから姉の姿を見てなかった事を思い出した。ベッドの上には包帯が巻かれた姉が点滴やよくわからない大きな機械に繋がれていた。
『見ての通り、お姉ちゃんには後継は難しいそうでしょ?だからあなたを今日から後継に…』
『嫌だよ。』
『えっ?』
『嫌だ。』
『はぁー』
母は大きなため息をし、
『あなたはこの家を継ぐの。分かった?あなたが、この家に必要なの。お願い!』
私の肩を強く掴み、頼み込んでくる。怖い。だが、初めて、母から求められた。初めて母から。私が必要だって。
『すみません』
今まで静かに聞いていた翠君が話しに入る。
『部外者の俺が言っても何も変わらないかも知れませんが。』
肩を掴んでいた母は手を離し、翠君の方に体を向ける。
『あなた達は自己中過ぎです。なんですか。お姉さんが事故にあって動けなくなったら華さんが必要?そんなのお姉さんが可哀想だ。それに今まであなた達は華さんに何をしてきたかか。覚えてないんですか。そんな手のひら返し、都合が良すぎる。』
翠君の声に怒りが混ざっているのが直ぐに分かった。
『そもそも、華さんに謝りましたか?一度でも。今までしてきた扱いを。』
母は少し考える様な仕草をし、
『今までの酷い扱い。本当にごめんなさい。許してください。』
と私に向かい頭を下げ、謝った。
その言葉に重みが感じられなかった。言われたから言う。後継が必要だから仕方なく。そんな最低な謝罪に感じた。
『わかったよ。私』
両親は顔を上げ、胸を撫で下ろし、笑顔になる。
『でもね。』
『私はどうしようもない子だから。』
両親に向かって、今までした事の無い笑顔を向けた。
『翠君、行こう。』
私は翠君の手を引き、姉の病室から出て行く。
母が膝をついているのが見えたが後悔は無い。
『いいのか?華さん。初めに話したい事が有るって言ってたけど。』
翠君がそんな事を聞いてくる。
『いいんだよ。』
翠君が全部言ってくれたから。
『ねぇ。翠君?前から気になってたけどなんで私に話しかけたの?』
私は出会った時から思っていた事を聞いた。
『そんなの好き以外ないだろ。他に何有るんだよ。』
翠君が顔色変えずに答えた。
私はやっとわかった気がする。
私の為にここまでしてくれた翠君が多分、好きだ。まだよく分かってないし、好きとは違うのかもしれない。けど、私は翠君しかこの先、
一生愛せない。
どうしようもない私を。
愛してくれて。
どうしようもない私に
愛して方を教えてくれて。
『ありがとう。翠』
私が人生初、成功出来た事。
愛されたい HYS @hiroenb
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