第2話
ときどき、外の星の料理の話を聞く。
土星は観光地のため、ありとあらゆる料理があの輪の部分にならんでいるらしい。しかも、あの輪は回転しているので一定周期土星に滞在すれば全宇宙の料理を味わうことができるという。
金星はとても手間をかけた料理を作るらしい。驚くべきことに金星には電子レンジの使用が禁止されている。なぜだかは分からない。金星の人々は素材から買って自ら切ったり煮込んだり味付けをする。それでは一日のほとんどが料理をすることで終わってしまいそうだ。
地球の料理は……美味しかった。そう、僕の故郷の味だ。どんな味だったかはっきりと思い出せないけれど、ただすごく美味しかったことだけは覚えている。
地球の料理のことを思い出そうとするとなぜだか頭がぼんやりとする。どんなに思い出そうとしても、あのときの二日酔いの記憶ばかりがでてくる。
今日も、薬缶からは鼻歌が聞こえてくる。
ばったん、ばったん!
突然、薬缶からなにか質量と水分を感じるものが打ち付けられる音がした。
「うわっ、何をしているんだ?」
僕は思わず薬缶に向かって話しかけた。
だれも答えるはずなんてないというのに。
なのに、薬缶は返事をしたのだ。
「何って、パンを焼いているのよ」
それはあの鼻歌と同じ少しだけかすれた甘い声だった。
「嘘だ、パンを焼くのにどうして何かを殴るような音がするんだ?」
「パンをこねているのだから常識でしょ」
「パンをこねる? なんでパンを焼くのにこねる必要があるんだ。粘土じゃあるまいし」
「なにも知らないのね。パンは水と小麦を練ってつくるの。知ってる?」
気が付くと僕は薬缶と会話をしていた。
甘い声は鼻歌のときとは違って、すこしけだるげだった。
きっと、それが声の主の素なのだろう。
だけれど、薬缶を通した声との会話はとても楽しかった。
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