夜明けの星
稲荷ずー
〜序章〜 〈なんでも屋〉のスルナ
一部 山羊追い
「よぉ〜し、良いよぉ〜。さあ、こっちにおいでぇ〜」
殴りつけるような風が強く吹いている。足を踏み出す位置を間違えれば、深い谷底に真っ逆さまに落ちてしまうだろう。
相手はもう目と鼻の先。気付かれないよう気配を消し、慎重に、だが確かに距離を詰めていった。
(あと少し………!!)
少しずつ手を伸ばす。
(あと少し、あと少しで手が届く…!)
届いた!!
そう思った瞬間、相手は身を
「もぉーー!!! あと少しだったのに! いつまでこんなこと続けんだよー!」
天を仰ぎ、積もり積もった怒りを爆発させるかのように、思いっきり叫んだ。
雨風に
つい先日、彼女は依頼を受け、タンノ王国の南西に
「家畜囲いの柵が壊れて
この程度の簡単な依頼ならすぐに終わるだろう。と思って依頼を受けたのだが、彼女の読みは甘かった。
山羊たちの捜索を始めてから
元々、急な山岳地帯に住んでいた山羊たちは、人間の足では行けないような場所にも行くことができる。ほとんど絶壁のような崖を進むのはとても困難で、すべての山羊を捕まえる頃には、すっかり日が暮れ落ちていた。
依頼主はとても優しい老夫婦だった。スルナが丸一日かかってようやく
「ありがとうね、お嬢さん。疲れたろう?良かったら今夜は家で過ごしたらどうだい?」
と
スルナとしては、まだこなしていない依頼があったので帰りたかったのだが、この老夫婦の好意を
沢山動き汗を
ふと、空を見上げると満点の星空が広がっていた。
「あいつが言ってた、一番強く光る星、ってのはあれかな?」
以前、
「どこを繋げば鶏の形になるんだ…」
ちょうどスルナの真上に青白く輝く一等星と、その周りに輝く二等星、三等星を結ぶと鶏の形になるらしい。が、どれだけ目を細めてみても、スルナの目には、夜空に散らばる星々が、一つの形をなしているようには見えなかった。
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