3 ガツン

……まあ、そんな感じで突然の別れがだいたい雨の日だったから、僕は雨が大嫌いになったんだ。」

「……。」

「……ごめん。ただでさえ雨で暗いのに、こんな暗い話を聞かせちゃって。」


 話し終えた後、僕の心の中に残った言葉は『申し訳ない』だった。こんな暗い話、誰が進んで聞きたいというのだ。


 さらにこんな暗い話を聞かせてしまった申し訳なさと、暗い過去を思い出したことも相まって余計に気分も声も暗くなる。心の中で溜息もつく。


「大丈夫、私は壁だよ。壁には何言っても反応は無いんだよ。だから申し訳ないだなんて思わなくていいんだよ?」


 さらはふっと柔らかい笑みを浮かべてそう言った。


「はは……ありがとう。」

「あ……何も言わないつもりだったんだけど、やっぱり一言だけ言ってもいい?」

「え? ……まあ、いいけど。」


 申し訳なさそうにさらは言う。しかし了承はしたが何を言われるのか分からなくて怖い。拒絶されたら、と。その恐怖心から自分の手をぎゅっと握りしめて、浅く呼吸をして、さらの言葉を待つ。


「るかはいつも雨の日に失っていたけれど、今回は雨の日に私達は出会ったんだよね? だったら今回の雨は意味合いが変わってくるんじゃない?」

「た、確かに……」


 でも、もしかしたら今回出会った後に失うのはさらである、という意味もあるのではなかろうか。そんな不安を感じた僕はさらに言葉を投げかける。


「あ、あの、さ……」

「ん?」

「また、会って話せる?」


 こんなに僕が喋れる人、なかなかいない。だから失いたくない。そう思っての発言だったのだが、さらは一瞬驚いた。そしてそれを隠すように笑顔を貼り付けた。


「……うん、いいよ。」

「ぜ、絶対だよ?」

「……うん。」

「あ、雨、上がったね。」

「そう、だね。……また雨が降らないうちに帰ろっかな。」

「……そうしよっか。」


 さらは帰る準備に時間がかかるから、と先に教室を追い出された。まあ、女子って準備に時間がかかるって聞いたことあるし、まあ、そんなもんか。そう理解した僕は、雲が厚くかかる空を見上げながら帰路につく。


 さらの寂しそうな笑顔が僕の心に残った。なんでそんな寂しそうに笑うのか、次に会った時に聞けるだろうか。







 次の日の昼休みに、僕は隣のクラス──さらは隣のクラスとしか言わなかったから、探しに来たのだ──の三年一組に向かった。


 知らない人に話しかけるのは怖いが、それよりもさらとまた話したいという思いが大きかった。だから勇気を振り絞って扉の近くにいる人に話しかける。緊張するなあ。手に汗握る。


「あ、あの……」

「ん? どしたー?」

「このクラスに、雨宮 さらって女の子、いる?」

「うーん、聞いたことないなあ。ウチのクラスではないね。」

「そ、そっか。教えてくれてありがとう。」


 当てが外れたようだ。ではもう一つの隣のクラス、三年三組に向かおう。


 三年三組の教室の扉の前で一度深呼吸し、扉の近くにいた人に話しかける。


「あの、このクラスの雨宮 さらって女の子、呼んでもらえる?」


 僕がそう言うと、扉の近くにいた人は驚いた表情を浮かべた。







「……あの、誰のことを言っているんですか?そんな人、このクラスにはいませんよ?」



 僕はガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。

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