第280話:「褒美(ほうび):2」

いつもお世話になっております。熊吉です。

熊吉のツイッター(https://twitter.com/whbtcats)でもご紹介させていただきましたが、本作、「メイド・ルーシェ」シリーズ、なんと隼 一平様が、ご自身が執筆されているエッセイにて、二次創作を投稿してくださることとなりました!

 

主役は、エドゥアルドとしのぎを削った梟雄、前オストヴィーゼ公爵のクラウス殿。

類似した世界観を持つ別世界での物語となりますが、チョイ悪な語隠居・クラウス殿の活躍、ぜひお楽しみいただければなと思います。


また、隼 一平様のエッセイも、蘊蓄のある内容で、熊吉もヒロインの書き方などで勉強させていただいておりますので、ぜひご一読いただければなと思います。


:隼 一平様のエッセイのURLはこちらです!

https://kakuyomu.jp/works/1177354055009238347


全10話ほどの投稿になるだろうと承っております。

どうぞ、よろしくお願い申し上げます!


以下、本編となります。

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 エドゥアルドに褒美ほうびを与える。

 それも、金銭などではなく、領地という、長く残り続ける形で。


 まだサーベト帝国から正式に領土の獲得などの条件を引き出せてはいないので、これは空手形に過ぎない状態だったが、もし本当にサーベト帝国から領土を得られるとしたら、確実に履行されるだろう。

 なぜならカール11世は、口だけではなく、正式な文章を発行してエドゥアルドに対し、褒美ほうびを与えることを証明してくれたからだ。


 その文章の内容は、今回の働きに対ししかるべく領地を加増するという約束が書かれただけのものではあったが、皇帝の署名と、玉璽ぎょくじによる押印がなされたものであり、将来約束に反することがあったらこの書状を示して抗議することができる、実行力のある文章だった。


 その文章を侍従長から手渡されたエドゥアルドは、皇帝の御前を辞して引き下がると、随員たちと共にパーティ会場の一画へと向かって行った。

 ちょうど、ヴェーゼンシュタットをめぐる戦いで、エドゥアルドと共に戦ったユリウスとアリツィア王女が集まっている辺りだ。


 途中、エドゥアルドはユリウスとすれ違う。

 エドゥアルドが軽く会釈えしゃくすると、ユリウスも会釈えしゃくを返し、随員を従えて皇帝の方へと向かって行った。


 素っ気ないが、それだけでエドゥアルドは、ユリウスとの信頼関係が確かに存在していると感じ取ることができた。


「やぁ、エドゥアルド公爵。


 どうかな、このドレスは? 」


 ユリウスと入れ違いになってやってきたエドゥアルドを、アリツィア王女が出迎える。


 マスカットのジュースがそそがれたグラスを手にたたずんでいるアリツィアは、戦場にあった時の騎士としての姿ではなく、ドレスで美しく着飾っていた。

 それも、周囲の目を引く美しいドレスだ。


 この時代のドレスは一般的に、様々な色づけがなされているものだった。

 様々な染料を使い、鮮やかに染められた生地を使ったドレスが好まれている。


 しかし、アリツィアはそれとは真逆だった。

 彼女は、純白の生地で作られたドレスを身にまとっているのだ。


 その白さと、アリツィア王女の亜麻色の髪の対比が、なんとも美しく際立っている。

 男性ばかりが多い戦勝パーティの中で、給仕に働いているメイドたち以外では唯一と言ってよい女性であるアリツィア王女は目立っているだけではなく、見栄えがする。


「ええ、とてもお美しいと思います、アリツィア王女。


 王女に声をかけたくてうずうずしている貴族が、きっと鈴なりになっているのではないでしょうか? 」


 エドゥアルドがやってくるなりドレスのすそを少しつまんで持ち上げてみせ、感想をたずねて来るアリツィアに、エドゥアルドは素直な感想にほんの少しの冗談を混ぜてこたえる。

 するとアリツィア王女は、小さく肩をすくめてみせる。


「そうみたいだけど、正直なところ、あまり言いよられるのも困ってしまうね。

 私は馬に乗っていることの方が好きな性分で、どこかの貴族にとついでお姫様らしくしているなんて、ガラじゃないしね。


 だから、エドゥアルド公爵。

 そこにいて、他の貴族の方々が声をかけにくいように、守ってくれないかな? 」


「そのくらいのことでしたら、喜んで」


 アリツィアの要請にうなずくと、エドゥアルドは近くのテーブルからアリツィアが飲んでいるのと同じマスカットのジュースを手に取り、アリツィアと乾杯をすると、ゴクゴクと美味しそうに飲み干した。


「なんだか嬉しそうな様子だね?

 皇帝陛下から、なにかご褒美ほうびでもいただいたのかい? 」


 そのエドゥアルドの様子を眺めていたアリツィアは、ニヤリとした笑みを浮かべると、少しいたずらっぽい口調でたずねて来る。


「ええ、おっしゃる通りです。

 まだ具体的なことはなにも決まってはおりませんが、サーベト帝国と正式に講和し、領土の割譲などがあれば我がノルトハーフェン公爵家にご加増いただけると、そうお約束をいただきました」


「ほほぅ、それは、それは。

 私も、あやかりたいものだね」


 エドゥアルドは、当然アリツィアのオルリック王国にもなんらかの具体的な形で感謝の意が示されるものと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。


「陛下は、オルリック王国に対してはなにも進呈しんていなさらないのですか? 」


「いや、陛下は我が国にも領地を差し上げたいと、そうおっしゃってくださったよ?


 しかし、サーベト帝国との交渉で得られる領地は、我が国からはあまりにも遠いからね。

 タウゼント帝国の諸侯での間のことなら、領地の再配分などできれいに治められるし、少しくらいの飛び地なら問題ないだろうけど、我が国からするとあまりにも遠すぎる。


 統治するのにも、守るのにも難しい領地を抱えられるほど、私の国には余裕がないんだ。

 だから丁重にお断りして、後々の[貸し]ということにしていただいた」


 つまりアリツィア王女は、領土なり、金貨なりの代わりに、将来なにか起こった際にタウゼント帝国からの助力を得られるようにカール11世と約束を交わしたらしい。

 明確な形での同盟というわけではなかったが、実質的にオルリック王国はタウゼント帝国を味方にしたと言っていい。


「もしなにかオルリック王国に困りごとがありましたら、喜んで協力させていただきましょう。


 兵が必要な時は、僕自身が率いてお助けいたします」


 そう理解したエドゥアルドがすぐにそう申し出ると、アリツィア王女は少し驚いたような表情を見せてから、嬉しそうに微笑んで見せる。

 ドレスに負けない、美しく、優雅な笑みだった。


「それは、心強いね」

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