第9話 廉斗の家に到着

「だるい……」



 1人家に寝転ぶ廉斗は、汗をダラダラと流しながら、そう声を出す。今日、昨日の帰りに雨に濡れたのが原因で、廉斗は風邪を引いてしまった。



 熱も少しあったので、学校は休んだ。本当なら急に帰ってしまった事を結愛に謝らなければいけないだが、それもこの調子ではきつそうだ。



 まあただの熱なので明日までには治るだろう。なので謝るのも明日で良いはずだ。そんな事を考えながらも、ベットから起き上がって部屋から出る。




「今何時だ」



 どれくらい寝ていたのかと時計を見てみれば、今の時刻は5時過ぎだった。昼食を食べた後から随分と長い時間寝ていたらしい。



 廉斗は今年の春から一人暮らしをしていて、そこから風邪を引いた事はなく、今日が初めての熱だった。高校生にもなれば自分で対処出来るもので、実家への懐かしさは感じなかった。



 廉斗が一人暮らしを始めた理由は、全て廉斗の勘違いが原因だった。それは誰に打ち明けることもなく胸の内に閉まっておく。



 親はそんな廉斗のお願いを簡単に了承してくれ、こうして一人暮らしを出来るようになったのだ。



 

「……服も気持ち悪いな」



 そんな事が頭をよぎりながらも、ベットから立ち上がった自分の体を見てみる。寝ている時に汗をかいたいたようで、服が体にくっついていた。



 流石にその状態のままで過ごすのは衛生的にも良くないので、替えの服を持って風呂場に向かった。



 熱はあるけど湯船に浸かりたかったが、今から浴槽を洗ってお湯を溜める元気はないので、シャワーを浴びる事にする。



 着ていた服を全て脱ぎ、カゴの中に入れれば浴室へと入っていった。




「冷たっ……」



つけ始めのシャワーはまだ冷たく、熱のある体にはいつも以上に冷たく感じた。その後浴びていれば水温は上がっていき、程よい温度へとなっていく。



 ボーッとシャワーを浴びていれば空腹も感じてきて、無性に何か口にしたくなった。今ではすっかり食欲も湧いてきたので、体調的にも良くなってきていた。



 だからといって、この後に暴れたりしたらまたぶり返す可能性もあるので、そうならないためにも安静にしておかないといけない。




「あがるか、」



 一通り体を洗い終えれば、すぐに浴室から出た。そもそもシャワーじゃ長時間入っている事もないし、汗を流せればそれで良かった。



 濡れた体を拭いて、髪を乾かす。普段はきちんとドライヤーをしているが、今日は軽く風を靡かせて終わった。



 

「何か食べるか、」



 シャワーを浴び終えて服を着た廉斗は、そのままキッチンへと向かった。お風呂上がりだからか、それとも熱だからか、体が凄く暑かったので、上のシャツは脱いだ。



 こうして上裸になっても、一人暮らしの家なら誰の迷惑にもならない。楽な気分でパントリーを見ながらも、軽食の用意をした。




『ピンポーン』



その時、廉斗の部屋にインターホンが鳴った。一体誰だろうと頭を回したが、ここの家を知っているのは秀だけなので、おそらく秀が看病がてら遊びに来たのだろうと、そう思い込んだ。



 片手間でカップ麺の用意をしながら、もう片方の手でエントランスを開く。もちろんインターホンに映る画面は見ていない。少しとはいえ、熱があるかるか、思考がどうかしていたのかもしれない。



 一応、安全性の高いセキュリティのしっかりしたマンションに住まわせてもらっているので、ここの部屋に辿り着くまでにエントランスで一度扉を開かなければいけないのだが、それを確認せずに開いてしまった。



 廉斗は一人暮らしをしている割に、戸締まりに関しては緩い方だった。というよりも、こんな家にわざわざ入ってくる輩はいないだろうし、もし入って来たとしても盗られる物もない。来ようとしてもエントランスの段階で引っかかるだろう。



 そんな安易な考えを抱きつつも、電気ケトルでお湯を沸かしていれば、そのうちすぐに部屋のインターホンが鳴った。




「……鍵開いてるから入っていいぞ、」



 いつもは鍵を閉めているが、今日はいつでも出入りできるようにと、体調が優れていた時に開けておいた。もし出掛けるとなった時に、ここの扉は意外と重いので、熱のある状態だと苦労するかもしれないからだ。



 

「………じゃあ、お邪魔します、、」

「お邪魔します」



 廉斗がそう言った後に聞こえてきた声は、何やら女性の声だった。それも二つ。あれ?おかしいな。そう思ってキッチンを抜けてリビングへ行き、そこから玄関の方を覗き込んだ。




「え?あれ?小南さんと、、古水さん?」

「新城くん、、体調、大丈……夫?」



 玄関で靴を脱いでいた結愛は、廉斗と目を合わせた後、視線を下へと下ろしていった。




「なっ、何で裸なの!?」



 分かりやすく狼狽える結愛は、両手で目を隠して後ろを向いた。




「暑かったから、、、てか何でここにいるの?」

「……新城くんが開けたのよ?ここ、」



 その瞬間、廉斗の中の認識が変わった。ここの家に来たのは秀ではなく、結愛と希空だったのだと。








【あとがき】


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