第3話 ペット生活

 カンカンカンカン!と大きな音に目を覚ました。

 ふかふかのベッドからピョンと飛び出して、状況を整理する。


 一体何事か?と、驚く俺は音の元を探す。


 そこには、坂本愛香が鍋とお玉を手にしていた。彼女はお玉を使って鍋を叩いて音を鳴らせたのだ。


「遅くまで寝ているのは、いいゴミ分ね。あなたは私のペットなんだから、私より朝早く起きるのが掟でしょう?」

「今何時だと思っているんだよ!朝の6時じゃねえか。まだ、寝かせろよ。芸術家は創作するためには睡眠が必要なんだよ」

「ほう、私に逆らうのね。どうやら、躾がなっていないわね。はい。電気ショック」


 彼女はぽちっとボタンを押すと、電気が首輪から放たれる。

 ぎゃあああああ、と俺は叫びながら、昨日の出来ことがフラッシュバックのするように脳裏に焼き付けた。

 昨日、俺は自殺しようとして森奥までやってきた。が、そこで迷子の幼女を見つけて、彼女を保護した。彼女を屋敷に連れて来ると、彼女は坂本財閥の娘だとわかった。

そして、俺は10億円で買取りされた。文字の通りに買取された俺に、セバスと呼ばれた執事は俺に客室に案内された。

この屋敷の客室で一晩過ごした。夕飯も提供される。豪華な北京ダックをご馳走した。お腹いっぱいになった俺は、そのまま客室で寝てしまったのだ。

 そんな思い出を一瞬に流れると、電流が止まる。

 俺はゼエゼエと息を吐きながら、目の前の愛香に目をやる。そして、謝罪する。


「わ、わかった。俺が悪かった」

「わかればよし、いいこ。いいこ」


 彼女はにぱあと女神のように微笑んだ。

 くそ、その笑みにはどれほどの邪悪なことを隠しているのか、この化けの皮を被っている悪魔め。

 など、俺は心の中で罵詈雑言を語りながら、咳払いをして、この状況を訪ねた。


「で、どうして、こんな朝から起こしに来たんだ?」

「今から、引っ越しをします」

「引っ越しって……」

「ええ。来週から学校なのですから、ここから通うのは不便でしょ?本邸に引っ越ししますわ。都内のマンションになります」

「確かに、不便だ。こんな周りに森しかないのは通行には不便だな」


 愛香の言い分は一理ある。

 都会から車で3時間も離れた場所で、学校を通行するのは不便だ。

 ここは森の奥の場所だ。言い換えれば、ここは坂本家に別荘だ。本邸はまた別の場所にある。都会、東京都23区内に本邸が構えていると、セバスが教えてくれた。

 

「で、学校って、俺も通うのか?」

「当たり前ですわ。あなたは私のペットなんですから、同じ高校に入学してもらいます」

「ちなみになんの高校なんだ?」

「東京美高等学校よ」

「っ!?」

 

 その高校の名前を聞くと、俺は思わず鳥肌が立った。

 なぜならば、その高校は俺が受験した高校。そして、受験の解答用紙に一問ずれて解答した俺は落第した高校。

 そしてその高等学校は中高一貫校である。

 高校に受験するのは高難易度でもあった。

 天才な俺でさえも、受験に失敗したからだ。

 そして、その落第した俺がその高校に入学するのは何かがおかしく感じたのだ。


「どうやって、俺は入学できるんだ?俺は試験で落第したんだぞ」

「その件は……ふふふ。お金で解決できましたわ」

「結局、世の中金かよ!」

「まあ、冗談は置いておいて、実は昨夜、あなたの『才能』を学園側に再度問い合わせた結果、不合格から合格だと認められました」

「俺の『才能』……?」

「ええ。芸術の才能」


 にやりと笑う彼女は相変わらず汚い方法で問題を解決した。

 俺は芸術家だ。芸術才能は周囲からは天才と呼ばれている。唯一の俺の武器でもあり、取り柄でもあった。そんな裏方法で学園に入学できるなんて、思いも知らなかった。

 きっと、愛香が俺の才能を調べあげて、学校に問い合わせた結果なのだろう。

 ともあれ、一つ目の大罪。東京美高等学校に落選の罪はこれで帳消しになった。

 自殺する理由が一つなくなった。

 それはいいことなのだけれど、あと題材の二つが残っているため、俺はまだ、自殺する気でもいた。

 ……10億円を返済したら、俺はいつか自殺してやる!


「さて、準備しなさい。6時半にはここから出るわよ」

「へいへい」

「返事は、はい、よ」

「はーい」


 俺はそう返事しすると、愛香は部屋から出ていった。

 準備、とは言っても、俺にはリュークサック一つとこの服装しかない。準備するものは何もないのだ。もうすでに、準備万端な状態であったのだ。


「まあ、この部屋でゆっくり待てよう。もう、準備もクソもないからな」


 と、俺はそう独り言を言いと壁に吊られている時計の時間を眺める。

 時間になるまで、待つか。と、俺はベッドの上で寛いだ。

 彼女が呼び出すのを待つことになった。


 ◯


 俺と愛香は、リムジン車に乗せられた。車はゆっくりと走行し4時間で、目的地にたどり着いた。そこは東京23区内でも最も人口が少なく、昼の通行人が高い千代田区へと来てしまった。神田駅の前にでかいマンションに下ろされた。

 俺たちはマンションを入る。エレベーターを乗り、最上階へとたどり着く。すると、愛香は俺の部屋を案内する。

 

「おお!絶景だ!俺、この部屋を使っていいの?」

「ええ。ペットには最善な部屋を用意してあるわ」

「ありがとうございます!お優しい、愛香様!」

「ふふふ。ごゆっくり」


 俺はふかふかなベッドの上に乗ると踊り出す。子供心を忘れないのは大事なことさ。

 藍かはそう微笑ましく俺を見ると、彼女は部屋から出る。

 さて、お遊びはここまでにする。俺はベッドから降りて、荷物を置く。鞄一つしかない。シャツもあまりない。

 あとから、妹に洋服とか送ってもらうか。と、スマホ端末で妹にメッセージを送った。

 メッセージを送り終えると、俺は応接室に戻る。そこには愛香は腕を組み、俺を待っていたかのようにずっと、そこに立っていのだ。

 

「さあ、ポチ。お前の初めての仕事を与えてやろう」

「嫌だ。俺は自由になるんだ!」

「あら、躾が必要なのかしら?」

「すいませんでした。なんでもするので、電気ショックだけはお許しください!」


 即座に俺は土下座をする。

 日本の唯一、正しい謝罪の仕方。

 プライドを全て捨てて、1ミリも反省はしないが、電気ショックを間逃れるのであれば、どうでもないぜ。これちっぽけのプライドはどうでもいいぜ。

 

 ……生き残るためと比較すれば、プライドなんて不要なんだぜ☆。


「わかればいいわ。ポチ」

「で、俺は何をすればいいのでしょうか?」

「絵画を創作しなさい」


 愛香が語ると、俺は目を見開きする。

 はてなマークを頭上に浮かばせた。彼女の言葉の意味は理解しているが、彼女の本音がよくわからない。

 そんな間抜けな顔を浮かべていると、愛香は補足として説明する。


「私の交渉であなたの特別入学が決まったわ。過去の大賞の受章の履歴を伝えたら、学園長からぜひこの学園の転入がして欲しいとのことです。ただし、条件があります。この学園は才能を重視している学校です。あなたに芸術の才能は本当にあるのか、と学園長があなたの才能を疑っていますわ。なので、その学園長をげふんと言わせる作品を創作しなさい」

「なんだ、それだけか?」

「それだけって……あなた、わかって言っているの?学園長は美大を卒業した大人よ?腐った絵を描いて出したら、即退学よ?」

「俺が落ちるとでも?俺は天才芸術家だ。人を動かすことはできる作品を創作する人間だ」


 そう答えると、今度、彼女は大きな目を見開く。黒い双眸は大きく見開く。それは俺の傲慢について驚愕しているのか、あるいは馬鹿の戯言に呆れているのか、どちらかなのだろう。

 けど、前者が正解でいて欲しい。俺は芸術については傲慢と我儘な芸術家だ。妥協せずに自分が求めている「美」を最後までに追求する。

 

 ……神様は俺に「芸術」という名の呪いを与えた。


 彼女は目を一瞬に閉じ、クスリと微笑む。

お嬢様の笑は絵になる。思わず惚れそうな笑みでもあった。

 いかん、この女は悪魔であることを忘れてはいけない。俺を10億で買取、ペットとして扱われていた。人徳がなく、卑劣な主人なんだ。

 それを忘れてはいけない!

……あ、でも飯を3食と根所を用意してくれる。そう考えると、素晴らしい主人なのか?これは難しい哲学な問いだな。まさに、善悪二元論の問いになる。善の方が重いから、悪を見過ごすことが可能?

 そんな答えがないことを考えていると、彼女は口を開く。


「よろしい。私のマンションの中に画廊があるわ。その部屋にあるものを全て使っていいわ」

「絵の具が足りなかったら?どうすればいい?」

「その時は、セバスに申し付けなさい」

「了解」


 そう簡単に答えると、彼女はマンションの一部屋、画廊を案内した。

画廊は絵を何点が飾っている。しかも、その絵の端にはSakamoto AKと起票している。創作者の名前が記載されていたのだ。

 どれも質がある絵画だが、何かが足りていない。後もう一声足りない絵画達が壁に飾っている。


「締め切りは明日までよ。だから、早くして頂戴ね」

「おい。無茶振りを言うな!」

「天才画家なんでしょう?それぐらいはなんとか描きあげなさい」


 愛香はそれだけ告げると、画廊から立ち去る。

 残された俺は、やれやれ、仕方がないな、と絵の具とキャンバスの準備をする。キャンバスをイーゼルの上に置き、パレットに色を塗る。油絵で挑戦しようと、俺はサクサクと絵画を描いていく。

 今夜中に俺は作品を完成させる。

 それもパーフェクトに仕上げる。

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