第2.5話 坂本愛香は芸術を愛する

 私、坂本愛香は坂本家で生まれた長女である。

 そんな私に課せられた運命は、この坂本家の繁栄と社会の維持である。この偉大になった坂本家は、社会に必要不可欠な存在になってしまった。

 坂本家は爪楊枝から、軍艦までの研究、設計、創造、実験、販売をしている。人の日常茶飯事の道具から、軍事施設に機密情報まで取り扱っていた。

 私は、そんな全てを運営と管理を徹底的に行なった。

 父は数年前に亡くなったため、私と祖父と、二人で傘したにある数千の社の運営や管理をしていた。

 忙しい毎日でもあるが、私はそんなことを苦だと思っていなかった。毎日は資料の確認と捺印をする。会社の方針を決めた。財閥の舵を切っていた。


 ……灰色な人生だな、この社会に一生向き合うしかない。


 私の人生はそんなものだ。一生、この坂本財閥に永遠に向き合わなければならない。

 投げ捨てることはできない。なぜならば、投げ捨ててしまったら、坂本家が運営しているすべての会社の倒産。その意味は、坂本会社で勤めている従業員の解雇。約1億人近くもある人が職場を失う、社会的問題になってしまうのだ。

 このままだと暴動が起きてしまうのだ。

 祖父と私、二人でこの坂本財閥を繁栄していったのだ。


 どんなに辛い日でも、

 どんなに孤独でも、


 私はそれを乗り越えて来た。

坂本家として、私は責務を果たすのだ。


 そんなある日……忙しい毎日の中。私は、傘したの企業である、『坂本絵の具』がコンクール企画を聞かされた。

 私は絵画を一才知らずに審査員になるように、役員から促された。

 絵画に詳しくはない私は、最初は断ったが、『坂本家』の代表として参加せねばならなかった。

 最初は楽しみにしていたのだ。

 なぜならば、これは人生初めての審査員なのだ。

 審査員は何を見て、判断すれば良いのか、わからなかった。

 秘書のセバスは、気楽に選べばいい。気に入った絵をそのまま選べばいいと助言をしてくれた。

 私は、楽しみにしながら、その作品を鑑賞する日を待ち望んでいた。

 がしかし、蓋を開けてみれば、中学校の作品の公募であったのは少しがっかりをしたのだ。

 ……所詮は落書きの作品でしかない。

 どれもこれも、応募したものは気になることはなかった。落書きでしかない。これじゃあ、木にいることがない。

 と、思ったそんな時に、私は一枚の絵に触れる。


 ……開いている籠の中に、囚われている青い鳥が羽ばたこうとする。

 

 その絵は油彩だ。静物画、静止した自然の中から切り取ったワンシーンを描いたものだ。その青い鳥はカゴの中は羽ばたこうとしている。

 青い鳥、それは幸せを運んでくる鳥。

 モーリス・メーテルリンクの作品の『青い鳥』それは幸せを運んでくる鳥。二人の兄妹は青い鳥を探すために世界を冒険する。数々の世界に出会い、青い鳥を探すが、冒険では青い鳥を見つけることができなかった。旅の最後、家に帰ったら、そこに青い鳥があったのだ。

 最後の最後に青い鳥、幸せは短な場所にあった。

 

 ……この絵を見ると、温かく幸せを感じる。


 囚われている青い鳥が解放される瞬間だ。まるで幸せが、来る予感を見せてくれる。そんな幸せが積もっている絵。希望の光が見えてくる、一枚の絵だ。

 言葉にはできない……感情の奥底から湧き上がってくる、マグマのように噴火しそうとなった。

 ああ、この作品は素晴らしすぎる。


「この創作者は誰?」


 私は慌てて、その創作者の名前を尋ねる。

 すると、他の審査員から創造者を知った。彼の名前は吉田健次。中学校から唐突に現れた天才画家だと知った。

 どの公募でも必ずしも受賞しているのだ。

 メディアにも取り上げられていた。


 ああ、これが天才画家なのか、と私は彼の才能に見惚れた。

彼の作品のファンになった。もしも、彼がファンクラブを開催したら私は彼を追い続けると思う。

それから以降、私は彼が創作する作品を見るようになった。彼が創作に、完全に虜になったのだ。

そして自分も芸術作品を触れてみた。油絵に挑戦して見た。

芸術はやはり難しい。私は絵を描けるが、それ以上。人に感動する作品を創作できない。

吉田健次の才能に、ますます惚れていたのだ。


だが、ある冬から、彼は公募の名前から消え去った。

受賞できなかったのか、と思っていたが、彼は公募すらしていなかった。

 探偵を雇い、彼の行方を調査するように依頼した。

 すると、彼の精神状態がよくないことがわかった。

 

 ……目の前で恋人の交通事故を目撃してしまった、ショック。


 それと、彼はうち……東京美高等学校……の受験に失敗したことがわかった。内容を見ると、それは彼の凡ミス。解答用紙の一問をずれて答えていた。

 

……何やっているのよ。このばか!


 など、私は苛立ちながら、彼をこの学校に招き入れないか考える。

彼の才能を学園長の祖父に懇願してみる。彼を特別入学することはできないか?

学園長は、こう答える。

もしも、彼が私の心を動かせる絵画を描けるのであれば、彼を特別入学をしよう、と。

私は、その賭けに賭けた。彼、吉田健次の絵画は絶対に祖父の心を動かせると信じた。だから、彼をコンタクトする方法を模索した。しかし、彼は電話に一向に出ない。

知っている限りの連絡先方法で彼に連絡を取ってみたが、彼の反応はなかった。これではまるで、吉田健次がこの世界から消えてしまったようだ。

 

 私は諦めた……彼という影だけしか見透かすことができなかった。


 3月下旬。私は、休暇をとり妹と別荘に移住した。仕事が一旦落ち着いた先に、妹の愛莉で休暇を楽しもうと旅行気分で、森中の別荘に来たのだ。

 そして、妹とかくれんぼを遊んだ。私が鬼で、妹の隠れる側と分けて、かくれんぼをした。しかし、彼女は屋敷周辺を探してもどこにもいない。

 30分を探しても、どこにもいなかった。

 私が負ける宣言しても、妹はどこにでもいない。

 もしかして、森奥に行ってしまったか、と思う私は焦り出す。なぜならば、森は危険な場所だからだ。

 セバスに警察を呼ぶように連絡し、私は森中に入ろうとした。

 その瞬間に、愛莉は戻ってきた。少し頼りない少年とやって来たのだ。

 私は愛莉の再会に抱きかかえた。

 そして、少年にお礼をいようとしたが、彼の顔をどこかで見たことあった。

 あ、そうだ。彼は私がずっと探していた、吉田健次だ。

 ……私が探し求めた、天才画家だ。

 けど、どうして、彼がこんな何もないところにいるのか?


「あのお兄ちゃん!背伸びの運動するんだって」

「背伸びの運動……?」 


 内容を愛莉から聞くと、それは首吊り自殺だった。純粋な愛莉はそれを知らずに堂々と説明してくれた。

 何!彼が自殺するだって!

絶対にダメだ。私は彼の大ファンとして、彼に死なれたら困る。


「じゃあ、俺はこれで……」

「逃がしませんわ。セバス!」

「はっ!」


 セバスは一瞬で、彼を捕らえる。健次の背後に瞬間移動し、彼の腕をとり、地面に叩きつける。

 見事に健次を捕らえることができた。さすがは、元米兵。素人をすぐに拘束できる。

 さて、彼が持っているバックを拝見しよう。

 と、私は彼のバックを漁る。そこには見事に縄が入っていた。これは決定的に証拠。彼はこの森で自殺しようとしたのだ。


「へえ、これで「背伸び」運動とはね。熱心な芸術家さんがこう運動するのね」

「ぐう、俺の人生だ。俺が何かするのは俺の勝手だろ?」

「ふむ。あなたのことは一理ある。正しいわ……愛莉。先に屋敷に戻っていなさい。私はこの人ととても大事な話があるわ」

「はーい」


 愛莉を先に部屋に帰らせて、私は、顔を健次の方へと向ける。

 確認するように、私は自ら愛用しているタブレットで彼の情報を確認する。

やはり、彼は吉田健次で間違いない。

だから、私はタブレットを彼の方へと差し出してみせる。


「すごい才能なのね。あなた」

「ま、まぐれだよ。俺は適当な絵を描いただけで、受賞したんだ」

「まぐれ……ね」


 さて、彼が自殺しない方法を考える。

 このような天才を、ここで死なれたら、困る。

 彼の作品のファンとして、彼を死なせるわけにはいかない。

私は、彼を止める方法を考えた。

そうだ、彼をお金で買う!ペット、という大義名分を使って彼を購入しよう。


「そうね。あなた、自殺しようとしたのでしょ?なら、その命、私が頂戴してもいいかしら?」

「ど、どう言う意味だよ?俺の命は誰にもあげねえ」

「こう言うことよ」


私は小切手を手にして、ペンで金額を書いてから、彼に見せる。


「はい。これがあなたの金額よ。これで、あなたの命を買えないかしら?ペットとして、坂本家に貢献できないかしら?」

「2億円?はっ!馬鹿にしているのか?俺の人生をお金で買うなんて、そんなことで出来る訳ないだろ?俺の命は誰にもあげない。人の人生はお金で買えないだよ!」

「じゃあ、10億円で」

「はい。今日から僕はあなたの誠実な奴隷です。何なりと、命令してください!」


 ……この男、ちょろいわ。誰も、この大金のお金は命より重い。

 これで、彼が自殺することを防いだ。

 セバスは彼が危害を加えないと確信したのか、健次を解放する。

 健次は涎を垂らしながら、メロメロな顔で小切手を大切にしていた。

 フフフ、お金で買えないものはないわ。その表情は素晴らしい。人が欲に負けた瞬間な顔はいつ見ても素晴らしいわ。

 さて、私はあともう一つ準備しなければ、彼が死なないための保証をつけなければ。

 私は、「坂本科学」の研究商品、電気首輪を持ち出し、彼の元へ歩いた。


「いいわね。その表情!私気に入ったわ」

「ありがたき幸せ」

「さあ、首輪をつけましょう。これから、あなたの名前はぽち、ですわ」

「へ?」


 首をかちり、とつけると彼の首につけると、彼は素っ頓狂な表情を浮かべた。

 何が何だか、まだ理解できていない様子だ。

 そして、状況を理解すると、彼は顔を真っ赤にして、怒鳴り出す。


「じょ、冗談じゃないぞ!俺は犬なんかじゃない。人間だ。契約不履行だ!」

「はい。お仕置きタイム♡」

「ぎゃあああああああああ」


 あ、思わずボタンを押しちゃった。

 電流は100ボルトで設定しているから、5秒程度であれば、死ぬことはないはず。と、説明書に書いてあったわ。

 さて、その威力も試せたし、次は彼の行動を制限する。

 契約は口頭でも成立するものだから、ここで彼に宣言する。

 

「あなたが小切手を受け取った瞬間、契約は成立したのよ?今更、白紙に戻す訳ないでしょ?」

「く、くそ。俺は死んでやる。自殺してやる!」

「そうなれば、その金額……あなたの家族から請求するわよ」

「なあに!?」

 

 これで彼が自殺することを防止できた。

 下調べはもうすでにしてある。あなたのご家族は10億円の返済することはできない。つまり、健次は私のペットとして一緒に暮らせる。

 ペット、って同棲すること?

 いや違う。一緒に住むだけ。それ以上の関係がない。

 ……どうしよう、私、彼のファンなのに、彼と暮らすことになった。

 少し気が恥ずかしいけど、彼が創作するのであれば、私は我慢できる。


「さて、坂本家のペットになったあなたには部屋と、食事を用意しないといけないわね」

「まさか、犬小屋だなんて言わないよな?」

「ええ。そこは安心していいわ。普通の部屋は用意するわ」

「ほー」

「とは言っても、あなたは私の犬だから、首輪は取らないぞ」

「なんて卑劣なお嬢さんなんだ」

「10億円で言うことを聞ける犬を飼ったなんて、私も鼻が高いわ」

「全然、俺の話聞いてねえし」


 私は恥ずかしさを必死に隠して、彼の前に立つ。

 そして、感心なことに自己紹介をする。

 

「改めて、自己紹介をするわ。私は坂本愛香。坂本家の長女として、坂本財閥のいくつかを統治しているわ」

「俺は吉田健次。芸術家だ」

「よろしく、銀次」

「こちらこそ、よろしく坂本さん」

「愛香でいいわ」

「なら、遠慮せずに、愛香と呼ばさせてもらう」


 私は思わず、ふふふと、笑った。

 久々に笑ったのだ。いつもは財閥の統治でこのような戯れは許されなかった。

 坂本家の長として、私は笑うことは許されなかった。

 けど、彼と出会いたことで、私の中の何かが、動き出す。

 それは運命の悪戯なのか、あるいは宿命なのか、わからない。

 でも、私はこの出会いには、何かの意味があると信じた。

 科学根拠はないけど、私はそう受け取ったのだ。

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