42話・最後の悪足掻き

 王子たちの決闘を利用して新たな戦争を起こそうとした黒幕、メラリア。後ろ盾である大公から離縁された彼女は全てを失った。手駒の侍女たちも捕まっている。最早メラリアには何もすることは出来ない。誰もがそう思った。


 しかし。


「王子たちを討ちなさい!」


 警備兵たちに囲まれた状態でメラリアが貴賓席から声を張り上げた。甲高い声は闘技場内に響き渡り、


 闘技場内にはメラリアの忠実なしもべが控えていた。決闘に参加しない国として、審判に公平を期すためにモント公国から出されていたメラリアの護衛たち。主審一名、副審四名。うち副審一名はカラバスが倒している。

 彼らはメラリアが大公から離縁されたことをまだ知らない。故に、彼女の命令は絶対。多少の戸惑いや迷いはあれど、逆らうことは有り得ない。

 彼らは隠し持っていた短剣を抜き、戦っている最中のラシオスとローガンに一斉に飛び掛かった。


「邪魔はさせん!」

「無粋な真似をするな」


 主審の右手首を強かに打ったのはグナトゥスが投擲したグラス。痛みに立ち止まった主審を背後から蹴り飛ばしたのはシヴァ。そのまま踏み付けて動きを封じる。


 残りの副審三名は闘技場の隅から中心部に向かって駆けている途中で炎に飲み込まれた。


「愚かな奴らですな」

「確かに利口とは言えん」


 アリストスとジェラルド卿が貴賓席から放った炎である。副審たちは慌てて地面に転がり、火を消そうとしている間に駆け付けた警備兵によって捕縛された。


 僅か数秒の間に主審と副審全員を行動不能にしたのは第一、第三試合で戦った四名。彼らはずっと闘技場内を警戒していたのだ。


 間近で見ていたラシオスとローガンは、自分たちの勝負も忘れてポカンと口を開ける。


「何をほうけておるんじゃ!」

「邪魔する奴らはもう居ない。存分に戦うがいい」


 グナトゥスとシヴァに促され、二人の王子は顔を見合わせ、再び剣を構えた。

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