41話・身内の始末

 メラリアは我が目を疑った。フィーリアが手にしている書類には確かに大公のサインが記されている。二十年以上連れ添った夫の筆跡だ。見間違えるはずがない。


「いつの間に、誰がそんなものを」


 ギリ、と扇を握る手に力が入る。

 メラリアがフィーリアに痺れ薬を渡したのは決闘前夜である昨日。矢でローガンを狙ったのは先ほどの出来事。それを理由に遠く離れたモント公国までサインを貰いに行くことなど不可能である。


「直接大公様に会いに行かれたのはルキウス殿下とシャーロット様です。書類だけ先に早馬で届けられました」


 フィーリアの言葉に、メラリアはバッと後ろを振り返った。

 闘技場をぐるりと囲む観覧席。その中で最も眺めの良い位置にブリムンド王国王族専用の貴賓席がある。日除けの薄絹が掛けられ、中に誰がいるのかは見えない。だから、誰もが第一王子ルキウスと婚約者シャーロット嬢がそこに居ると思い込んでいた。


「ブリムンド王国の騎士団に大きな動きはなかったはず。まさか王族が外遊しているなんて」

「あ、そこは我がアイデルベルド王国軍から護衛を出してます。国境で落ち合う算段になってまして」


 ヴァインは最初から知っていた。決闘の前々日、ルキウスがローガンに会いに来たのは出発前の最後の打ち合わせのため。


「ルキウス殿下たちはモント公国までお忍びで旅行を楽しんでおられます。結婚式を挙げてしまえば公務に追われ、しばらくゆっくり出来ませんから」


 婚前旅行のついでに離縁の書類にサインを貰ってきたのだと悟り、メラリアは激怒した。


「よくもあたくしを陥れてくれたわね」

「この決闘で何もなさらなければ書類は破棄する予定でした。自分の首を絞めたのは他ならぬ大叔母様自身です」


 フィーリアは自分の手で身内の不始末をつけるつもりでいたが、未来の義兄姉が協力してくれた。


問題のある身内は始末しておかねばなりません」

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