32話・もう一つの凶器
──国家間に
フィーリアの言葉に貴賓席がしんと静まり返った。可憐な令嬢の口から出るには物騒過ぎる話題である。
「国家間というのはブリムンド王国とアイデルベルド王国のことでしょうか」
「ええ。
カラバスの問いにフィーリアが答える。
現在、闘技場ではその二国の王子によって決闘が行われている。つい先ほど、どちらかの王子を狙って矢が放たれた。従者二人によって未然に防がれたが、当たっていれば国際問題に発展するところだった。
ブリムンド王国第一王子の結婚式を数日後に控え、近隣諸国の王侯貴族が集結しているこの時期に二国間で揉め事が起きればどうなることか。
「大叔母様が本当にわたくしの幸せを願っていて、わたくしがラシオス様に痺れ薬を飲ませたのだと信じたのであれば、矢で狙われるべきはラシオス様ではありませんか。でも、そうではなかった」
ちらりとフィーリアが視線を向けると、クロスボウを隠し持っていた侍女が顔をそらした。
「狙われたのはローガン様でした。一度なら狙いを外しただけかと思いましたが、二度目もローガン様目掛けて矢が放たれたのです」
大公妃メラリアは眉間に皺を寄せ、扇で口元を隠し、フィーリアの言葉を黙って聞いている。
カラバスとヴァインは先ほどのことを思い返す。矢は確かにローガンに向けられていた。
ヴァインがハッと顔を上げる。
「ここで見つかったクロスボウは一つだけです」
「では、もう一つは何処に!?」
貴賓席の柵から身を乗り出し、カラバスとヴァインは周囲を見回した。闘技場をぐるりと囲む無数の観覧席。貴族用の貴賓席のブースだけでも何十もある。その中に、まだ王子たちを狙う者がいるかもしれないのだ。
「ほほ、愉快だこと。あなたたちがあたくしの元に来て無駄話をしている間に、また何か起こるかもしれなくてよ」
メラリアの笑い声が響いた。
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