18話・第三試合終了

 観客たちの興奮醒めやらぬざわめきを聞きながら二人は控えの間へと戻った。


「叔父上には敵いませんでした」

「何を言う。皆が楽しめたのは我らの力を合わせたからこそ!聞こえるか?まだ歓声は止んでおらぬぞ!」


 勝負などではない。ジェラルド卿は最初から観客を楽しませることしか考えていなかった。その余裕と懐の深さに、アリストスは己の慢心を恥じた。思ったままを正直に打ち明ければ、ジェラルド卿は笑った。


「サウロ王国には多いかもしれんが他所では魔力持ちは珍しい。単独で任務に当たるには足りず、集団にも馴染めず、扱いの難しい存在でなァ」

「はあ」

「補うために技術を磨き、魔力を温存させるために何でも取り入れて他者との連携を取りやすくした。それが俺の戦い方だ」


 ジェラルド卿の魔力はアリストスより少ない。血が薄まる度に失われている。それでも他者にはない特性を活かすための方法を模索し磨き続けている。生まれながらの素質に胡座をかいていたアリストスとは根本から違うのだ。


「叔父上と手合わせ出来て良かったです」

「嬉しいことを言ってくれる!」


 挨拶も済ませ、炎の斬撃を放つ際に刀身が焼け焦げた木剣を世話係に返却してから二人は控えの間から出た。乾いた靴音が通路に響く。誰とも擦れ違わないのは、次の試合こそが本日のメインイベントだからだろう。


 別れ際、ジェラルド卿がアリストスの耳元に顔を寄せた。先ほどまでとは違う真面目な表情だ。彼にしては珍しく小さな声で囁く。


「何か起きる。油断するな」

「分かっております」

「なら良い!」


 王子たちの決闘の前座として行われた三試合、出場者は全力を出しておらず、みな余力を残している。この後に起きるであろう『何か』に備えているからだ。


 忠告の後、ジェラルド卿は豪快に笑いながら去っていった。その後ろ姿を見送ってから、アリストスもサウロ王国に充てがわれた貴賓席へと戻った。

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