やっ! と輝き照らす笑顔

 部活が終わって、げた箱で靴を履き替え、でかいガラスの扉(開放しっぱなし)を抜けると、なんだ日織が先に、白くてでかい柱にもたれかかっていた。

「やっ!」

 今朝と同じくにこっとしたら、前へ歩き始めた。

 セーラー装備のウィンドブレーカー装備のセカバン装備。我が中学校女子学生の実に一般的な装備スタイルである。髪のリボン装備者は激レアだが。

 俺はただの黒い学生服。今日もネームプレートが輝いているぜ。

 置いていかれても、日織なら勝手に部屋へ突入するだろうなので、駆け足で近寄った。

「ねね、駅前に新しいカフェできたの知ってる?」

「なんか工事中だったな」

 あ、その目。チョコ関係なのだと一瞬でわかってしまった俺。俺も未来予測能力を手に入れたのか?!

「土曜日一緒に行こうよ! 十時か十一時くらい!」

「土曜日だな、おっけ」

「よしっ」

 幅と長さをもう一度言わせたいッ! 通称ハバナガの表紙にも負けないくらいのキメ顔っぷり。

「そこのどんなチョコが、お目当てなんだ?」

 あ、その手。両ほっぺたにあてがわれて、ああこれもうドンピシャドンピシャリですね。

「よくぞ聞いてくれました! なんといってもチョコブラウニーが人気らしいよ! ぁでもあたしはチョコパフェ食べてみたいなぁ~!」

「こんな寒いのに!?」

 パフェってアイスクリームとか乗ってますよね? 器もキンキンなイメージ。

「パフェは別腹~」

「温度も食べる女、樫保日織」

「ホットチョコも気になるよね~」

「ココアじゃないんだな」

 日織のリボンは、今日も元気よく跳ねていた。


「ただいまー」

「おじゃましまーす!」

「おかえり、あら日織ちゃん?」

 無事帰還! 玄関へ入るなりただいまーおじゃましまーすおかえりーをして、二人して靴ぬぎぬぎ。

 俺の灰色の運動靴と、日織のこげ茶色のローファーが横に並んだ。靴下は俺が紺色、日織は白だった。茶色の靴下ってあんまり見ないな。よな?

 続けて二人して顔だけひょこっとリビングに。台所方面から母さんが寄ってきた。髪は肩にぎりかからないくらい。

「こんにちは!」

「いらっしゃい、日織ちゃん」

 うちに最も回数多く来ている客人は、間違いなくこの日織だろうなぁ。


 セカバンは階段の前へいったん置いて、一緒に洗面所で手洗いうがい。最も接近戦が繰り広げられる。俺のコップを容赦なく使ってくる日織。頭突きしてくる日織。


 部屋でマンガ読む流れかと思ったら、日織はセカバン前に座ってガサゴソ。取り出されたのは大きな箱。長方形。こげ茶色。チョコなんでしょうね、はい。

(ハッ! あいつローファー履いてんのもチョコ色だからか?!)

「おばさ~ん! これあげる!」

 堂々とした立ち居振る舞い。リビングの扉を開けながら俺の母さんを呼ぶ。

「あらー、チョコレート?」

「うん! 旅行行ったからおみやげ!」

 一瞬それも作ったやつなのかと思った。

「まぁ~いつもありがとうねー。晩ごはんの後に、みんなで一緒に食べるわね。日織ちゃんが選んだのだから、きっとおいしいわね」

「当然っ!」

 なんか左手Vサインを顔の左側に90°倒してる。俺の立ち位置は背中側のため、表情は不明。

「あれ? でも今日、別のチョぐえっ!」

 あいつ後頭部にセンサーでも付いてんのか!? 残りの右腕で肘打ちしてきたんだが!?

「興雪くんと一緒にマンガ読みま~す!」

「ゆっくりしていってね。ココア持っていってあげるわ」

「やたー! おじゃましまーす!」

 本日二度目のおじゃましまーす。ほらいくよいくよと決まり手押し出しをくらった。

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