短編61話  数あるチョコ好きからもらうチョコ

帝王Tsuyamasama

短編61話  数あるチョコ好きからもらうチョコ

「寒いねぇ~おっきー。はいこれあげる」

「さんきゅー。相変わらず教室に設置されるストーブ小型すぎてここまでぬくたいの届かねぇから、これで寒さしのげるわ~。ってチョコレートやないかーいっ!」

 決まったぜ。この完璧な右腕35°の角度!! 左手にはピンクい包み紙。いつもより大きいな。片手で上からつかめるくらいの大きさではある。厚さも~……5cmセンチメートルないくらい?

「じゃそれ食べて寒さ吹き飛ばしちゃおー!」

「おぉーっ…………?」

 今は二月ってこともあって結構寒い。朝から雪がちらついていたしな。俺の名前、渡芹わたせり 興雪おきゆきの名にふさわしい、冬の季節真っ盛りだぜ。

 今日は登校するときなんか、特にウィンドブレーカー装備者が多かったな。さすがに学生服&セーラー服だけで挑むには寒い日だったぜ。

(まぁ俺は走って登校するし、帰るとき忘れそうだから、あんまりウィンドブレーカーって着ないんだが)

 説明しよう!

 ウィンドブレーカーとはその名のとおり、ウィンドブレーク遮断させる上着である! 薄くてパリパリしてるあれ。

 我が中学校指定の物で、校章と名前が白色で入っている。被って安心フード付き。紺色こんいろよりかはちょい薄めの藍色あいいろな感じ。

 こんな寒い日に寒いねぇ~のセリフとともにくれたアイテム。この文章の流れだと、例えばカイロとかコンポタコーンポタージュとかを想像した視聴者も多いであろう。

 だがっ! 相手は樫保かしほ 日織ひおりである! あのチョコチョコレート好きまみれな日織である! くれたアイテムはもちろん、チョコであろう。包み紙をよく見ると、ピンクベースのチェック柄である。

 そんな日織は、今日もリボン結んで髪をひとつにしている。髪の長さ自体は肩を結構越している。さすがに腰まではない。

 今日のリボンは赤。太さは普通。ヒオリボン日織のリボン的には、オーソドックスなタイプと思われる。

 なおウィンドブレーカーは、日織もイスの背もたれ部分に掛けられているので、着てきたことになる。個人的見解だが、置きっぱの可能性は低いと思われる。たぶん。

「やっぱり寒い日はチョコだよね~。溶けないし」

「ファットブルーム現象」

「それ溶けてんじゃん」

「テンパリング」

「つやつや」

 説明しよう!

 ファットブルーム現象とは、熱いとこにチョコレート放置したら変な模様になっちまうあれである!

 テンパリングとは、温度調節しまくる湯煎ゆせん技のひとつである! チョコレートをつやっつやにする効果があるぞ!

 と、こんな具合で、今日も仲良く隣の席同士でおしゃべり。

 日織とは幼稚園からの仲だ。小学校に入って同じクラスになった辺りから、なんか今までこうやって、ノリノリでしゃべってる気がする。

 なんというか、気が合うというか、気兼ねなく~っていうやつというか、とにかくノリがいい。

「でもごめーん、それテンパリングしてないや」

「おぅ? さすが日織。包み紙見ただけでテンパリングの有無を判別できるとは。チョコレー透視チョコレート透視能力に目覚めたか」

「だってそれ、あたしが作ったもん」

 日織は俺の右隣の席で、腕を前に伸ばしながら、机にぐでーっとしている。顔だけこっち向いてる。

 姿・形はいつもの日織だが、今さっき聞いたセリフは……?

「……今日は寒さで耳の調子が悪いのだろうか。今なんて言った?」

「それ。あたしが作ったもん」

「…………念のため確認。どれ?」

「これ」

 ぐでーな体勢はそのままに、左手を伸ばしてきて、俺が持っていたピンクい箱をデコピン。こいつのおでこはそこなのだろうか。

(……これを……日織が、作った?)

 見た感じ、デパートとかスーパーとかで売られている、正方形箱タイプのチョコレート(ピンクい包み紙付き)に見えるが。

 というのは、日織がいつもくれるチョコレートというのは、日織が自分で食べる用のチョコレートを、おすそ分けという形でくれるからだ。

 確かにそれらは一口サイズのがほとんどとはいえ、たまに板チョコ半分だったりとか、旅行のおみやげとかで俺の分も手に入れてきてくれたりとか、様々なケースがある。

 今回もそんな感じかな~って、普通に受け取ってしまったが……

(日織の手作りとあっちゃあ、話が変わってくるぜ!)

「味はあたしの好きな板チョコいくつか合わせたやつだから、おいしいからね」

 なんかニヤってして左手の親指をばっちぐぅってしてる。体勢はぐでーなままだが。

「あー、えとー」

 ……今まで手作りのって、もらったことあったっけ……? チョコ入りのクッキーとかなら、小学校のときに一緒に作った記憶はある。

「……さ、さんきゅ」

 ちょこっと箱持ってる左手をクィッ。

 日織は両手を少しの間、前へ突き出したと思ったら、普通にイスに座る体勢に戻ってから、改めてこっちを見てきて、

(……やっぱ女子なんだよなぁ。日織)

 にこっと元気な笑顔を披露してきた。

「ね。今日一緒に帰ろうよ」

 まだにこにこが残っている中で、さらにそんなセリフが。

 日織は普段、女子友達と一緒に帰ることが多いような気がするが、たま~……に、こうして編成組むのを提案してくることがある。

「んじゃ玄関ポーチの柱で」

「うん。あとおっきーの部屋で遊ぼうよ」

 いちおー説明しよう!

『おっきー』とは、この俺渡芹興雪のあだ名である! 命名者は日織である! 幼稚園から一緒の何人かの精鋭は、俺をこう呼ぶやつがいるぞ!

「あいよっ。何すんだ? ドミノか? バックギャモンか?」

「ふふーん。じ・つ・は~……」

 机の右側に掛けられてあった、中学校指定紺色セカバンセカンドバッグを机の上に起き、ガサゴソしながら溜めて……

「じゃん!」

「おおっ!? 最新巻か!」

 取り出されたのは、なんと! 『幅と長さをもう一度言わせたいッ!』の単行本最新巻!

 説明しよう! 幅と長さをもう一度言わせたいッ! とは、学園恋愛物なのか数学なのかスポーツなのかよくわからない、いや言い換えればなんでもありなはちゃめちゃマンガである!

 最新巻の表紙は、測定部のメンバーが色や形が様々なメジャーをそれぞれピッ! って引き出してキメ顔しているもの。測定部とは主人公たちが所属する部活である! 測るためならなんでもする部活なんだぞ!

 恋愛系の好きな読者・勉強系が好きな読者・スポーツ系が好きな読者と、老若男女に支持されている少年マンガである!

「一緒に読も読も!」

「おうよ!」

 ある日突然、日織がこのマンガを持ってきてからは、最新巻が出ては一緒に読む、というのがお決まりとなってきた。

 一日では読みきれないので、これから何日間かは、一緒に帰る日が続きそうだ。

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