第108話 人間の可能性は無限大
黄色い装飾が付いたそれを、透はまじまじと観察する。
(まさか、妙な呪いがかかってるんじゃ……)
「何よその目は。それはアタシが作ったものじゃなくて、別神(べつじん)からのものよ」
「あ、そうなんですね。よかった」
「なんで安心してんのよ!?」
ネイシスが目をつり上げるが、こればかりは仕方がない。
(この世界の神様はみんなこうなのかな?)
さておき、頂いたブレスレットをはめてみる。
ブレスレットは透の腕にぴったりだった。また、非常に軽く、装着感がないのも良い。
「これで揃ったわね」
「えっ?」
「ううん、なんでもないわ。ちなみにそのブレスレットは、【魔剣】みたいに特別な効果は〝ほとんどない〟から。大事にするのよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「うんうん。それじゃあ、またね」
ネイシスが手を振ると、徐々に白い世界がかき消えていく。
しかしすぐにぽんと手を叩くと、
「あっ、そうだ」
動画を一時停止したかのように、消えゆく白い世界が停止した。
(あっ、止められるんだ)
「アンタ最近、スキルボードを眺める時間が減ったわね。なんでよ?」
「ええと、まとまった時間が取れなくて……」
スキルボードには現在も、非アクティブのスキルが五万とある。
スキルを吟味してポイントを振り分けていくのは面白いのだが、いかんせん要不要を選り分けるのに時間がかかりすぎる。
それに、自分がどんなスキルを取得していくべきか? 育成方針(ビルド)が定まらないというのもある。
「スキルくらい、自由に取ればいいじゃない」
「それはわかってはいるんですけどね……」
「煮え切らないわねえ。日本人ってほんと、そういうところあるわよね」
「そういうところ?」
「自由が苦手」
「ああ、たしかに」
「あと、失敗を極端に恐れてる」
「うぐっ」
「コスパ意識が高すぎるのも問題よね」
「ぐぬぬ……」
全くもってその通りだ。ネイシスの言葉が心の中心にぐさぐさ突き刺さる。
何かを選択する場合、まず失敗しそうなものを除外するし、必ずコストと対価を意識してしまう。
だから、自由にやれと言われると、どうしたらいいか困ってしまう。
チャレンジするからには成功しなければいけない思い込んで、臆病になってしまうのだ。
「アンタの勤勉さは、日本じゃ全く役に立たなかったけど――」
「クハッ……」
心にクリティカルヒット。
えっ、この神なんで心を殺しに来るの? 日頃の恨み?
「今は十分すぎるくらい役に立ってるじゃない」
「そう、ですかね?」
「ええ。その証拠に、エアルガルドに降りて一ヶ月なのに、アンタの周りにはたくさんの人がいるじゃない」
「――っ」
指摘されて、ハッとした。
エアルガルドにおいて、劣等人は蔑みの対象だ。
そんな劣等人として転移した透は、劣等人であるにも拘わらず、たくさんの人と縁が繋がっている。
エステル、マリィ、リリィ、グラーフ、シモン、ジャック、アロン、テミス……。
パッと思い浮かんだだけでも、日本で暮らしていた時より多くの人と交流を持っている。
たった一ヶ月でそれだけの人と縁が結ばれたのだと、今更ながらに気づかされた。
「世界が変われば、必要とされる個性(スキル)だって変わる。今は役立たずでも、いずれそのスキルが生きる可能性はある。でも、いつスキルが生きてくるかなんて、人間じゃ予測もつかないでしょう?」
「そう、ですね」
「なら考えるだけ無駄よ。自分の力がどう生きるか考えるよりも、そのスキルを自分がどう生かすか考えなさい」
ネイシスが腰に手を当て、胸を張る。
姿勢はちっとも神らしくないけれど、いままでにないほど神気が感じられる。
その威圧感に、透はぶるりと体を震わせた。
「人間の可能性っていうのは、無限大なんだから。あれこれ考えて手をこまねいて、自分の可能性を広げないのは損よ。失敗なんて考えないで、たくさんのスキルを取得しなさい」
「……はいっ」
「素直でよろしい」
ネイシスがうっとりするような笑みを浮かべた。
「それじゃあまたね☆」
ひらひらと手を振ると、停止していた世界の消失が再開されたのだった。
○
ネイシスから解放された後、東門から外に出て、一路ペルシーモがある山へと向かった。
道中、透はエステルの隙をうかがいながらスキルボードを確認する。
○ステータス
トール・ミナスキ
レベル:33
種族:人 職業:剣士 副職:魔術師
位階:Ⅲ スキルポイント:0
○基礎
【強化★】
【身体強化★】【魔力強化★】
【自然回復★】【抵抗力★】【限界突破★】
【STA増加+7】【MAG増加+7】
【STR増加+7】【DEX増加+7】
【AGI増加+7】【INT増加+7】【LUC増加+7】
○技術
〈剣術Lv5〉〈魔剣術Lv1〉〈魔術Lv5〉〈法術Lv9〉〈弓術Lv5〉〈合気Lv5〉
〈反撃Lv1〉〈対抗魔術Lv2〉〈回避Lv2〉〈察知Lv5〉〈威圧Lv5〉〈思考Lv5〉
〈異空庫Lv4〉〈無詠唱Lv4〉〈言語Lv4〉
〈鍛冶Lv4〉〈料理★〉〈調教Lv1〉
〈断罪Lv2〉〈口笛Lv4〉〈物真似Lv5〉
【魔剣Lv2】
○称号【ネイシスのしもべ】
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