第2話 転校生
澪と陸人が初めて出会ったのは、小学三年生の春だ。
澪が父親の転勤のために転校生として入ったクラスに、陸人がいた。
陸人は人懐っこく、誰とでもすぐに仲良くなれる少年だった。緊張してうまく喋ることの出来ない澪のことも気にかけ、事あるごとに手助けをしてくれた。
今思えば、澪の初恋は一目惚れに近いものだったに違いない。
陸人のお蔭でクラスに馴染め、澪は楽しい学校生活を送る。陸人とは好きなアニメが同じだったこともあり、よく一緒にアニメの話をしたりゲームやマンガの話をした。
それから一年後のある日の昼休憩終了後、澪の机の中に何かが入っていた。教科書を取り出そうとした時にそれに気付き、澪はその小さなものを手に取る。
「何だろ? ……これ、あのキャラの」
そこに入っていたのは、当時大人気だったアニメキャラクターのミニフィギュアだった。チョコレート菓子の中に入っているそれは、澪が一番好きなキャラクターでもあった。
しかし、澪は首を捻る。このフィギュアは、陸人がいつも持っていたものだったはずだからだ。それがどうして澪の机の中に入っているのか、見当もつかない。
「……?」
ふと教室を見回すと、陸人は自分の席で友だちと楽しそうに話していた。こっちを見る様子はない。
澪はフィギュアを大切にランドセルのポケットに仕舞い、誰にもその存在を離さずにいた。
「あ、中条ー!」
「ん?」
放課後、友だちと共に帰っていた澪を呼ぶ声が聞こえた。声の主を探すと、道路を挟んで向かい側の歩道で、こちらに向かって声を張り上げる少年がいる。彼の傍には他数人と共に、陸人がいた。
陸人は何故か少年の口を塞ごうとしていたが、面白がっているらしい他の友人たちにそれを阻まれているのが見えた。澪が首を傾げると、少年は尚も声を張り上げる。
「あのな、お前の机に何か入ってただろ? それ、大事にしてると良いことあるぞ!」
「――!?」
「ちょ、澪ちゃん!?」
突然走り出した澪に驚き、友だちが後を追う。しかし、澪はそれを気にする余裕もない。
何故なら、何を言われたのかわかってしまったからだ。
(あのキャラクター、
胸が痛くて、恥ずかしくて。澪はそれから息が切れるまで、通学路を走り続けた。
大人になっても、澪がそのフィギュアを大切にお守り代わりにしていることは誰も知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます