Day.5 そろそろヒロインが必要だと思わないか童て、いや少年

「要らない」


 ――……そ、そうか。



(Day.5___The Endless Game...)
















*****



 ――いや、終われない終われない終われない!

 まだ五日目は始まったばかりだぞ、少年! 神の許可もなく話を切り上げようとするんじゃないよ、見苦しいなあ童貞!


「だだだだだから、三十歳まではセーフだろうが!」


 ――何をそんなに狼狽している!?

 だいたい、その年齢制限リミットは「魔法使い」がどうとかいう迷信のことだろう?

 童貞だという事実はまったく変わらないじゃないか。出会って二日目に自供した事実を、今更覆そうとするんじゃないよ見苦しい。


 そもそも、この少年が童貞かどうかなど、私には何の関係もないことだ。

 私はただ提案したいだけなのだ。

 この全能たる神様わたしが創りし「最高の世界」に、少年に次ぐ第二の従属を今喚ばんと。



 すなわち――第二の「住民にんげん」を、喚ぶ頃合いではないかと。



「だから要らない」


 ――いや、要るだろう!?

 待て待て待て、だから話を終わらせようとするな少年!

 私はこの世界の「アダム」たる少年を思って、空気を読んで「イヴ」なる少女ヒロインの召喚を提案しているのだよ?


 確かに、少年は喚ばれた最初に宣言していただろう。

 この世界が完成するまでは、他の住人は連れてこないと。

 だが、見たまえよ今の有り様を。五日もかけておいて、創造したのが家ひとつ?


 ——永遠に完成しないわ、このままでは!


 そして、別に少女であろうとなかろうと。

 新たな世界に新たな生命を根付かせるのは、至極当然の行いではないだろうか。

 都市が「発電所」「水道」「ゴミ処理施設」の三種の神器なしには決して機能しないのと同じくらい、この世界には新たなる「住民にんげん」を必要としていると、なぜわからない?


 少年の次なんだから、「少女」で良いじゃん。

 もちろん私は非常に寛大であるがゆえ、最高の世界らくえんに招いておきながら果実を食べるなとか、意味のわからない制約も設けるつもりはございません。

 さあ、可愛いヒロインと一緒に、レッツ都市開発!


 しかし、少年は頑なに私の提案を拒んだ。

 私には少年がここまで嫌がる理由が分からなかった。

 そんなにも女性慣れしていないのか、この少年? それほど女性との関わりに不安があるなら、よしわかった、もうひとつ提案しようじゃないか。


 ――神様わたしが「少女ヒロイン」に変身しよう。

 しばしもの間、「都市開発」から「恋愛」シミュレーションに路線変更カテゴリチェンジだ!


「たったの五日でカテゴリを変えるな! そもそもお前は変身うんぬんよりも自分の『性別』の明言が先だ!」


 そうツッコミながらも少年は、両手で顔を覆っては。


「違う、違うんだ創造神。性別なんて関係ない」

 ――そ、そうなのか?

「俺は『人間』が嫌いなんだ」

 ――そ、そうなのか!? 自分も人間のくせに!?

「できることなら誰とも会いたくない。喋りたくない。関わりたくない」

 ——な、なぜ市長になった!?

「ましてや、こともあろうに『女』だと!? 論外だ! 女なんて嫌いだ! 俺の魂が穢れる!」

 ——まだ「少年」のくせにそこまで拗らせてしまったのか!?


 少年はそれはもう苦しそうで、その場で俯いては首を横に振っている。


 ……世界にしても、都市にしても。

 そこで暮らす生命がいないことには、すべての世界は始まりを迎えることができないはずだ。

 神様たる私とは普通に会話できていたのに、いったいどうしたというんだ少年。


 困ったなあと頭をかいていれば、ふと一つの疑問が浮かんでくる。

 ……待てよ、少年。私とは普通に対話できるということは。

 人間以外の生物であれば、問題がないということなのか?


「人間以外って、例えばどんな奴だよ」



 私は答えた。

 ずばり——「妖精」とか、どうだろう?



「……ふぇ、妖精フェアリー!? Reallyリアリー!?」


 妙に知能指数が高そうな駄洒落と共に、少年は驚いて私を見上げてくる。

 そうそう、その顔だよ少年。やっと私が求めていたリアクションをしてくれるようになってきたじゃないか。

 この少年、人間のくせに人間どうるいとは対話できないとか言い出したり、逆に創造神わたしや召喚魔法に対しては喚ばれた時点で慣れっこだったり、私の知る人間像とは少し、いやかなりズレた感性を有しているようだったからな。


 神様が実在しているのだから、もちろん妖精だって実在している。

 そして、この「最高の世界」にはやはり少年の次なる生命が必要であろうと、私が説得すれば少年は渋々了承したのだった。


 私は両手を天に掲げ、召喚の詠唱を大地に謳う。


 אתה לא תבגוד בי

(訳:お前は私を裏切らない)

 אני לא אוהב אותך

(訳:私はお前を愛さない)

 אתה עבדי הנצחי

(訳:お前は私の永遠の下僕だ)

 חירה טובה, החיים שלך

(訳:選択するが良い、お前の人生を)

 הדרך הנשגבת של "נשגב לה'"

(訳:「神への従属」という崇高なる道を)


 永遠に広がる大地の上で、召喚陣が展開されていく。

 妖精は私たち神にとって、人間と等しく従属すべき僕だ。

 この少年はなんだか生意気盛りで、むしろ私が従っちゃってる感が否めないが、今度こそはれっきとした私の下僕を喚びたいところだ。


 さあ出てこい、少年アダムのイヴなる妖精よ——!



*****



 こうして、私の世界へ新たに降り立ったのは。


「——あ、ちっす」


 赤いマニキュアに青いアイシング、緑のワンピースに黄色の靴。

 全身を黒服で包んだ少年とは打って変わって、その風貌だけで私の眼球を潰してくれそうな妖精が。

 髪にでかでかと飾られた、水玉模様のリボンをいじりながら。


「前いた世界とこの神がダルかったんで、こっちの召喚に応じましたあ」

 ——……。

「とりま、新しい家をおなしゃーす。最低でも『三高』で、じゃなかったらまじ移住パス決定なんで」

 ——……え、え。『三高』ってなに?

「標高が高い、造形デザイン偏差値高い、室内の魔力マナ含有量高い」

 ——……身長、学歴、収入の『三高』みたいに言うな!

「気に入ったら、あたしのダチとか彼氏とかもこっちに連れてくるんで。そんときは創造神、もっかい召喚おなしゃーす」


 ……人間の世界では、おそらくこういう種族のことを「ギャル」と称するのだろう。

 妖精を視界に入れた少年が、バタムとその場で失神する。


 私の世界、少年の都市。

 最初の「住民」となったのは、パリピ系ギャル族の妖精だった。



(Day.5___The Endless Game...)

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