負けヒロインじゃだめですか?

葉月琴葉

(物理的に)重い女じゃだめですか?

「次どこ行く?」

「キャハハ。じゃあ佐々木ちゃん家行っていい?」

「お?!いいねぇ来ちゃう?」

 幸せそうに話す男女がいた。それは良く見知った二人。そんな彼らを見ていると無性に虫唾が走る。

「ねぇ私じゃ…だ…」

 途切れ途切れの音声、意識が薄れていく。


 ピピピピピ

 脳裏に甲高い電子音が響く。

「起きて~!朝だよぉ」

 そう言って俺の眠りを妨げたのは隣の家に住む幼馴染の灯。

 灯とは家族ぐるみで旅行に行ったりする仲だ。

「ぅん起きてるよぉ」

 無意識でそんな言葉を返してしまう。意識は夢の中。

「起きて!!」

 灯はそう叫び俺の掛け布団を奪う、まだ肌寒い四月。

 温もりが恋しく俺は布団を奪い返した。

「ひゃっ!!えっ?ちょ、何して…」

 俺が奪い返したと思っていたのは布団ではなく灯だった。

「温かい…」

 俺は灯に抱き着いていた。

「でも重いな…」

「やっぱり起きてるじゃねぇか!!」

 灯は俺を投げ飛ばした。


「ごめんって朝のこと怒ってるの?」

 朝の通学路。灯を先頭にしてそれに俺が着いていく。

「怒ってないって」

 明らかに不機嫌な態度で灯は返す

「あれは布団にしては重いって言っただけで…灯はメッチャ軽いって」

「本当に…?」

 今日一番の食いつき。

「うん」

 俺は証明しようと灯をひょいって持ち上げた。

「え、っちょはーなーせー!」

 いきなり抱きかかえられた猫のように暴れだす灯。

「やめ、暴れるな」

 俺はそっと灯を地面に置いた。

 灯は身長145㎝と小柄。非力な俺でも軽々とはいかないが、持ち上げることはできる。

「あはは、ごめんごめん」

「軽いって言ってくれたから許す」

「まって、あれウチの制服じゃない?」

 それは今年から通う『幕山北まくやまきた高校』通称 幕北まくほくの制服を着た女子生徒。

「ほんとだ…」

 見つめていると、こちらの視線に気づいたのか振り返った。

 その時俺の周りの時間ときが止まったように感じた。

 なんと、振り返った女子生徒は美形の子だった。現代版「見返り美人図」と言ったところだろう。

 しかし、こちら(主に俺の事)を見てすぐに前を向き直した。

「わぁ美人さん芸能人かな?」

 灯はポカンとしながら言った。

「確かに芸能人みたいな綺麗さだったな」

「…さ、早く行こ!遅刻しちゃう!」

 灯は俺の手首を掴んで走り出した。時間に余裕あるけどなぁ。


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