口笛

酸性雨

怖い夢…?

 チュン、 チュン、  チュン…

毎朝、僕は目が覚めると口をすぼめてある練習をする。それは口笛を吹くことだった。

学校のクラスではだれもが口笛を吹いていたし、授業中に口笛を吹いて会話をすることが流行っていたのだ。 しかし父さんや母さんは、「口笛なんて吹くものじゃない。きっといやな夢を見るぞ。」と、いつも僕に言って聞かせるんだ。これだから父さんと母さんは頭が固いんだよな。怖い夢なんて、見るわけないじゃあないか。

 僕は今日もベッドのそばで口笛を吹く練習をしていた。どういう訳か、僕は口笛をなかなか吹くことが出来ない。いつも、「ヒュウ。」と口の中から何もない空気を弱々しく吹いているような音しか出ない。 僕は口笛を吹けないのが悔しかった。あともう一度、もう一度と自分の頼りのない口が音を掴めますように、と念力をかけてはこぶしを強く固く握りしめるのだった。そうしているうちに、僕はふと窓を見上げた。夜の空では、星たちが銀河系をくるくると楽しそうに回っていた。

「ピュウッ」

「え?」聞き間違えたのかと思った。

恐る恐る、先ほどと同じ口の形を真似てみる。

そして星に向かって、舌で空気を押すように発射させると、

「ピュウッ」  小さいながら、力強い音が出た。

ああ、なんということだろう。

僕の喉から、力強い音が、僕の音が、僕の口から、僕が息をしているこの静かな夜の一瞬に、小さな音の種を落としたのだ。思わず肩の力が抜けた。

ついに、ついに僕はやってやったんだ。

僕はこの幸せをじっくり味わいながら、この揺るがない事実を口にした。


『口笛が、吹けるようになった。』


続きます。

                   by 酸性雨

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